
じゃない方のたまご。ラーメンと固茹で玉子の幸福な関係 第1回
ラーメンとたまごの関係
日本の秋の風物詩であるお月見(中秋の名月)。それをフード業界が商品化したものは、これまでにもあったが、近年は「月見◯◯」が大いにブームだ。期間限定である時間的希少性が人を駆り立てるのかもしれないが、ハンバーガーや蕎麦うどんだけでなく、ピザやハンバーグに至るまで月に見立てたたまごが乗っかり、挟まれ、人気となっている。
その人気の原動力は言うまでもなく、黄身のトロトロが演出する(動画を含めた)ビジュアル全盛時代のニーズに違いない。
これはラーメンにおける半熟味玉トッピングにも同じことが言える。今回はそんなラーメンとたまごの関係について考えてみよう。でも、トロトロの黄身の味玉が乗っているお店を紹介して、わ~美味しそう~、なんて食べる前から結論ありきの安っぽい話ではない。熟考、もう少し掘り下げて、食べる楽しみを喚起させたい。
ラーメンは「ラーメンというひとつの種物」だと以前に書いた。チャーシューとメンマ。このあたりが大定番で、これらが揃うとラーメンだな、と認識される。
だが、近年、それに劣らない人気を誇るものが味付け玉子(味玉)で、冷凍食品のキンレイが2017年に行った調査によると
・好きなラーメンの具材ランキング
第1位: チャーシュー (16.6%)
第2位: 煮玉子 (13.4%)
第3位: ネギ (11.5%)
第4位: メンマ
・お店や家で「追加トッピング」する具材ランキング
第1位: 煮玉子 (26.0%)
第2位: ネギ (21.6%)
第3位: チャーシュー (21.4%)
と味玉への人気が高いことが分かる。チャーシューという準主役に次ぐ人気で、追加するなら味玉! という結果となっている。ただ、裏を返せば、玉子は最初から必ず乗っているわけではなく、故に追加ランキングで1位になっているともいえる。(アレルギーの問題もあるのかもしれないが)
では、果たしてたまごはラーメンにいつ、どんな意図で乗るようになったのか。
チャーシューは広東の代表的な料理、メンマ(麻竹の発酵食品)は台湾が有名だが、チャーシュー同様に華南の料理でもある。つまり、それを日本式のラーメンに乗せるようになったのは、ラーメンのルーツからして自然な流れである。ただ、海苔や青菜、そして、この玉子は日本独自のトッピングということになる。果たしてラーメン登場時に現在のような月見ブームがあったのだろうか!?
[東池袋大勝軒]の中華そば。予め半玉の玉子が入っている
鶏卵が日常的に食べられるようになったのは、開国後の話で、江戸時代はかなり高価だったという。となると日本蕎麦やうどんに(頻繁に)乗るようになったのも、明治時代以降ということになる。じきに1910年の[浅草來々軒]が誕生し、ラーメンは一気に普及していくこととなるが、蕎麦やうどんの影響を受けることもなく、むしろ“日本の麺文化とは違う”料理として人気を博していくことになる。
実際に戦前に開業した店の多くはラーメンにたまごを入れようとはせず、蕎麦で人気のあった卵とじも、 芙蓉蟹から影響を受けた天津麺が登場するのはもう少しあと、戦後のこと。
戦前のラーメンで思い浮かぶのは、1929年に開業した[銀座萬福]が創業時から三角形の錦糸玉子を乗せていたことだろう。値が下がってきていたとはいえ、高価だった鶏卵は一個丸ごとではなく、こうした形で提供することが庶民的な支那そばでは合理的だったのかもしれない。これは全国のご当地ラーメンをみても同じことがいえる。
[萬福]の中華そば
さて、ラーメンの月はどっちに出ている?
次回は、ラーメンにたまごが乗った時代から、その魅力を語っていこう。
- Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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