
小さな駅、美味しい町—Good Local Stations— 005
西小山のフランス料理店[caillou]で楽しむ、〆のカジュアルフレンチ
世界でも指折りのメジャー駅を擁するビッグシティ東京。でも、単路線で乗り換えのない小さな駅も数多く存在。そんな「小さな駅」にスポットを当て、ローカルな魅力溢れる美味しいお店と出会うシリーズ「小さな駅、美味しい町—Good Local Stations—」。
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📍駒場東大前駅
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独自のスタイルで、みんなが楽しめるフランス料理を
西小山には、特別な日のディナーにも、2軒目や〆にも通いたくなるフランス料理店がある。
駅の右側にある「西小山にこま通り商店街」。その入り口にある、複数の飲食店が入ったコンテナ型の施設に沿って歩くこと1分。メイン通りから外れた静かな路地に、一面ガラス窓の店が見えてくる。ここが今回紹介するフランス料理店[caillou](カイユ)だ。
中に入ると、スタッフさんが気持ちの良い挨拶で迎えてくれる。店内には和気あいあいと食事を楽しむお客が集まり、和やかな時間が流れている。温もりを感じる店内には、2人掛けのテーブルが6席、窓際には4人掛けのテーブル席、店の奥には個室もある。カウンターキッチンの両端にあるショーケースには、旬の食材がずらっと並んでいる。まるでマルシェに来たかのようで、わくわくが止まらない……。
木を基調としたインテリアを中心に、落ち着いた空間が広がっている。若手のスタッフさんたちが働く姿やチームワークも印象的。明るく気さくなサービスも人気の理由だろう
個室は黄色の壁とソファが可愛らしい空間を演出している。壁に飾られているのは「プロスペール・モンタニエ国際料理コンクール」の優勝賞状
星付きのフランス料理店で腕を磨き、フランスで最も権威のある国際料理コンクールでの優勝経験も持つ安達晃一さん。彼が2022年11月、西小山の商店街の一角で[caillou]の営業をスタートさせた。安達さんが振る舞う絶品料理もさることながら、一人ひとりの好みに合わせた料理を即興で作る独自のスタイルが、お客の心を掴んでいる。
オーナーシェフ・安達晃一さん。
大学在学中に京都のフランス料理店でアルバイトとして働く。その時に食べた赤ワインソースに感動し、料理人の道を目指す。カウンターフレンチとビストロの両店で働いた後、大阪のレストランへ。1年間のフランス修行を経て、恵比寿[ラ ターブル ドゥ ジョエル・ロブション]、日本橋[アサヒナガストロノーム]で腕を磨いた。そして2022年に独立し[caillou]を開店した
フランス料理と聞くと、「敷居が高い高級料理」をイメージする人は少なくないはず。入店するのも、食事をするときも、気づけばずっと緊張していたな……なんて経験がある人もいるのでは。しかし、[caillou]で過ごす時間は心地良い。
「格式高い店ともビストロとも違う、“フランス料理を気軽に自由に楽しんでもらえる店”が理想です」と安達さんは話す。この思いがあるからこそ、肩肘張らず緊張せず、フランス料理を楽しめる空間が生まれているのだと確信する。
通常ディナーはアラカルトのみ。自分で好きなようにコースを組むことができるシステムだ。まずは、ショーケースに案内され食材の説明を受けたら、気になったものを伝える。さらにその後、安達さんと相談しながら希望の調理方法まで決めることができるのだ。まさに夢のような食体験と言っていいだろう
[caillou]をより身近に
2軒目にも〆にもおすすめの「プティ・カイユ」
[caillou]を気軽に自由に、そして身近に感じてもらえる店にしたいという安達さんの思いが、今年4月からスタートした「プティ・カイユ」にも宿っている。
21時から23時限定で営業する「プティ・カイユ」。この時間は、ふらっと立ち寄れるフランス料理店へと姿を変える。17時からの通常ディナーと異なるのは、料理メニューとその価格帯。フランスのお惣菜や、魚や肉を使った一品料理を550円から味わうことができる。なんてお財布に優しすぎる価格帯だろう。
プティ・カイユを始めたきっかけについて伺うと、「いろいろな使い方で[caillou]に来ていただきたくて」と安達さん。ワイン一杯だけでもいい。もちろんお腹を空かせていくのも、お口直しのデザートを食べに訪れるのもいい。その時の気分やお腹と相談して、思うがままに訪れてみてほしい。きっとどんな気分でも上質な時間を過ごせるはず。
今回は「プティ・カイユ」おすすめの定番メニューをいくつかご紹介する。
「プティ・カイユ」限定の料理メニュー
まずは白ワインに合わせて「ラタトゥイユ」と「じゃがいものグラタンドフィノワ」を注文。[caillou]のラタトゥイユは、味に一体感と奥行きがある。玉ねぎ、茄子、ズッキーニ、パプリカを小さめにカットし、野菜ごとに焼いたり素揚げにしたり。野菜それぞれの特徴に合わせた抜かりない調理を施している。
ラタトゥイユ ¥550。日本人にとって馴染みのあるフランス料理の一つだからこそ、食べて感動してもらえる味わいを目指したという
「じゃがいものグラタンドフィノワ」は、可愛らしいサイズ感。香ばしい焼き目に食欲がそそられる。一口頬張るとじわ〜っとクリーミーな味わいが口いっぱいに広がる。濃厚だがくどさはなく、じゃがいもの甘さやほくほく感が際立っている。クリーンで清涼感のある白ワインとの相性は最高だ。
じゃがいものグラタンドフィノワ ¥550。他にも「レンズ豆のサラダ」や「白いんげん豆のトマト煮込み」が550円で味わえる
お皿の中央に鎮座したブロック型の大きなお肉。シンプルかつ大胆なビジュアルの「牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」を赤ワインと合わせて注文。ほどよい弾力の牛ほほ肉からは、噛むほどに旨みが出てくる。そこに赤ワインソースの甘さとコクが合わさり贅沢な味わいに。
牛ほほ肉の赤ワイン煮込み ¥1,430。香り高く深みのあるボディの赤ワインと合わせるのがおすすめ
「プティ・カイユ」には〆のご飯ものもある。フランス料理店では珍しい「スパイスビーフカレー」だ。6種のスパイスを使っているという本格派で、甘さとスパイシーさが心地よいバランスで調和している。驚いたのは、中に入ったお肉の正体。ディナーのスペシャリテで出している熟成肉と同じものだ。腕利きの手当てと目利きで知られる滋賀県の肉屋[サカエヤ]の新保さんから仕入れたもので、カレーには骨についているお肉や、手入れした際に出る筋肉などを使用している。その味わいにも、食材を余すことなく使う精神にも感動だ。
caillouオリジナルスパイスビーフカレー ¥1,100。シナモンやタイム、ローズマリーなどの風味が広がるワインを合わせると、カレーのアクセントとしても楽しめるそう
[サカエヤ]の熟成肉。営業時にはこちらの肉もショーケースに並んでいる
西小山に合った、親しみやすいフランス料理店
「開店当初、『どうして西小山で?』ってたくさんの人から聞かれました」と安達さんは振り返る。確かに当時、西小山の商店街にはフランス料理店がなかったのだ。
コンセプトやスタイルを決めた後、カウンターやショーケースを設置できるという条件で、場所を絞らず物件を探した。その時、たまたま条件が合ったのが今の物件。場所を見に訪れ、その都度街中をうろうろ。さまざまな年代の方が行き交うところや、下町感漂う街の雰囲気に惹かれ、西小山に決めたという。
「“高級じゃなくて、気軽に”っていう自分の思いと西小山が合っているなと感じたんです。でも、お店を始める前はもっと厳しい目で見られるんじゃないか不安だった部分もあります。『フレンチなんか無理だよ』って、実際に通りがかった人から言われたこともありました。でも本当にみんな優しくて、一緒に楽しんでくれてますね。心配していたよりも、すんなり温かく受け入れてくれたんです。しかも西小山にはフレンチ好き、ワイン好きの方が結構多くて。都心で揉まれて埋もれてしまうよりも、楽しみながら仕事がしたいという思いもあったんですよ。これは本当に毎日来てくださるお客さまがいるからこそ感じられてます。今が一番、僕は楽しいです」
西小山の商店街の片隅に、誰もが気軽に楽しめるフランス料理店を創り上げた安達さん。特別な日には、17時からのディナーを。とある夜には、プティ・カイユでワインを一杯。お客それぞれの楽しみ方が[caillou]にはある。きっと、もっとフランス料理が好きになるはずだ。
caillou
東京都目黒区原町1-7-9 ドゥーエ西小山 1F(Google Maps)
ディナー:17:00〜21:00LO
プティ・カイユ:21:00〜23:00
日・月定休
IG @caillou_nishikoyama
Photo by Tatsuya Hirota(写真 廣田達也)IG @pppanchiii
Text by Megumi Bunya(文 文屋めぐみ)
Edit by Yoshiki Tatezaki(編集 舘﨑芳貴)
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