小さな駅、美味しい町—Good Local Stations— 004

西小山[ホルモン焼 かっぱ]で味わう山形が誇るホルモンと人情のサービス


RiCE.pressRiCE.press  / Aug 5, 2025

世界でも指折りのメジャー駅を擁するビッグシティ東京。でも、単路線で乗り換えのない小さな駅も数多く存在。そんな「小さな駅」にスポットを当て、ローカルな魅力溢れる美味しいお店と出会うシーリズ「小さな駅、美味しい町—Good Local Stations—」。

これまでのエピソードはこちら👉
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003 美味しい手料理と心地良い時間が待っている、駒場東大前[akko]

002|西小山駅

2回に選んだ乗り換えのない駅は、東急目黒線が走る「西小山駅」。その歴史は長く、3年後には100周年を迎える。目黒駅までは3駅とほど近く、都心へのアクセスが良い。その上住環境も整っており、ファミリー層やサラリーマンから人気が高い街だ。

近年は街の再開発に伴い、目黒線は地下化、駅前には新たに広場や駅ビルができた。駅前の風景は進化を遂げる一方、昔から変わらず賑わうのは「西小山商店街」と「にこま通り商店街」。西小山を語る上では外せない、街のランドマークのような場所でもある。駅ができた昭和初期には「花街」として称され、今もなお活気に溢れている。そこには地域に根付いた老舗の居酒屋や洋食屋、気鋭の店やコンテナ型の施設が軒を連ね、どこか懐かしい雰囲気と現代的な要素が共存している。そんな魅力的な街、西小山にある注目の美味しいお店を訪ねた。

昭和33年創業、山形県の老舗焼肉店の味を西小山で

駅を出て左側にある西小山商店街に入ると、すぐのところにある[ホルモン焼 かっぱ](以下、かっぱ)。この店は、地元にあったら、いや、電車に乗ってでも通いたい焼肉店だ。

下町情緒が残る街の景観にふさわしい、温かく親しみやすい店構え

山形県は南陽市宮内にある老舗焼肉店[かっぱ]。そこの3代目・清水慶太さんが西小山の地で新たに店を開いた。以前は別の飲食店で働いていた清水さん。2代目である母の代で店仕舞いをすると知り、30歳を過ぎてから店を継いだ。創業者の祖母から肉の仕入れや管理などを学び、山形のお店に立つこと3年ほど。奥様が病気を患い、それを機に東京へ。東京や横浜など物件探しに回った後、知り合いの勧めで多くの個人店が軒を並べる西小山に辿り着いた。当時たまたま空いていたのが、戦前から建つ一軒家。傷んでいた骨組みを直し、お風呂場だった場所を墨小屋へと変え、2009年に晴れて店をオープンさせた。

店主・清水慶太さん

「東京でお店をやるのは初めてだったので、食べていけたらいいかなと思って始めたお店も、日に日にたくさんのお客さんが来てくれるようになって。あれよあれよと忙しくなっていきました」

店の噂はあっという間に広まり、遠方からのお客も増えていった。その理由は、山形県産の新鮮な肉と人情味溢れるサービスにある。

一階はL字のカウンター席。レトロで温かい雰囲気が漂っている

店の奥にある階段を上がるとテーブル席が6卓ある。随所に昔の趣が残っているからだろうか、実家にいるかのような安心感がある

中には常連さんが店用に描いてくれたというアートや清水さんのコレクションが飾られている

ホルモン好きを虜にする、新鮮な山形の肉

[かっぱ]の肉は全て山形県産にこだわる。東京に来てから一度は別の場所から仕入れてみたものの、やっぱり山形の肉が一番だった。山形時代にも取引していた長い付き合いの食肉卸売業者から仕入れた肉を、丁寧に仕込み管理する。先代が築き上げた関係性と技術があってこそ、この鮮度抜群の肉が提供されているというわけだ。

豚の内臓にはブランド名がついていない。「今後は内臓もブランド化される予定らしいです。そうすれば価値も少しは変わってくるんじゃないですかね」と清水さん

この日まず頼んだのは、赤、白、レバー、子袋の4種のホルモンが盛られた店の定番メニュー「かっぱ盛」。「コツは新鮮なこと! それだけですね」と清水さん。自信に満ちたその言葉通り、運ばれてきた肉は綺麗な赤色やピンク色をしていて艶があり、食べる前から新鮮なのが伝わってくる。

かっぱ盛 ¥1,815。この日は大腸、マルチョウ、豚タン、ハラミの4種。清水さんがぜひ食べてほしいと話す白飯も山形県産。「夢ごこち」という品種で甘くもちもちした食感が特徴

自分の好きなように焼くのも良いが、焼き加減がわからないという人には清水さんがついている! 「初心者さんや初めて来られた方には焼いてあげることが多いです」のお言葉に甘えて、この日は清水さんの腕に頼らせてもらった。「焼きすぎると固くなっちゃうからね」と、ささっと焼かれたホルモン。噛むたびに滲み出る甘い脂と心地よい噛みごたえ。卓上にある特製タレにおろしニンニクと一味唐辛子を混ぜて作る、清水さんおすすめのタレをまとわせれば、白飯がいくらでも進む味に。もちろんグビっと飲むビールも最高だ。

煙がもくもくと店内を覆い尽くすイメージの七輪スタイル。しかし[かっぱ]では、清水さんの友人お手製の排気フードが煙をしっかり吸ってくれるから、目が痛くなる心配なし!

次に頼んだのは「上ハツ塩」。驚くべきはその分厚さ。見た目もさることながら、その味わいも格別だ。豚は意外にも脂身が少ないため、焼きすぎると硬くなり臭みも出てしまうという。表面だけをさっと焼くのが清水さんおすすめの焼き方。間違いなく鮮度が良いからできる贅沢な食べ方だろう。柔らかくて歯切れも良く、後味はさっぱりとしているから何個でも食べられてしまう。

上ハツ塩 ¥990。通常はこの厚さだがご年配の方や希望がある方には食べやすい厚さにカットして提供してくれる。その優しさも愛される理由に違いない

肉の焼き上がりを待つ時間に食べるおつまみも欠かせない。キムチやナムルなどの定番も良いが、絶品ホルモンが揃う店の「酢もつ」は美味しくないわけがない。箸休めに頼んだつもりが、コリコリ食感がさらに食欲を掻き立ててくる。

酢モツ ¥500

山形県から仕入れる肉は、日によって部位も変わる。[かっぱ]には、出会えたらラッキーな必食のレアメニューもあるのだ。この日あった「豚レバタタキ」もそれにあたる。

1時間以内に食べてくださいね」と運ばれてきた豚レバタタキ。その断面は艶々で、鮮度が誇る見た目をしている。程よい弾力と滑らかな舌触り、凝縮された旨みが噛むたびに口の中に広がっていく。まさにレバーの既成概念を覆すような味わいだ。

豚レバタタキ ¥980

もう一つ、ボードに書かれていた謎のメニュー「闇肉の塩焼」もレアな一品。清水さん曰く、恐らく頬肉だという闇肉。誰もその真相はわかっていないらしく、その謎に興味がそそられる……。よく動かされた部位特有の抜群の歯応えがあり、噛めば噛むほど肉の甘みが感じられ、程よく効いた塩味がそれをより引き立てている。

闇肉の塩焼 ¥980

進化を続ける西小山で、変わらぬ味とサービスを

縁もゆかりもなかった場所で店を始めて16年経った今、街の変化を間近で見てきた清水さんに西小山について伺った。

「西小山には、純粋に食事を楽しんでいる方が多い気がします。個人店が多い分、やっぱり態度が悪かったり美味しくなかったりするとすぐにお店がなくなっちゃう。だからはっきりしてるんだと思います。電車が地下に入って、上を綺麗にしてから、ここ1,2年でスマートな街になった気がします。それから街に来てくれる方も増えたんじゃないですかね。実は、街の歴史を紐解くと闇な部分もあったんですよ。昔僕が来た16,17年前は、朝から酔っ払ってる人がいたり、変わった人が多かったり。それはそれで楽しい街だったんですけどね」

ひとりでじっくり好きな部位だけを堪能したい時も、みんなで網を囲みたい時も、どんな気分も受け止めてくれる焼肉店が西小山にはある。山形の肉への信念と人情のサービスが、多くのお客を西小山へと引き寄せているに違いない。ここでしか味わえない焼肉体験を求めて、西小山に訪れてみてはいかがだろうか。きっと最高な一日の締めくくりになるはずだ。

ホルモン焼 かっぱ
東京都品川区小山6丁目2−3(Google Maps
17:00〜23:00
火曜定休(不定休あり)
IG @kappa2391

Photo by Tatsuya Hirota(写真 廣田達也)IG @pppanchiii
Text by Megumi Bunya(文 文屋めぐみ)
Edit by Yoshiki Tatezaki(編集 舘﨑芳貴)
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