365日、ジュウニブン ベーカリーの杉窪さんが考える 

【潤いのレシピ】 水が決めてのパン・レッスン(特別編第3回)


PromotionPromotion  / Feb 10, 2021

有名シェフの素材への向き合い方を聞きながら、日々の食から暮らしに潤いを与えるようなレシピを朝・昼・晩と三食ご提案いただく連載企画【潤いのレシピ】。今回は「特別編」として、杉窪章匡さんによる「水が決めてのパン・レッスン」です。

[ジュウニブン ベーカリー]でも人気の「ジュウニブン食パン」。これをクリンスイの2種類の浄水器で作り比べるという本企画、前回は生地作りまでの工程をご紹介しました。

2種類の生地を成形し食パン型に入れて発酵させ、その後焼成に移ります。その間に、杉窪さんの「水履歴」を伺いましょう。最初に「水」を意識したきっかけは何ですか?

「僕が独立する前なので、およそ10年前のことですね。北海道のチーズ工房[共働学舎]を見学した時です。代表の宮嶋望さんに水のことを色々と伺ったんですね。水の違いでチーズの味も変わると聞き、実際に試食してなるほどと思って。その時に、ではパンに適した水ってどんなものだろうと考え始めました」

「そこで色々な浄水を試して、ある程度ミネラルを残した水でパンを焼いたらいい結果が出た。ところが同じ水でご飯を炊いたらいまいちだったりと、実験する中で、ものによって使い分けるんだなということがわかってきたんです。独立するときはパンを作る際の水のイメージが見えていました。水にもこだわろうと」

パン店の中には、特定のパンにのみ硬水を使ったり、特定地域のミネラルウォーターを使っている店もあります。「水にこだわる」ときに、あくまで東京の水道水をろ過した浄水を選択したのはどうしてでしょうか?

「地域性とか、地方料理ってあるじゃないですか。作物が育った水を料理に使ったり。その土地のもので作ると共通性が生まれ、バランスが取れますね。僕がある地域限定の材料のみを使うのであれば、きっとその土地の水を使おうと考えたと思います。でもうちは、例えば[365日]の場合、17種類の国産小麦を日本全国から取り寄せています。そうすると特定の産地を限定できない。これは日本中、世界中からあらゆるものが集まってくる東京の特徴です。だから僕は、あえてここの水を使おうと思いました」

最初は「国産小麦を網羅的に知っている人がいないから」自ら知るために日本全国の小麦粉を使い始めたという杉窪さん。しかし、それぞれの小麦粉の特徴を把握した今でも、全国の小麦を使い続ける道を選んでいます。 

「特に[365日]は、生産者さんと消費者さんの間に立つということを大切しています。僕らは、生産者さんたちのセールスマンという立ち位置。ちゃんと伝えていく役割があると思っています」

杉窪さんのお話を聞いているうちに「ジュウニブン食パン」が焼きあがりました!

パンを手で割るとバターと小麦粉のいい香り! パン生地の色味は、焼成前に比べて差を感じません。しかし早速、試食してみると取材陣からは戸惑いを隠せない声が挙がります。 

「ろ過精度が高いクリンスイのMP02-4 を使ったパンの方が、香りが薄い…!一方でMP02-2 を使ったパンの方が、バターの味を強く感じますね。コクもある」

杉窪さんはニヤリと笑いながら話します。「ねっ? 水だけでこれだけ違うんですよ。ここまで違うと、パンの美味しさって実は小麦よりも水じゃないの?とすら思えますよね」 

いや、脱帽しました。水のことを、どこかで侮っておりました。水が素材の味を引き出すとはよく聞くフレーズではありますが、本当に、水によって、食材の味が「変わる」のです。しかし雑味があったほうがおいしいのだとしたら、もっと雑味を増すなどの「水を攻める」アプローチはありなのでしょうか?

「雑味が増えると臭みなどになってしまう。そういう香りは要らないんですよね。ただし、ミネラルを人工的に添加できるかというアプローチは以前考えました」

ちなみに今、杉窪さんはpH(水溶液が酸性なのかアルカリなのかを数値として示したもの)をコントロールされていないですね。パンに影響はないのでしょうか?

「影響はあります。日保ちは当然、関係していますし。ルヴァンやサワードウなどの生地はpHの影響を受けます。うちもサワードウを使う時にはpHを測ってコントロールしています。ただ他のパンに関してはコントロールしていません。なぜなら[365日]も[ジュウニブンベーカリー]も、日保ちさせるパンではないんです。パンの大きさも小さく作って、今日買って今日食べきれるというパンにデザインしているから」

ところで、今回の2種類の水を使いました。ろ過精度の違いということになるかと思いますが、それは水中に含まれるミネラル分の違いなのでしょうか?

「いえ、原理的には、ミネラル分はろ過していないです。MP02-2、MP02-4両方の水に等しく、水中にマグネシウム、カルシウムが残っているはずです。ただ、水に溶け込んだマグネシウムだとフィルターを通過するのですが、固形の場合はろ過されて通過しません。浄水後の水を成分分析すると何かわかるかもしれません」そう教えてくれたのはクリンスイの担当者さん。

「マグネシウムとカルシウムを添加できる浄水器があれば試してみたいですね」と杉窪さん。「パリのパン屋では、水道水を使ってバゲットを焼いていました。水道管が真っ白になるような硬水です。それをろ過せず使うのですが、それで焼いたバゲットがびっくりするほどうまいんですよね。あの水で作ったらどうなるか、試してみたいです」

クリンスイでは現在、世界のシェフと、求める水質に合わせた装置の提案や味覚と水についての研究をしているそう。例えばニューヨークにいても、パリにいても、ここの水と同じ水が使えるという装置も夢ではありません。もちろんここ日本でもNYや、パリの水を再現することができるかもしれません。

「大きな声では言えないけど、僕、うちのパンが好きなんですよ(笑)。これまで日本のパンは外国の真似が多かったと思います。でも僕はだれかの真似が嫌なんです。日本の食材を使って日本のパンを作りたいと思って、これまでやってきました。僕が作っているのは、お米みたいな『日本のパン』、世界にないパンです。これまで国産小麦や水で色々と試してきましたが、アプローチの可能性はまだある。水の可能性も、もっと試していきたいですね」

杉窪章匡
1972年石川県出身。[365日][15°C] オーナーシェフ。辻調理師専門学校卒業後、パティシエとしてキャリアを積んだのち、パン職人に。2000年に渡仏、[ジャマン] や[ペトロシアン]などで修業し、2002年に帰国。複数のパティスリーやベーカリーでシェフを務めた後、ウルトラキッチン㈱を設立。
名古屋、福岡、神奈川にプロデュース店を手がけ、東京・代々木公園に自身の店[365日][15°C]をオープン。著書に『「365 日」の 考えるパン』(世界文化社)など。

CREDIT
Photography by Norio Kidera 
Text by Reiko Kakimoto
Edit by Shunpei Narita

Supported by 三菱ケミカル・クリンスイ株式会社

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