水野仁輔のスパイストリップ

「満月の夜に摘む紅茶」 in インド・ダージリン


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Apr 10, 2018

紅茶なのに緑茶みたいなフレーバーがして、僕は面食らってしまった。

ゴクリとやって薄黄緑色の液体が喉元を通り過ぎてた後、青く華やかな香りが鼻から抜けていったのだ。そのお茶の名前はダージリンのファーストフラッシュだという。れっきとした紅茶である。でも、緑茶のような味がする。マグロの大トロを食べた人が、「口の中でとろける~。牛肉みた~い!」とか言っているのを聞くと、「牛にもマグロにも失礼だろ」とか突っ込みたくなるくせにね。

紅茶にも緑茶にも失礼なことを言ってしまったから、というわけじゃないけれど、あまりのおいしさに「ダージリンに行かなくちゃ」と僕は思ったのである。取材させていただいたマカイバリ農園で僕を待っていたのは、色も風味もまるで違ういくつもの紅茶たちだった。

春先に作られるファーストフラッシュは、まだヤワで青々とした若葉を摘んだ高価なお茶。あれを飲んで以来、不幸なことに僕は都内でめったなことがない限り、紅茶を飲みたいと思わなくなってしまった。

コメディアンみたいに大げさなジェスチャーをする農園主は親切で、何種類もの紅茶を試飲させてくれる。ずらりと並んだ色とりどりの紅茶の最後の一杯に手をかけると、彼はその瞬間を待ち望んでいたかのようにこう言った。

「これはね、満月の夜に摘んだ茶葉だけを使っているんだよ」

自信満々といった具合にギョロリと目を光らせる。その目がまるで満月のようだった。

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