連載「クラッシュカレーの旅」#19

鍋中のロックンロールスター/大分・湯布院・石臼・叩き旅


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Mar 12, 2026

音楽が好きで暇さえあればずっと聴いている。

ジャンルは問わないけれど、どうやら1979年までの音楽が肌に合うみたいだ。ただ例外的に大学時代に写真部の暗室で聴いていた日本のバンド、「サニーデイサービス」の音楽は、今もずっと現役で聴き続けている。

音楽が好きで寝ても覚めてずっと鳴っている。

環境や音質は問わないけれど、個室で聴き入ったり、BGMとして流しているのが落ち着くようで、ライブに行くことはほとんどない。満席のライブハウスでどこにいてどうやって音楽を楽しめばいいか難しく、躊躇してしまう。

カレーを作るのが好きなのは、独りで鍋と向き合う孤独を楽しんでいるからなのかもしれない。

あれ? 俺、根暗なのかな。いや、「あれ?」ではない。自信を持って根暗だと言える。根暗で人見知りで内弁慶だと胸を張れる。ライブクッキングでは大勢の前でカレーを作るが、元来、ステージに立って注目を集めるのは苦手なのだ。

湯布院でクラッシュカレーのワークショップを行った。「みんなでやる」みたいな状況が楽しい。鍋やコンロ、石臼をいくつかのテーブルに並べていく。叩く食材をグループごとに小分けにしてラップにまく。リハーサルをしているような気分になる。

参加者がぞくぞくと集まってくる。時間が来て、クラッシュカレーライブが始まる。ドラムがリズムを刻み、ギターリフが追いかけ、マイクを持った僕がシャウト、……できるはずもない。

昨年末、サニーデイサービスのライブへ行った。いつぶりかわからないくらい久しぶりのことだった。自転車で向かい、会場のドアを開けたのは、スタートの1分前。入口のロッカー前でステージが見える場所に立った直後に1曲目。そこから3時間ほどは、あっという間だった。ときどき特別に好きな曲が始まると、全身に力が入り、心のシャッターを切りまくる。

クラッシュカレー作りにもいくつかのハイライトがあり、シャッターチャンスもちゃんとある。

なんといっても、石臼を叩くプロセス。石に石を叩きつける。何度も、何度も。慣れてくればリズミカルに音が鳴る。あちこちのテーブルでそれぞれの音がして盛り上がる。歓声が上がったりする。ライブのようだ。

叩き終えたら、石臼をゴムベラに変え、丁寧に丸め始めて香り玉を作る。先ほどとは打って変わってスローなテンポで、バラードのように優しく。球体は美しく、一度目のシャッターチャンスが訪れる。みんなが自由気ままに撮った。

香り玉を鍋に加える前に、ココナッツミルクの濃厚な部分を煮詰める作業がある。油分がにじみ出てきたら、香り玉を投入。今回は、各テーブルで叩いた赤の香り玉を大鍋に入れ、一度に加熱することにした。ココナッツの油に玉が溶け出し、香りと色が徐々に移っていく。

二度目のシャッターチャンスは、僕がタイミングを指定する。「ここ、この瞬間なんですよ」。余計なお世話だが大事なところ。みんなが一斉にスマホを向けた。鍋中のロックスターは気持ちよさそうに歌い続けていた。いい頃合いでココナッツミルクを投入。三度目のシャッターチャンスだ。それからは淡々と鶏肉などの具を加えて「赤のクラッシュカレー」は完成した。

アンコールの拍手に応え、「緑のクラッシュカレー」も作る。ハーブが爽やかに香る一品になった。

クラッシュカレーは、ほかのカレーよりも注目度が高いカレーだと思う。注目の集まる人気曲や誰もが盛り上がる名曲を持っている。見る者すべてがひとつになるような瞬間はクラッシュカレーならでは。香りの余韻が長いのも魅力だ。

サニーデイサービスのライブが終わった。入口付近にいた僕は人の波に押し出されるように外へ出た。何人かの仲間たちも同じライブ会場に来ているはずだったけれど、待たずに自転車にまたがった。胸を打たれたまま、余韻を抱えて街を走る。すがすがしい気分だった。

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