SUMMER FOOD TRIP #群馬編

[HEHE] 西脇あゆみさんと行く、前橋〜高崎めぐり


RiCE.pressRiCE.press  / Aug 11, 2026

東京から新幹線なら約1時間、在来線でも2時間ちょっと。夏休みに足を伸ばすのにちょうどいい、群馬県。

新幹線が停まる高崎は東京からのアクセスもよく、そこから少し足を伸ばせば前橋へ。どちらの街にも、個性豊かな飲食店が点在している。今回はそんな前橋・高崎を、食を目当てにめぐってみた。

今回案内してくれたのは、前橋でコーヒーとワインの立ち飲みができるお店[HEHE]を営む西脇あゆみさん。群馬生まれの西脇さんは、食べることがとにかく大好き。日頃から街のあちこちを食べ歩いている彼女にとっておきの店を選んでもらい、一緒に街を歩いた。

1軒目 シンキチ醸造所

まず向かったのは、高崎駅から歩いて約10分の[シンキチ醸造所]。酒場のすぐ隣に醸造所を構え、常時30種類以上のボトルビールと、5種類ほどのクラフトビールをタップで楽しめる。

店を営む堀澤さんは、[シンキチ醸造所]からほど近い場所にある、鮨と燗酒、ナチュラルワインを楽しめる[]の板前も務めている。ビールの醸造を始めた経緯を聞くと、「料理をに加えて、出すお酒まで自分で作って『美味しい』と言ってもらえたら、もっと嬉しいだろうなと思ったんです」と堀澤さん。

瓶ビールを注ぐ堀澤さん。客席のすぐ右側にはビールの醸造場がガラス越しに見える。

今回は、タップで「高崎ブロンド」、瓶で「やさしい悪魔」をチョイス。「高崎ブロンド」は小麦を使った癖のない一杯で、暑い日にごくごく飲みたくなる軽やかさ。フルーティーな香りもあり、重すぎない味わいが好みだという西脇さんにもぴったり。

「やさしい悪魔」は、酸を感じる味わいが好きな西脇さんに、堀澤さんがおすすめしてくれた一杯。「酸っぱいビールを作ろう」という思いから、ぶどうを使い、ギリギリまで酸味を引き出していて、まるでワインのような味わいに仕上がっている。

[シンキチ醸造場]のビールは、どれも綺麗さ、繊細さが段違い。沁みますね」と西脇さん。

料理を楽しむ西脇さん。

左から[シンキチ醸造場] の定番「煮込み」、「カツオ刺身」そして「高崎ブロンド」をタップで。「ビールはタップと瓶で飲み比べてみるのも面白いです」と西脇さん。タップは炭酸の強さや冷たさに加えて酸が際立つ一方、瓶はまろやかで落ち着きがあり、香りもより芳醇に感じられるそう。

料理には、赤城牛を使った牛すじや豆腐の「煮込み」、軽く漬けにした「カツオの刺身」を。カツオは軽く漬け込まれており、もっちりとなめらかな食感。シンプルな一皿ながら、板前でもある堀澤さんの技が光る。

フルーツやスパイスを使ったものなど、思わず飲みたくなるようなひとひねりあるビールがずらりと並ぶ。ユニークな名前は堀澤さん考案。「温かみがある名前をつけたい」という思いで11つ考えているそう。

元々8年ほど前から[シンキチ醸造所]に通っていたという西脇さん。最近では、[HEHE]のお客さんにも[シンキチ醸造所]の常連が多く、お客さんと一緒に訪れることもあるという。一方、堀澤さんが[HEHE]を訪れることもしばしば。「少し離れた[HEHE]への道中は、ビールの名前を考えることもあるんです」と話す。

前橋と高崎、少し離れた街の店同士でも、こうしてゆるやかにつながっているのだ。

2軒目 CROFT BAKERY

次に向かったのは前橋エリア。

パンが大好きだという西脇さんが、かつて働いていた店でもある[CROFT BAKERY]というパン屋へと足を運んだ。

店頭には季節の野菜や果物を使ったパンから食事パンまで、さまざまなパンが並ぶ。なかには、西脇さんが「ここ最近食べたパンのなかで一番感動した」と話す「わかめパン」(写真中央)のような、ちょっと珍しいものも。

[CROFT BAKERY]のオーナーでパン職人の久保田さんは、国内に限らずアメリカなどを渡り歩きながらパンづくりを学んできた。そんな久保田さんにとって、思い入れの深いパンが「タミ」だ。

「タミ」には、北海道・音更町の中川農場にて「Blé de Population (ブレ ドゥ ポピュラシオン)」という栽培方法で育てられた小麦を使用。複数の品種を無作為なバランスで一緒に育てる栽培方法で、これによって、その年の気候や畑の状態によって表情を変える小麦が生まれる。ワインでいうフィールドブレンドのように、その土地、その年ならではのテロワールを感じられる粉ができるのだ。

「タミ」。しっかりとした歯応えがあり、ぎゅっと詰まったような食感。噛むほどにしっとりとした口当たりと、麦の香りがいっぱいに広がる。素朴ながらも味わい深いパンだ。

「異なる品種が共生し、分化しながら音更の土地に適応していく。中川農場でそんな小麦たちの姿を見た時、民藝の世界で言う『アノニマスデザイン』が思い起こされたんです」

「アノニマスデザイン」とは、特定の作り手がデザインしたものではなく、長い時間をかけて人々の暮らしのなかから自然と生まれ、受け継がれてきたもの。さまざまな小麦が混ざり合い、その土地に馴染んでいく中川農場の小麦にも、そんなあり方を感じたという。

パンの仕込みをする久保田さん。

「タミ」は中川農場の小麦だけでなく、さまざまな小麦を混ぜることで価格を抑えている。手に取りやすい、人々の日常のパンでありたいという久保田さんの思い、民藝の「民」、そして「混ぜてふるう」を意味するフランス語「tamiser(タミゼ)」から名付けられた「タミ」。

いくつもの小麦と、そこに込められた思いが、ひとつのパンにぎゅっと詰まっている。

3軒目 HEHE

[CROFT BAKERY]のパンを抱えて向かったのは、西脇さんが営む[HEHE]。お気に入りだというクロワッサンにコーヒーを合わせてひと休み。 

[CROFT BAKERY]のクロワッサンは、久保田さんがアメリカにいた頃、現地のコーヒーショップに卸すパンとして考案したもの。「しっとりしたバター感があるものや、はらはらとした繊細なものとも違う。バリバリっとしたレイヤーを感じられるクロワッサンです。単体だと少し乾くけれど、コーヒーと合わせるとちょうどいい、という感じにしています」と久保田さん。

[HEHE]で提供しているコーヒーは、福岡のロースター[COFFEE COUNTY]の浅煎りの豆を使用している。ある朝、ふと飲んだ[COFFEE COUNTY]のコーヒーのおいしさに感動し、「毎日このコーヒーが飲みたい」と思ったことをきっかけに、その味にすっかり魅了されたそう。

ペルーのアイスコーヒーに合わせたのは、分厚く大きい「バナナブレッド」。[HEHE]の焼き菓子は全て西脇さんの手作り。

ほかにも、ワインは山梨・北杜の[Wine Shop Soif]から仕入れたもの。西脇さんが店舗に行った際、どのお客さんにも惜しみなくワインのことを教える店主の姿にワインへの深い愛情を感じ、惹かれたという。パンは、清澄白河の[CIEST]から。こちらも西脇さんが通い詰めるほど好きになった店だ。

どれも、西脇さんが自分で足を運び、食べたり飲んだりしながら見つけたものばかり。[HEHE]は、そんな西脇さんの「好き」を集めた店なのだ。

コーヒーは11杯ハンドドリップで丁寧に淹れてくれる。

もともと、人が集まる場所をつくりたかったという西脇さん。自分の「好き」を深く掘り下げる一方で、その魅力を誰かと分かち合うことも大切にしている。

「地元の人に、コーヒーやワインをはじめとした『いいもの』を知ってほしいと思っています。自分でその魅力を深く知っていくのも好きだけど、誰かと一緒に味わって、楽しむことにこそ豊かさがあると思うんです」と語る。

店内に流れるのは、西脇さんが京都のレコードショップ[Meditations]から選んだレコード。心地よい音楽が、店の空間を包んでいる。

実際に[HEHE]には、飲食店を営む人や食に関心のある人が多く訪れる。食を深く知ろうとする人たちは、自然と似たものに惹かれるのかもしれない。店主同士で互いの店を訪れたり、西脇さんがお客さんと別の店へ出かけたり。[HEHE]が拠点となって、店や人のつながりがゆるやかに広がっている。

[HEHE]は群馬で何か面白いものに出会いたいとき、まず訪れたくなるような、街の入口のひとつになっている。

4軒目 CASA FRESCO

夜になり、最後に向かったのは、前橋の中心街に位置するスペイン料理屋 [CASA FRESCO]。都内のスペイン料理屋で修行を重ねてきた野口シェフが営むお店だ。

[CASA FRESCO]の魅力は、食べたことのない魅惑的な料理があることだという西脇さん。
「『なにそれ食べてみたい!』というワクワク感を味わえるお店です。なにを食べても美味しいお店なので、安心してワクワクできます()

上から時計回りに「カツオのマルミタコ」、「焼きとうもろこしの冷製スープ」、「上州麦豚のピンチョモルーノ」

この日いただいたのは3品。まずは、バスク地方の夏の定番料理「カツオのマルミタコ」。ジャガイモと魚を主役にした、いわば魚じゃがのような一皿だ。大きめにカットされた具材がごろごろ入る見た目とは裏腹に、口にするとスモークパプリカの香りとカツオの出汁が上品に広がる。

そして「焼きとうもろこしの冷製スープ」は、焼いたとうもろこしに塩とバター、水だけを加えたシンプルな一品。だからこそ、とうもろこし本来の甘みや旨みがまっすぐに感じられる。

「ピンチョモルーノ」には、群馬県産の上州麦豚を使用。スパイスに漬け込んで焼き上げた豚肉の下には、[CROFT BAKERY]のパンが添えられている。実は野口さんも、かつて[CROFT BAKERY]で働いていた経験があるという。こんなところでも店と店とのつながりが垣間見える。

シェフの野口さん。

食べたことのない料理に出会う楽しさの中にも、地元の食材や、街の仲間たちがつくるものが息づいている。その両方を味わえる[CASA FRESCO]は、前橋の夜を締めくくる一軒として、心地よく記憶に残る場所だった。

お店を営む野口夫妻の遊び心が随所に感じられる店内。

今回、前橋と高崎を案内してくれた西脇さん。彼女を通して見えてきたのは、個性的な店が点在し、それぞれの作り手が自分の「好き」を大切に育てている街の姿だった。

群馬には、都会のようなスピード感とはまた違う、街を歩きながら少しずつ出会いを重ねていける心地よさがある。食を目的に巡る夏休みの旅先として、前橋と高崎を訪れてみてはいかがだろう。

シンキチ醸造場
群馬県高崎市若松町2-11
月木金17:00-22:00
土日13:00-20:00
@shinkichibrewery

CROFT BAKERY
群馬県前橋市日吉町2丁目5-1 みずき館 1F
11:00-17:00
日、月、火曜定休
croft_bakery

HEHE
群馬県前橋市大手町2丁目11-27
7:30-21:00
@hehe_maebashi

CASA FRESCO
群馬県前橋市千代田町3丁目5−10
18:00-23:00
@fresco_jp

Text&photo by Ofuchi Maho (写真・文 大渕真歩)

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