
西荻窪で、日々に寄り添う
町のお店 [町屋 楪]
「店名の由来はおばあちゃんのレシピ本なんです。」
そう話すのは、25歳の店主・椙谷果林さん。[たべごと屋 のらぼう]での4年間の勤務を終え、今年5月、西荻窪に自身の店 [町屋 楪]を開いた。
「楪(ゆずりは)」とは、新しい葉が育ってから古い葉が落ちることから、代々受け継がれていくことを象徴する縁起のよい植物のこと。祖母から母へ、母から子へと受け継がれていく味を、祖母のレシピ本に重ねて名付けたそうだ。
さらに果林さんは、“家庭の味”だけではなく、農家をはじめ、店に関わるさまざまな人の思いも、この場所を通して伝えていきたいと話す。

いわゆる「飲食店」という印象を強く出したくなかったという果林さん。「楪」の前に添えたのは、「町にある店」という自身なりの意味を込めた“町屋”という言葉だった。
農家から直接野菜を仕入れる現在のスタイルには、[のらぼう]での経験が大きく影響している。
[のらぼう]の店主は、基本的に自分の目で見たものだけを仕入れていたため、市場や畑へ自ら足を運ぶことも多かったという。果林さんも今、店から15分ほどの場所にある農園を訪れ、その日の野菜を自分で選んでいる。
朝から夕方まで、時間を問わず注文できる食事は、楪セットとバゲットサンドイッチ。

楪セットには、スープと[えんツコ堂]のグラハムトースト、4種の副菜がつく。この日は、紫キャベツと鶏むね肉のレモンマリネ、万願寺とうがらしとしいたけのトマト煮、焼き白茄子、蒸した朝どれのトウモロコシ。
中休みを設けず営業しているため、お昼を食べそびれた15時頃でも、がっつりごはんにありつけるのがうれしい。
11:00〜14:00のランチタイム限定で提供されるのは、季節のまぜごはんセット。まぜごはんを定番にしている店はそう多くないが、果林さんは間借り営業の頃から作り続けてきた。
このスタイルを始めた理由を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「季節のものがぱっと器に盛られている感じが、畑をそのまま見ているみたいで好きだったんです。あとは、お客さんが頬張って食べている姿を見るのが、なんかいいなと思って」
料理の説明をしているはずなのに、その言葉には果林さんの人柄がにじんでいる。

どんぶりだけでなく、スープが付いてくるのもうれしい。
そして酒飲みとして何といってもうれしいのが、14:00から軽めのおつまみが頼めること。
昼休みがしっかり決まっているタイプの労働人生ではないので、お昼は遅くなることが多い。ただ、夜には大体ごはんの予定があるし、あんまりがっつり食べちゃうと響く。でも、甘いものとコーヒーで終わらせる気分でもない。
そんな状況が頻発するのって、きっと私だけじゃないはず。
あまりよくないとは思いつつ、昼の一杯はどこかノーカウントのような気もしている。
野菜をつまみに、15時や16時からちびちびとお酒を楽しめる店は、意外と少ない。

ビールは、凍らせた備前焼のタンブラーで。器を冷やすことで、泡がきめ細かくなるという。
とはいえ、先ほどは甘いもので終わらせる気分ではないと言ったものの、[町屋 楪]のおやつはお酒との相性もいい。
近所の[まめなとうふ店]の豆腐を生地に練り込んだ「お豆腐とくるみのパウンドケーキ」は、バターを使わず、ふんわりと軽やかな仕上がり。
「スイーツというより、“おやつ”という名前がぴったりなんです」
果林さんのその言葉にも、気取らず、日々の暮らしのそばにあるものを作りたいという店の姿勢がにじむ。

パウンドケーキは、自家製のアイスクリームを添えるのがおすすめ。
一緒にいただいた「みりんサワー」は、甘酒や梅酒に近いニュアンスがありながら、レモンの酸味で爽やかな味わいに。甘さがくどくなく、食事にも合わせやすい。

店主の椙谷果林さん。
「早くお店をオープンした代わりに、いろいろな人と比べると、まだ自分の引き出しはすごく少ないと思うんです。今できることも、たぶんほかの人よりずっと少ない。でもその分、少し違う形態でやってみたり、飲食以外の部分でも、“この場所、よかったな”と思ってもらえるようにすることを、一番心がけています。」
おいしい店は、世の中にたくさんある。
だからこそ、「すごくおいしかった」と帰ってもらえることはもちろんうれしいけれど、それ以上に「あの時間、楽しかったな。よかったな」と思ってもらえる場所にしたい。
それが、今の果林さんが[町屋 楪]で目指しているものだ。
町屋 楪
東京都杉並区西荻北4-4-1 KITAYON 102
9:00~18:00
木・不定休
IG: @yuzuriha_machiyaPhoto by Kumi Nishitani(写真 西谷 玖美)@__umum
Text by Terra Owen
RiCE.press
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