連載「Gluten is Free!? 小麦は自由だ!!」#5

南青山[panya]が広げるもっと自由な”パン呑み“体験


Yuki HanaiYuki Hanai  / Oct 19, 2026

自他ともに認める小麦ラバーの私。連載5回目にして、禁断の一手を打とうとしています。そう、今回取り上げるのは小麦粉ではなく米粉のパン。

実は私、小麦愛が強すぎるあまり、米粉などは小麦の代替品の印象があって、その素朴なイメージからどこか遠ざけていました。でも出会ってしまったのですよ。代替品ではなく、純粋に美味しさで米粉という選択をしたいパンに。小麦ラバーの私がたまげた米粉パン、“小麦連載禁断の番外編“ということでお楽しみください。

そのパンに出会ったのは南青山にある[panya]。店名を“パン屋”と名付けていることからも、“米粉だから”“小麦だから”という線引きがないことが伝わってきます。ただ美味しいパンが米粉だった、というスタンスを感じずにはいられません。

南青山・骨董通りから細く伸びる小道を抜けた先にひっそりと現れる、小さな中庭のような空間。テラスもあり、秘密基地のような場所にお店の入り口はあります。

美味しいもの好きの友人のSNSで見かけた、南青山という場所に似合うセンスのいい店内とふっくら美味しそうなパンやワインの写真にそそられたのが出会い。パン呑みのお店としてフォローし、米粉パンの店だと知ったのは後のこと。

小麦の香りは錯覚!?米粉のベーコンエピ

私がまず衝撃を受けたのが、こちらの「ベーコンエピ」。見た目はもちろん、食べてもこれが米粉とは甚だ信じられない。カリッと、パリッと、クラスト(皮)は際立ち、内側はふわっと。小麦の香りがしてくるわけないのに、どこからやってきたのか、香ばしさを感じます。この香ばしさは小麦粉の専売特許じゃなかったのか!?リベイクされて立ち昇る、少し焼き餅にも似た香ばしさと風味が、なぜかベーコンエピらしいあの香りだと錯覚してしまうのです。

その先にやってくるのは、もちっと感。冷めていくとさらに強くなるもちっとした引きはお餅のようでもあり、香ばしさと相まって焼き餅感高まりけり。実はお餅も大好きな私としては嬉しいサプライズでした。

“どうして米粉で、ベーコンエピを作ろうと思ったのだろう?”

この米粉パンを作るのが、荻原美和さん。今回は萩原さん、そして[panya]のオーナー佐々木芳幸さんにもお話を聞くことができました。

お酒に合う+挑戦心がくすぐられ

萩原さんの米粉パン作りは、趣味からのスタートだったという。体質的に小麦が合わず、食べるのを控えていたある日、どうしてもパンが食べたくなった。そんな時、書店で目に飛び込んできたのが、米粉パンの本。萩原さんは会員制のワインバーを経営されておりお酒好き。

せっかくなら“お酒に合うパン”を作りたい。中でもその独特な特徴ある形に挑戦心をくすぐられ、選んだのが「ベーコンエピ」だったそう。

ワインバーのメニューとしてではなく、あくまで趣味の延長でお客さまや友人に振る舞ってみると、とても喜ばれ、お酒との相性の良さを実感することとなりました。

「お腹いっぱい」と言っている人も、一口食べたらぺろっと一本食べられてしまう。パンが得意ではない人からは「これなら食べられる」ってお声も。嬉しくていろんなパンを作るようになっていったそう。

[panya]ができる前から3歳くらいの子どもから60代の人まで、幅広い人に喜ばれていたよねって隣で聞いていた佐々木さんが頷きます。実は、佐々木さんもパンを好んで食べていなかったそう。でも萩原さんの米粉の「ベーコンエピ」のおいしさに衝撃を受け、可能性を感じたと話します。

始まりは本のレシピから始まった米粉パン作りでしたが、米粉と一言で言っても何十種類もあり、粉の種類によって大きな違いがある。

様々な種類の米粉で試してみてこれだ!というものを見つけ、次は砂糖を変えてみよう、焼き時間や発酵時間は粉によって大きく調整が必要だ、と手探りで試行錯誤している間に、気づけばその面白さにどっぷりハマり、日課のように焼いていくうちに感覚を掴んだのだとか。

まさか、毎日焼くようになるとは思わなかった、と笑う荻原さん。

感覚は体で覚え、掴むもの、と聞くと音楽にも通ずるものがあるなぁとお二人の話を聞いていて思いました。数字やレシピだけではなく、何度も繰り返すことで、身体の感覚として覚えていく。

“今日のパン“のための調整の毎日

「毎日、発酵時間も変わるし、温度も変わる。湿度も見ながら、水分量も調整していくんです」

パン職人さんに話を聞くとみなさま、日々の温度や湿度に合わせて感覚的に調整していることを感じる。それは米粉パンでも同じ。

荻原さんも掴んだ感覚を大事に、日々変わる湿度や温度を加味して繊細に調整を加えます。オーブンも、温度調整はもちろん、何分間何度で焼いて、何分間風を送り乾燥させるか、細やかに設定が必要。何度もトライし、調整して、の繰り返し。毎日使う米粉や材料の性質と発酵の状態を見ながら、“今日のパン”をつくっていく。米粉パンと小麦のパンの違いを聞くと、「温かい状態で食べてほしい」とのこと。

「ご飯と一緒で、あっためないとおいしくない。だから一番いい状態でお出しできる、お店で食べてもらえるのが一番美味しいです」

佐々木さんも荻原さんも、強くうなずく。言われてみたらお米は確かにそうだ。炊きたては何物にも変えられない美味しさの高揚感があるのと同じで、米粉パンにも“その瞬間”があるということ。焼き上がりの状態まで含めて、パンを届けたいという思いが伝わってきます。

カンパーニュを食べていたら、「ご飯」に見えてきた

もう一つの看板メニューは「カンパーニュ」。パンの繊維ひとつひとつが水分を抱え込んで、ふっくら立ち上がったその軽やかなふくらみは、驚くほどふわっと軽い。こちらも後から追っかけてもっちり感がやってきます。断面は、抱え込んだ水分によるものなのかきらきらと輝いて見え、ちゃんとカンパーニュらしいハードな焼き上がりの風味と香ばしさを感じます。

カンパーニュに添えられるのは、自家製の海苔バター。米粉パンに、おにぎりの発想で海苔を合わせるのはどうだろう?と生まれた組み合わせは、抜群の相性を見せつけます。パン×のり×バターと捉えると、少し意外にも感じますが、お米と海苔。そう考えると、むしろ安心・最強のタッグ。

すると、佐々木さんがカンパーニュをじっと見つめながら「パンだけど、米粉として、お米として捉えるともっと自由になれるはず」と身を乗り出しました。

世界で一番消費されている炭水化物である”小麦”は、パンはもちろんパスタにもピザ、うどんにも流用性があって、あらゆる国と文化に自由にアレンジされる懐の大きい炭水化物。米粉にもその可能性があると佐々木さんは考えます。

とはいえ日本の米は「ご飯」や「日本食」という枠の中で考えられることが多く、「日本の米」と捉えた瞬間に、そのイメージからはみ出るようなもの、カリフォルニアロールや、海外の謎日本食はNOと言われ、何故か自由じゃない炭水化物になっている。

でも、本当はもっと自由でいいはず。子どもの頃、冷凍庫や炊飯器に残っているご飯に、冷蔵庫にあるものを乗せて食べていた。それだって考えてみれば、パスタのようなもの。おにぎりだって残り物のおかずで作ったり。お米も、米粉という文脈で捉えたらピザにもうどんにもなることができる。

だから米を、パンという“媒体”にして、海外も視野に広げていきたいと、話は展開していきます。

目の前にあるこのカンパーニュが、あら不思議。世界に繋がる扉に見えてきた(想像力豊か)。そして、なんということ。

「ご飯に見えてきたー!!」

米粉でパンを作ることは、小麦パンの代用品を作ることではなく、米に新しい食べ方の可能性をつくることなのだ。

佐々木さんは続けます。

世界的に日本食はインプレッションが高く、お米の持つチャンスがまだあるんじゃないかと。日本米や日本食を”ブレッド(米粉パン)”という形にしてメディア化していくことで、何にでもなれる存在にしていきたい。そして、この”panya”がそんな実験場になっていけたらいい。

お米との新しい出会い

[panya]が作っているのは、小麦パンを米粉で代用したものではない。むしろ、米だからこそ生まれる食べ方。

人気メニューのコロッケももちろんnon小麦粉。衣は手作りした米粉のパン粉で作られています。その衣のカリカリと軽快な響きのことよ。俵型のコロッケに纏わされた衣はごく薄く、カリカリ食感。米粉の良さであるおせんべいのようなカラッとした口触りです。そんな衣を突破した中は相反してとろとろのお芋。黄色味を帯びた豊かなお芋の甘みの秘密を聞いてみたら、熟成芋を使っているのだとか。そして実はお芋と一緒に主役を張るのは牛肉。コロッケでよくあるドライなミンチとは全くもって異なり、すき焼き風の甘めな味付けに引き出された牛肉の旨み甘みが隠せません。「いい牛肉使っちゃってます」ってコソっと教えてくれた。ワンハンドでぺろっと食べられちゃう手軽さと裏腹な、贅沢コロッケなのであった。

大人も子供も誰もが平等に楽しめるもの

[panya]が100%米粉を軸にする背景には、「みんなが楽しめるパンにしたい」という思いもあります。米粉だと老若男女誰でも食べられる。例えば大人数や家族で食事をする際に、パンを食べたい子もいればうどんやパスタを食べたい子もいる。反対にアレルギーで小麦を食べられない子もいる。そんなとき、どうしても選択肢が限られてしまう。米粉パンなら、その間をつなぐことができる。

荻原さんが最初に米粉パンを作ったとき、幅広い年齢の方々の喜びの声が自然と集まったことも、今の[panya]につながっているのかもしれません。

panyaは「米を自由にするための実験場」

「実験する場所」。佐々木さんは、[panya]をそのように捉えています。

レシピは日々厨房で生まれる。荻原さんが厨房に入ってシェフと一緒に料理とのバランスを考えながら、日々考え新しい米粉パンのメニューを生み出している。料理はシェフや店長さんなどを中心に、日々仕入れする食材などに合わせて自由に創作されているのだとか。毎日毎日変わるからメニューは手書きで書くとのこと。来るたびに新しい気がするのはこのライブ感のおかげなのですね。

実験的な場所にしていきたいから、働いている人もどんどんトライできる環境に。佐々木さんや萩原さんのチェックを入れるのではなく、働いている人に委ね柔軟に変化していく。

その柔軟さにも、[panya]の目指す “実験の場にしていきたい”が現れています。

ホームパーティのような時間に

そもそも佐々木さんと荻原さんが出会ったのは、約8年前。荻原さんのワインバーで知り合い、近所に住んでいたこともあって、ホームパーティーをするようになったそう。荻原さんが作った米粉のパンを中心にみんなで料理を作り、みんなで飲む。今振り返ったら、試作が始まっていたよねって顔を見合わせるお二人。

[panya]の原型がここで出来上がっていたのでした。

まだ陽の残る夕方から行ける、食事とお茶の中間的な楽しい飲みができるお店があったらいきたいよね、って盛り上がったそう。

お店ができるきっかけには、佐々木さんの娘さんの存在もあります。キッザニアで人気のパン屋の仕事体験に参加できなかったことから、家でピザやパンを作って遊ぶようになったところ、小麦アレルギーの子供がいて参加できない子がいた。その中で荻原さんの米粉パンに出会ったことで、この[panya]へと繋がっていく。お店の開店前には、子ども向けの米粉パンのワークショップも行ったのだとか。

お店と公園の間に

そして店作りでは「公園」のような空間を目指しています。

中と外の境界を曖昧にして、テラスでは子どもが遊び、その横で大人がワインを飲む。

大人のための店でも、子どものための店でもない。その間にある場所です。

壁や床などに使われるもの全ては土とか木とか日本の本物のリアルな素材で統一。壁は地方の土を使って、ニュアンスを統一させるために1人の左官職人さんに全部の壁を塗ってもらうこだわり。

床はタイルを使いで贅沢に。

こだわり抜かれた内装デザインの中に、見え隠れする遊び心には、実は子供の視点がプラスされています。箸置きやメニュー立てが本物のパンになっていたり、オブジェのように置かれた小さな小さな椅子があったり、照明が○△□だったり。子供があれ見て!って言いたくなるような、遊び心がこぼれます。そういう会話が生まれたら楽しいなと、内装のディレクションもされた佐々木さんがデザイナーさんと一緒に作ったこだわりの店内です。

お店の入り口へつながるスペースは、公園みたいだ、と内見した時に感じた直感を大切に、店内と店外の境界線を崩していくイメージで組み立てていったそう。大人が店内でワインを楽しみながら、外のテラスで子供が遊ぶ、店と公園の間みたいなお店が完成しました。

繋がりが産む豊富なドリンクメニュー

“パン呑み”を楽しむドリンクメニューはどういったものが揃っているのでしょうか?

カジュアルワインはナチュラルワインや国産ワインが中心で、お客様の要望に合わせてシャンパンなどもラインナップ。クラフトビールはなんとオリジナル!他の店と同じものを置きたくない、と佐々木さんの地元の函館でオリジナルの物をつくっているのだそう。

萩原さんのお知り合いの女優の小林涼子さんが作っているビールを揃えたり、アルコールが苦手でも“パン呑み”の雰囲気が楽しめるノンアルコールのアップルジンジャードリンクは、佐々木さんの社員のクリエーターさんが作っていたり。ドリンクのセレクトにも”panya”だからこその、顔の見える、繋がりから育まれたオリジナリティが光ります。

「なんか始まっている」が一番贅沢

北海道出身の佐々木さん。学生起業して広告やクリエイティブの会社を立ち上げ、今ではロンドン、ニューヨーク、パリなどにも会社があり、クリエイターを抱える大きな会社を率いている佐々木さんですが、飲食は完全に初めて。

よって、「なぜこの店をやるのか」「コンセプトは何なのか」と聞かれることも少なくないそう。でもね、って佐々木さんが続けます。

 “一歩踏み出して形にして、始めることに勝るものはないなと思っている”。

この言葉には、私自身もグッときてしまいました。今の時代、リサーチのハードルが下がり、つい「何のためにやるのか」「誰に向けているのか」「どう見せるのか」を先に決めたくなり、頭でっかちになりがちです。
”
みんなで(気持ちのままに)なにか始まっているって僕は1番贅沢な行為だと思っている”と。最初から目的を決めて動けなくなるのではなく、人が集まって、何かが始まって、そこからまた新しいものが生まれていく。

もちろんそれには責任も伴うから、夢だけじゃなく、考えていかなきゃいけないけれど、これからパンをどんどん作って変化していかなきゃいけないし、粉のことも向き合い続けないといけないと、ってみんなでそう強く思ってやっています”、と荻原さんの強い決意が言葉の端々から伝わってきます。

一度食べてもらえれば、リピーターになってくれる人は多い。米粉だから体にとっても小麦より軽く、アスリートの方や、体に向き合うモデルや俳優さんにも好評だそう。でも難しいのは、最初の一口までをどう届けるか。テイクアウトで販売したりケータリングにも取り組んだり、イベントなどを積極的に開催しているのも、その”一口”に触れてもらうきっかけの一つ。

この場所が、知ってもらえるきっかけになってくれたらいい。

自分たちの仲間で面白い取り組みや詳しい領域を持っている人たちが、仕事の枠を越境して遊ぶような感覚でお店を作っていけたら理想だと佐々木さんは話します。

土曜日の夕方などに、趣味が料理のモデルの友人が料理を担当して、ワイン屋をやっている友人、新しくオリジナルのお酒を作ったスタイリストの人がお酒出してって、出店的に集まってアペロしているみたいな景色はやっぱり楽しいなって。

このお店を活かしていくようなイベントはこれからも積極的にやっていきたい。血の通ったつながりがこのお店を形作っているなと感じるのだそう。お酒だけ飲みに来る人もいるし、テイクアウトをする人もいて、がっつり食事を楽しむこともできる。懐の広い店であることで、たくさんの人に米粉パンに触れるきっかけを作っているのだ。

panyaの先に、田んぼ、世界まで見えている!?

そして、お二人はpanyaの先も見つめていました。米粉の供給が不安定で、使用していた米粉が売り切れてしまったり、変更を余儀なくされたりという経験をきっかけに、いつかは自分たちで田んぼを持ち、米を作り、米粉の工場までつくりたい、と話は膨らみます。お米としては食べられない全国的に余っている古いお米や備蓄米などで米粉を作るのも一つの道筋だし、水や油を加えるだけでおいしいパンが作れるような米粉MIXをつくり、日本の米を「日本食」という枠組みを超えて、海外にも展開させていきたい。まだ使い切れていないものをどう食べるか、米粉の未来まで、panyaの実験はさらに広がっていきそうです。

大きなプロジェクトになるから仲間募集、出資者も募集!とのこと。

この出尽くされた感のある世の中で、まだ開拓できる業界がある。世界に持っていける未来があるって、お二人の眼差しはどこまでも力強い。

南青山の小さな秘密基地で、今日もパンが焼かれている。

大人がワインを飲み、子どもがパンを食べ、誰かが新しいレシピを思いつく。

米は、もっと自由でいい。パンも、もっと自由でいい。

まずは一口。その自由な一口から、何かが始まる。

panya
東京都港区南青山5丁目4−27 Barbizon104 105
IG @panya_tokyo

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