RiCE編集部 森道への道

[青果ミコト屋]鈴木鉄平さんに会いに行く。


Shunpei NaritaShunpei Narita  / May 20, 2026

森道市場に出店することが決まったものの、編集部員たちは(ほぼ)飲食業界素人なだけに何をどうすべきなのか?正直全くイメージが湧かなかった。「困った時は森道の先輩に相談だ!」ということで真っ先に頭に浮かんだのが、神奈川県青葉台[青果ミコト屋]の店主・鈴木鉄平さんだった。

森道市場に行ったことがある人ならば、彼らが繰り出すパッタイをきっと知っているだろう。カンカン照りの太陽光が差し込む砂浜に、極限まであたためられた灼熱の鉄板は最高のライブステージになる。大量のオーダーを圧巻の連携プレイで捌きつつ、勢いよく投入されていく米麺と具材、ヘラを高速で動かすことで続々と完成していくパッタイは祭に欠かすことのできない名物だ。

出店者のキュレーションなども担当しているだけに、まさに森道市場のキーパーソンでもある鉄平さん。普段から日本全国の生産者から飲食店までを訪ね歩き、フードシーンの最前線を熟知しているからこそ、編集部員が特集のネタに困ったりすると、野菜を買いに行きながら聞き込みをしに行くのだ(そしていつも優しくたくさんのことを教えてくれる)

そんな具合でいつもお世話になっている鉄平さんが、並々ならぬ想いで森道に挑んでいるのはよく知っていたから、普段のネタ探しのようなテンションで、まずはお店にふらりとお邪魔しつつ、世間話の延長であれこれ聞いてみた。

“森道マジック”はなぜうまれる? 

―――いきなり直球の質問なんですけど、鉄平さんにとって森道市場って一体どんなイベントなんですか?

鉄平: 森道は出店者たちみんなが自分の使命や役割を持っている感じがするよね。俺らにとっても年間の大きな部分を占める一大イベントだから、「いくら売り上げよう」「何食だそう」とか指標となる数字はもちろんあるんだけど、決して定量的なことだけではない意味がある。“自分たちの表現”みたいな感覚があるというか。

――― そういう意識が浸透しているイベントってほとんどないですよね。森道は何がそうさせているのでしょう?

鉄平: ほんと森道マジックだと思うんだけど、ひとつあるのは、森道はこれだけ大規模のイベントなのに、細かいルールや縛りがほとんどないんだよ。出店要項にあれはダメ、これはダメとガチガチに縛りが書かれていて、その範囲の中でやるというイベントが多いけれど。森道はとても少ない。もちろん最低限はあるよ。でも基本的にはとても自由。どこか聖域に近いというか。だから俺たちは自由に踊れる。ただ自由って責任も伴うし、なんだろう、自由と責任が両方与えられている感じかな。運営チームに信じてもらってるからダサいことや半端なことや不義理なことはできない。背負っているものがある気がしている。そういう心意気を持った出店者たちが日本中から集まることで、爆発的な熱量に繋がってるんじゃないかな。

鉄平:あとは森道市場=フェスって思われがちだけど、森道「市場」なだけあって、どこまでいっても「マーケット」なんだよね。でもただ「出たい!」って手を上げたら出られるわけではなくて、ご縁もあるし、出店者は運営チームの審美眼で選び抜かれている。ワークショップを含めれば5〜600店舗はあるから、まさに日本最大級のマーケットだよね。それを楽しむだけでも十分価値があるし、出店者にとっても「こんないいものづくりしてるのか」と刺激になる。音楽を聴くだけじゃない楽しみ方がたくさんあるよね。

パッタイを作らないスタッフを、なぜ4〜5人も連れていくのか?

――― 出店時のタイムスケジュールってどんな感じなんですか? 

鉄平: 10時くらいからスタートして、「やめろ」って言われるまで俺たちはやることにしてるよ。 基本的には「やるならとことんやるぜ」という気持ち。 すごい雨が降ってきて「もう無理だ…」とみんなが諦めムード、お店を閉め出すときなんかが一番チャンスで。「はじまったぜ!」「こっからが俺たちの森道!」みたいに変なモチベーションが湧いてくるんだよ。
 だから全ての日程が終わった瞬間は、本当にやり切ったという達成感でいっぱいになる。みんなでハイタッチをしてると、「お前らよくやったな!!!」って心から思うんだ。あんなに見たいライブや食べたかったフードがあるのに、基本的には出店にだけ集中するから。トイレ行く暇すらマジでないくらい。「もう今年でこんなしんどいチャレンジは終わりにしよう」って頭によぎるんだけど、気づいたら来年はどうしよう?ともう考え始めているんだよ。

――― 終わった瞬間に脳みそでは来年のことを考えてるんですね(笑)、ちなみに「やりきった!」という達成感ってどんなところから来るものですか?

鉄平: もちろん数字も大事だけれど、俺たちはあくまでその場のエンターテインメント。どれだけその場をグルーヴさせられたか? 沸かせることができたか? 面白い時間を提供できたか? を重視してるよ。それが結果的に数に出てくると思うから。 

鉄平:森道はどこのお店も行列ができるからこそ、早く焼いて提供して…ガンガン回していくことも重要だけど。待ってる間も楽しく過ごしてもらいたい。それも美味しさの一つだし、お客さんの記憶に残ると思うんだよね。だから別にパッタイは作らないけど、声がけ要因というか盛り上げ役的なスタッフが常に3人くらいいる(笑)。人件費にすると、「パッタイ作らない人」を4~5人は連れていく。

――― そんなの効率悪くて無駄じゃん、という考え方もできますよね。

鉄平: でも俺らからするとめちゃくちゃ大事なんだよ。実際声出しチームがガンガン呼び込みするからさ。半分くらいの人はきっと食べてるんじゃなくて、“食べさせられてる”と思う(笑) 毎年やってるからリピーターの人も多いよ。

あの三日間は、日本で一番ドラマが起きてる場所だと思う。

――― ミコト屋のパッタイはまさに森道の風物詩ですよね。話を聞いていて、僕たちも全力で行かなきゃとハッとさせられました。

鉄平: 一年目だから楽しむのも大事だよ。でもせっかく編集部で出るならスカすんじゃなくて、本気でやるべきだよね。やっぱり稲田さん(RiCE編集長)にも「ナイスパッタイ」(ミコト屋の定番コール)やって欲しいね(笑)

――― やってほしいですね(笑)。今回森道市場に出ることになって、ただ雑誌売るだけじゃない、自分たちも実際に手を動かすことが大事な気がしているんですよね。
 いつもは料理人=取材対象、編集者=インタビューする人、みたいな関係が出来上がっているけれど、その定型ともいえる関係性を超えていくことが面白いなと思っているんです。フードシーンの中に自分たちが実際に入っていって、テンプレ的な距離感や関係値を超えたところに何があるのか、みたいなのを探していきたい。「編集者がおにぎり作ってどうするんだ?」ってめちゃ叩かれるかもしれないけど(笑)

鉄平: 編集者に限らずどの業界でも、ひとつの形に凝り固まらずに、試しながらスタイルを突き詰めていくのは面白いと思うよ。往年の名曲をずっと歌ってるミュージシャンっているじゃん。もちろんファンは求めてるかもしれないけど、それ本当に楽しいのかな?って感じる時もある。むしろ新譜を出しまくってるおじさんに美学を感じるね。昨日の自分を確実に更新してるところが。
 俺らも森道では、「やるからには前年キープはやらない」って課していて。やるんだったら、絶対に昨年の俺たちを超えていこうと思っているよ。

――― 僕たちも2ヶ月に1回雑誌を出す中で、理想は前号よりもよくしていきたい。ベタな言い回しですけど最新作が常にベスト、次回作を最高傑作にしたい。今回の森道市場では、自分たちが普段仕事をしていてリスペクトしている飲食の方たちから、そういう感覚を持ち帰れたらいいなって思います。

鉄平: 本当に素晴らしい出店者がめちゃいっぱいいるよ。それに毎年みんな「お前のとここんな感じね」みたいな感じで見ているから。どこか通知表みたいな感じもある。

鉄平:昨年はなんといってもパドラーズチームがすさまじかったよね。たった3日間のイベントなのに、グッズや内装にいくらかけてるんだ? 普段のミコト屋よりもお金かかってないか!?って思うくらいだった(笑)。もし台風とかが来て、こけたら終わりなわけじゃん。それでも全力でやり切るところに松島くん(PADDLERS COFFEE店主)の覚悟と男気、「やるからにはやるよ」「パドラーズコーヒーなめんじゃないよ」という気概を感じた。プレッシャーや期待が大きい中で、全く置きにいかなかったところは松島大介さすがだな!と思ったね。 そういうのを見ると俺らも、「ミコト屋やべえわ」って言われたいというか。

――― そういう気概で森道に挑んで、そのアウトプットが結果的に普段の営業にも跳ね返って、ますますいいお店になっていく。そしてまた森道に舞い戻って、森道もどんどんいい場になっていく…。そんなサイクルがありそうですね。

鉄平:確かに森道を体感したチームは、チームごと強くなる感じがあるよね。俺たちもチーム作りにおいて、森道があってよかったと思うし。

――― パーティ感というか。「この山超えたメンバーだから、またこの山超えられるよね」みたいなことは、やっぱりありますよね。

鉄平: そうだね。森道の前にも大きなイベントはたくさんあるから、そのことも考えなきゃいけないんだけど、圧倒的に森道がプレッシャーなの(笑)。年明けくらいからずーっと。森道がくる、ヤバいまたあいつが来るぞ!っていう不安が。何年もやってて慣れているはずなのにめっちゃ不安になるしドキドキする。そんなことってほぼないから。やっぱり人を成長させるよね。乗り越えただけ絶対強くなれる。ほんと魔物がいるんだよ、森道には。

――― 魔物がいる。

鉄平: そうさせちゃう魔物がいるんだよ。本当に間違いなく、あの三日間は日本で一番ドラマが起きてる場所だと思う。どの出店者にも、語ったら長くなるようなドラマが必ずあるはず。もちろんトラブルもあるからさ、 RiCEチームも覚悟したほうがいいよ(笑)
 でもやっぱり、森道がいつまでもあるわけじゃない、そんなことを出店仲間とはよく話すんだよ。いつか終わりが来る時もあるかもしれない。いつ終わってもいいように、後悔しないように今を常に全力でやってるんだと思う。だからとにかく何事も全力でやりたいんだよ。  

写真 永田崚(Photo by Ryo Nagata)IG @nature_nagata
文 成田峻平(Text by Shunpei Narita)

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