粒だった個人店が集う街。

東京ローカル花見ガイド | 住吉・清澄白河編 


RiCE.pressRiCE.press  / Apr 4, 2026

東京の東側、住吉・清澄エリア。坂がなく、道は平坦。東西南北に伸びる街路は、どこか京都の碁盤の目を思わせる。だからか、風の通りまでいい気がする。建物の隙間からふいにスカイツリーが顔をのぞかせ、東京を実感しつつも、人は多すぎない。流されず、自分のペースで歩ける。急かされない時間が、こんなにも贅沢だっただろうか。そんなことを考えながら、足が自然と前へ進む。

銭湯やコインランドリーの前を通ると、ふと漂う、タオルがふかふかになったときのような温かな匂い。銭湯グッズを片手に歩く人の姿もあって、風景はどこまでものどかな下町だ。

コーヒー店や美術館、公園。粒立った個人店に、地元に根を張った大衆酒場。この街には、好きなものが揃いすぎている。ここに住んだら、どんな毎日になるだろう。

住吉から清澄白河にかけてのこのエリアは、花見をしながらの散歩がよく似合う街でもある。川沿いには桜並木が続き、歩きながらでも、木場公園に腰を落ち着けても楽しめる。今回は、そのどちらも味わえる、とっておきの花見ルートをご紹介。お酒好きには、特に刺さるはずです。

住吉→清澄白河 の花見ルート
11:00 grandpa’s HOMME

12:30 大横川散歩道 河津桜

13:30 CIEST

15:00 木場公園

17:00 ball

19:00 FUDAN

10:30[grandpa’s HOMME]

朝ごはんで、その日の気分はだいぶ変わる。だからこそ、休日はグッドバイブスな場所で、ご機嫌にスタートしたい。

住吉駅から徒歩3分ほど。住吉銀座商店街の入り口に、チャーミングな外観の小さなカフェ[grandpa’s HOMME]がある。その佇まいに引き寄せられて扉を開けると、ウッディな灯りに包まれる。ドアの外は江東区なのに、バタバタしていたさっきまでの時間がどこかへいってしまう。日本橋COMMISSARYにある一号店[GRANDPA]の2号店として、2025年11月に住吉へオープン。店内は、オーナーの三上龍馬さんがほぼすべてDIYで手がけたもの。どこか懐かしさの残る空気感は、80年代のアメリカの映画やドラマに出てくる“家”の要素からインスパイアされたという。

まずはパンケーキを。注文すると、甘い香りが店内に広がる。運ばれてきたのは、バナナで顔が描かれた「GOOD MAN」と呼ばれる一枚。遊び心にくすぐられながら、ひと口。薄くてぺろりといけてしまうのに、満足感がある。ダイナーマグのコーヒーとの相性も抜群だ。「気持ちよくたっぷりかけられるように」と、とんかつソース用のポットをメープルシロップ入れに。そんな細部が、じわじわとおいしさを底上げする。  

「重さも、過剰な甘さも、食べきれないボリュームもいらない」。パンケーキ好きだからこそ、たどり着いた三上さんの「ちょうどいい一枚」。食べ終わっても、お昼ごはんのことまで考えられるのが嬉しい。それが、いい朝食の条件かもしれない。            ふと気になって聞いてみた写真は、AIで擬人化した愛鳥の「ビリー」。哀愁漂う瞳と目が合う。

ここのあたりは夕方になると焼き魚の匂いが漂い、子どもと親の会話や八百屋の声が行き交う。生活の密度が、どこかあたたかい街だ。

「人通りが多いからやる、ではなく、自分たちが働いていて気持ちいいかを大事にしています」店は“稼げる立地”で選ばない。人生のスケールで、やっていることと向き合えるか。それがこの店の居心地のよさだと気づく。

心地いい場所には理由がある。そしてその理由は、たいてい作った人の生き方と繋がっている。そんなことに触れて、ますますいい気分で店を後にする。

12:00 大横川散歩道 河津桜


小腹を満たしたら、少し散歩でも。住吉から菊川のあいだを流れる大横川沿いには、桜並木が続く散歩道がある。川に沿ってゆっくり南へ歩けば、20分ほどで木場公園へ。

13:30 [CIEST]

少し歩くと、まだ食べられそうな気がしてくる。清澄白河のワインとパンの相談所[CIEST]は、船堀時代から“わざわざ行く”人が絶えなかった名店。そんな引力の強い店がこのエリアに移ってきたのだから、メディアが放っておくはずもなく、すでに目にしたことがある人も多いだろう。けれど、それでも散歩の途中に、ぜひ寄ってほしい。訪れるたびに新しいおいしさと出会い、すぐにまた来たくなるからだ。

国産小麦の個性をまっすぐに味わえる、品種別に焼き分けたパンはもちろん人気。加えてサンドイッチも充実していて、「アンチョビたまご」や「サラミとなすのマリネ」など、常時10種類ほどから選べるのがうれしい。
あれもこれもと目移りしつつ、今回は「自家製ハムと麦床のつけもの」をチョイス。ハムには鹿児島産の豚肉「幸福豚(こうふくとん)」を使用し、黒胡椒がきりっと効いている。そこに菊芋の漬物が味をきゅっと締める。漬物は季節で変わり、夏にはきゅうりが登場するそう。季節が変われば、また違う一品に会いに来たくなる。「[BLUE BOTTOLE COFFEE]ができた頃から、個人店が増えて、自然もあって、落ち着いたいい街だなって思ってたんです」と話す店主の西野文也さん。実は開店前、この近くの[清澄白河 フジマル醸造所]でワインのお手伝いやイタリア料理をやっていた時期も。そんな流れもあって、またご近所に戻ってきた。

基本は酒屋兼パン屋。自然派ワインの品ぞろえが豊富で、購入して持ち帰れる。花見の日なら、テイクアウトして木場公園で広げるのも最高だ。お腹に余裕があるなら、立ち飲みスペースで“パン飲み”という選択肢もまた乙。お店は12時オープン、店内飲食は13時から。

15:00 木場公園

大横川の桜並木を抜けると、木場公園に辿り着く。広々とした芝生に腰を下ろして、さっき買ったワインとパンを広げてもいい。歩き疲れたら木陰でぼんやりするだけでも、十分だ。桜の下で何もしない時間を堪能する。

17:00 [Ball]

よし、次の店へ。木場公園で花見を堪能したら、軽く一杯。去年12月にオープンした[Ball]が、清澄白河エリアをまた一段とおもしろくしている。店主は赤阪護さん。ワンオペで切り盛りする8席ほどの小さな立ち飲みだ。

黒板に並ぶのは、「チューリップ唐揚げ」や「ポテサラスパイシー」など、酒飲みの心をくすぐる品々。うれしいのは、どれもポーションが小さめなことだ。気になるものを、思うままにあれこれ頼める。しかも価格は500円と1000円の均一。良心的…!とはいえ、選択肢が増えるほど、ひとりで店を回す難易度は上がるはずだ。

フムスは、しっとり重いというより軽やかで、滑らかな口当たり。合わせるのは季節の野菜で、スパイスの香り、かつおぶしの旨味、ナッツのアクセントが重なり、気づけば酒が進んでいる。

思わず「大変じゃないですか?」と聞くと、赤阪さんは「無理をしているわけではなく、自分ができる範囲をきちんと突き詰めているだけ」と言う。価格を500円と1000円の2つに揃えたのも、計算のしやすさまで含めて設計した結果なのだという。

実際、赤阪さんの手さばきを眺めているだけでも楽しい。観察していると、ワンオペを前提にした“仕組み”が見えてくる。皿はあえて2種類に絞り、洗い物が増えすぎないようにする。そのぶん料理に時間を回す。会計も皿の数でさっと計算し、手間を削る。小皿仕立てにしているのも、自分自身を律するためだという。限られた条件のなかで、どこまで質を上げられるか。その徹底ぶりが、清々しい。

「飲食は一番身近な劇場なんです」と赤阪さん。いい仕事をしている場所からインスピレーションをもらい、この店を訪れた人にも“いい体験”を持ち帰ってほしいという。

そう聞いてカウンターに目をやると、確かにここは舞台のようだ。カウンターは少し高めで、客席から手元がよく見える。ピカピカに磨かれた天板の上で、無駄のない動きが続く。なんとなく目で追ってしまうのは、そこに“いい仕事”があるからだ。

カウンター後ろにも、ちょっとした立ち飲みスペースがある。[Ball]で楽しめるのは自然派ワイン。グラスはもちろん、ボトルも揃う。

おいしい酒を飲みながら、口福に包まれ、誰かの気持ちのいい仕事を眺める。考えてみれば、いい酒場とはそういうものかもしれない。ただ飲むだけでは終わらない、何かを持ち帰れる場所。花見の余韻を抱えたまま、気づけばもう一杯。さあ、まだまだ飲むぞ。

19:00 [FUDAN]

2020年に清澄白河にオープンして以来、人気を集めるビストロ「ガゼボ」。その店主・新宮朋樹さんが、店からほど近い場所に開いたのが[FUDAN]だ。

当初は2号店の予定はなかったが、見通しのよさと長屋建築に惹かれ、この物件に応募したという。建物の裏手には清澄庭園が広がる。

自然派ワインを中心に提供する[ガゼボ]に対し、こちらは“日常の酒場”。店名の通り、気負わずふらっと立ち寄れる場所を目指し、あえてワインは置かない。ドリンクは割りものを中心に、酒場好きでもある新宮さんが組み立てている。

黒板を見ながら、おすすめを教えてくれる新宮さん。その明るくて気さくな人柄を目当てに、ふらっと立ち寄る常連客も多い。

名物は「ロペ酎」。新宮さんのあだ名「ロペス」から名付けた、ウォッカベースのオリジナル酎ハイだ。できるだけシンプルで、料理に寄り添う味に仕上げている。トマトや晩柑、ぶどう割などバリエーションも豊富で、中でもトマトロペ酎は、試行錯誤の末にクラマトにたどり着いたという。すっきりしながら旨みがあり、ついごくごく飲んでしまう。

食事もまた、すべて酒のためにある。今回のハムは自家製で、ツナ・アンチョビ・ケイパーをペーストにしたトンナートソースを添えて。気分によってパセリのサルサヴェルデが添えられることも。

茶割り好きの心をくすぐる一工夫もあって、「ダーハイ」の次は「緑ジン」……と、次々頼みたいものが浮かぶ。だから客層も自然と酒好きが中心に。近所の酒好きが、ふらっと一杯から立ち寄る。清澄の夜に根を張る“土着型”の一軒だ。

賑わう時間には、カウンターにずらりと客が並ぶ。花見シーズンに限らず、歩いていて楽しい街だと実感する。いい夜は、まだまだ続きそうだ。

オープンは19時。早い時間は食事を楽しむ人が多く、22時頃からどっと賑わうこともあるという。クローズは、25時まで。清澄で飲み足りない夜の心強い受け皿になってくれる。楽しすぎて、うっかり終電を逃すこともあるのでご注意を。それでもこの街の“夜の続き”は、ロペさんと常連さんがきっと教えてくれる。

(SHOP INFO)
grandpa’s HOMME
東京都江東区住吉1-15-1 1F
9:00〜18:00
水・木曜定休
IG @homme_sumiyoshi_grandpa

CIEST
東京都江東区平野1-11-12 1F
12:00〜18:00(パンの販売は12:00〜。立ち飲みは13:00〜)
水・木曜定休
IG  @ciest2019 

Ball
東京都江東区三好3-8-3
平日  16:00〜22:00
土日祝 15:00〜21:00
木曜+不定休
IG  @ball_wine

FUDAN
東京都江東区清澄3-3-26
水〜土 19:00〜25:00
日曜 18:00〜24:00
月・火曜+不定休

IG @fudan_kiyosumi

Photo by Takuro Abe(写真 阿部拓朗)IG @takuro_abe
Text by Sakurako Nozaki
(文 野﨑櫻子)

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