連載「2000年生まれの器好きが、器を巡って旅をする 響の日本うつわ見聞録」#5
器作家から見た料理、料理人から見た器。
響の日本うつわ見聞録。それは、2000年生まれの私、井上響が、全国各地で生み出される器の魅力や素晴らしいものづくりについて探求すべく旅をした記録。そこで出会う職人や作家の方々の知られざる哲学の記録。そこから日本が誇るべき器の未来を考えたいと思います!
「器は料理の着物」
北大路魯山人が残したとされるこの言葉はとても有名です。食体験は、単に料理の美味しさだけでなく、料理をいただく空間の設(しつらえ)、サービスやホスピタリティなど、その総合的な体験が感動に繋がります。中でも料理を盛り付ける器は、その美しさを際立たせるものとして重要な役割を果たします。
日本の工芸に魅力を感じるようになってから、使う人とつくる人の対談を見てみたい…!と思っていたのが、今回実現しました!2回にわたって、器作家と料理人への取材を記録します。「器作家から見た料理、料理人から見た器。」というテーマで、器に最も近い人たち(器をつくる作家・器を使う料理人)の器への考え方に迫っていきます。
取材にご協力いただいたのは、山梨県北杜市で器制作をされている[陶房窯八]の大橋睦さんと奥様、山梨県の西湖にある[Restautant SAI 燊]のシェフである豊島雅也さんです。
器作家と料理人の対談を取材していたいとは思っていたものの、都合よく適した状況に巡り合う訳もないだろう…と、思っていたのですが、私が西湖に訪れた際にお邪魔した[Restautant SAI 燊での食体験が転機でした。(※以降SAIと記載)
西湖にある[Restautant SAI 燊]での食体験
SAIのコンセプトは「奥・山梨料理」。山、樹海、湖など、豊かな自然に囲まれた中で育まれる食の生態系や食物連鎖を、食事をする=命をいただくことによって感じられるレストランで、2025年のゴ・エ・ミヨにも選出されました。ジビエが特徴的なレストランではありますが、豊島さん曰く「ジビエが苦手な僕がつくるジビエ料理」とのこと。豊島さんをはじめSAIのスタッフの方々は狩猟免許を取得しており、ハーブの栽培、きのこ・山菜の採集まで行っています。季節や西湖の自然環境によってコースの内容は変わり、西湖や富士北麓エリアの文化を濃密に感じることができます。
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[SAI]の1品目で登場した、富士山樹海をイメージした一皿。コース開始から世界観が伝わってきます。
[SAI]の食体験は、まるでシェフの豊島さんとソムリエの永原さんを中心に繰り広げられるシアター!料理でも飲み物でも、「これはなんだろう?」と考えさせられる、いや考えさせてくる体験。温かい空気感のなか自然と会話も生まれ、お食事が終わると走り抜けた感覚がある時間でした。「命をいただく」というメッセージが感じられながら、どちらかと言うと「忘れられない思い出が残った」という感想が先に来る、単なるコースとペアリングの体験にとどまらない、良質で贅沢な時間を過ごすことができました。
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豊島さんがご紹介してくださった、[SAI]で使われる器の一部。
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印象的な器使いだった、鹿肉のサンドイッチを盛り付けた一皿。豊島さん曰く富士山樹海の中にある人工物をイメージしてアルミの器を使ったとのこと。
コースとペアリングが終わり、つい気になったのでコースに使う器やカトラリーについて豊島さんに質問をしたところ、器たちをテーブルに広げてご説明してくださいました!「奥・山梨料理」のコンセプトに合う質感や色、その作り手の方々の制作環境など、器選びのこだわりについて一通り教えていただきました。
「器作家 大橋睦」さんと「料理人 豊島雅也」さん
豊島さんが「何も考えずに、気づいたら使っている器」と言って紹介してくださったのが、陶房窯八の大橋睦さんの器。大橋さんは、「狩猟した鹿の骨をSAIのお料理で提供する器をつくれないか?」と考え、前代未聞の鹿の骨を使った器をSAIのために制作したとのこと。器作家と料理人が料理を楽しむための空間・時間作りの共作をした、と言い換えても良い出来事に驚愕!
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[SAI]でも使用している陶房窯八の大橋睦さんの代表的な丸い形の器。
大橋さんの器作りは薪窯を中心で制作できる数に限りがあるため、器屋さんなどでお目にかかる機会はそうないだろう、と思っていたのですが、SAIで食事をした直後、東京都内で個展を開催されていたためお伺いして大橋さんにお会いすることができました。そんなご縁があり、お二人へご連絡をすることができるようになったため対談が実現しました。
次回のコラムでは、実際に大橋睦さんと豊島雅也さんに対談していただいた動画とともにお届けします。
大橋さんと豊島さんの出会い
豊島さんがSAIで大橋さんの器を使う時はどんな時か?
鹿の骨を使った器づくりの制作秘話
良い器とは?良い料理とは?
など、器作家さんと料理人さんが一緒にいる場でしか聞くことができないお話しを伺ってきました。お楽しみに!
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左からシェフの豊島さん、サービスの鈴木さん、ソムリエの永原さん。
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鹿の角が玄関扉の取手の[Restaurant SAI 燊]。既にSAIの世界がここから始まっています。
〒401-0332
山梨県南都留郡富士河口湖町西湖208-1
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/SLgEeiQYzToDyu8J8
Instagram:https://www.instagram.com/restaurant_sai_lake_saiko/
HP:https://restaurant-sai.com/
工芸・地域文化・観光の編集者。伝統工芸のコンサルティング会社にてストアマネージャー、インバウンド向けの旅行会社にて営業を経て独立。2000年生まれ。「器、茶、酒、旅。」がテーマの招待制イベント&フリーツアー『響縁』を不定期開催。日本の伝統文化をまなぶ、つながるコミュニティ『daruma.com』発起人。
IG @hibi.kino.ue|@daruma.com_japan