食の交換日記。

London #000 はじめまして


Yuriko YagiYuriko Yagi  / May 15, 2025

はじめまして。[PAN- PROJECTS]の八木祐理子です。

交換日記って、こうやって相手の思考の流れに乗せられて、自分の考えがするすると動き出す感じが好きだったな……なんてことを思い出しながら、絢子に倣って、私も今の自分のことを少し書いてみます。

私は現在、イギリスのロンドンで[PAN- PROJECTS]という建築デザインスタジオを主宰しています。建築というと大げさに聞こえるかもしれませんが、建物だけでなく、インテリアや家具、時にはアートインスタレーションまで、スケールもかたちも目的も異なるものを扱いながら、そのすべてに対して同じ熱量で向き合っています。

そもそも私が建築に関心を持ったのは、幼少期に少しだけ暮らしたデンマークの記憶がきっかけでした。大学院時代に再びデンマークに戻り、そのまま現地で建築事務所を立ち上げました。でも、もっと広く、いろいろな文化や人に出会いたくなって、今はロンドンを拠点としています。

スタジオを始めた頃の作品 / Paper Pavilion (Copenhagen, DK)

ロンドンでは様々な文化的背景をもつチームと日々議論しプロジェクトを進めている。

* * *

ここ最近の私はというと、春の陽気に誘われて外に出ることが多く、気づけばこの2週間でパキスタン料理、イタリア料理、ナイジェリア料理、コロンビア料理を食べ歩いていました。ロンドンでは、自転車で10分も走れば、まるで別の国にたどり着いたような気持ちになります。それぞれのレストランでは、その国の言葉が自然と飛び交っていて、一つの都市の中に無数の“風土”が点在しているかのようで、そんなロンドンという都市の豊かさを存分に楽しんでいます。

前回の日記で絢子が書いていた「循環」という言葉に触れて、 建築もまた、かつてはそうした循環の中に身を置いていたはずなのにな。と考えていました。

例えば、お米を収穫したあとの稲藁は、屋根になり、畳や壁の素材になり、さらにはもみ殻までもが無駄なく活かされる。建てることと暮らすこと、食べることは、かつて切り離されることのない、一つの流れの中にありました。

けれど、産業革命以降の大量生産や分業の仕組みの中で、そうした関係は少しずつほどけていきました。建築は今も社会の一部であり続けていますが、その根っこにあった物質的な「循環」の感覚からは、どこか遠ざかってしまったようにも感じます。

London Stock Brick という煉瓦はかつて、ロンドンの粘土に加え、家庭の暖炉から出た灰やゴミが混ぜられて作られたこともありました。時には、食べ物の小骨から土管の破片まで含まれることもあり、まさに人々の暮らしとの関係性の中で生まれた建築素材でした。

そんな背景への問いかけとして、私たちのスタジオでは「Architecture By-Product」というプロジェクトを続けています。

ものを生み出す営み(=生産)のそばで、必ず生まれる“副産物”に目を向けて、それが含んでいる物語や時間、人の痕跡を、建築や作品として再構成できないかと考える取り組みです。かつて副産物は、捨てられる前に次の役割を担い、暮らしの循環の中で活かされていました。いまでは「廃棄物」として扱われてしまうものにも、本来は暮らしの中に居場所があったはずです。

牡蠣漁から生まれる副産物から家具をつくるプロジェクト / Paper Pavilion (Toba, JP)

* * *

私は、人の営みと物質との関係性に強い興味を持っています。

建築のように長い時間をかけて形になる創作と、食のように日々のリズムに寄り添う行為。まったく異なる時間軸を持っているようでいて、ふとした瞬間にぴたりと重なり合うことがある。

その重なりに気づけたときの嬉しさを、絢子との交換日記のなかでも、少しずつ拾っていけたらと思っています。

 

Illustration by Jonathan Bjørn Elley
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