
連載「名店のシグナル〜 一段上の食べ歩き論 〜」#11
「限定」ではなく、季節のメニューを狙え 夏編④
冷やしが広げるラーメンの可能性
冷やし中華→基本のラーメンに近いラーメンを冷やしたもの→新しいメニューとして独立した冷やしラーメン、と連載を重ねてきたが、この涼麺シリーズの最後は、ラーメンの可能性を押し広げる個性派たちで締めくくる。もちろん大方針通り、「毎年提供されている準レギュラーメニュー」である。
アツアツからヒエヒエへの転換は、使用できる食材の幅を大きく広げた。加熱しないことで自由な発想が生まれ、油脂と切り離すことで引き立つ食材や、夏に旬を迎える素材も合わせやすくなる。
また、スープの味付けや出汁にはメリハリがつき、より明確で力強い味わいへと変化する。これは猛暑の中で体が求める味覚への対応と、温かい状態に比べて感じにくくなる素材の旨味や甘みをしっかり伝えるためという、二つの理由が考えられる。
そんな中、現在ブームを巻き起こしているのが「トウモロコシの冷やし麺」だ。冷製にすることで過度な甘みが抑えられ、バランスが取れるトウモロコシは冷やし麺にうってつけの素材である。品種改良による高糖度化も追い風となり、普段ラーメンを食べない層にも一気に広まった。

麺や七彩のタカネコーンの冷やし麺
だが、そうしたライト層へのバズは、コアなラーメンフリークにどこか浮き足立った印象を与えてしまうこともある。強くストレートな甘みが得意ではない筆者もその一人だ。そんな人にこそおすすめしたいのが、トウモロコシ冷やしのパイオニアである[麺や七彩]の「だだちゃ豆の冷やし麺」だ。

麺や七彩(八丁堀)のだだちゃ豆の冷やし麺
だだちゃ豆は山形県鶴岡市周辺で受け継がれる香りの強い枝豆で、最盛期は8月下旬のわずかな期間のみ。その希少なだだちゃ豆をふんだんに使った冷製麺が、七彩グループで短期間提供される(詳細は各店の公式SNSを参照)。
摺り流したスープは単に甘いだけでなく、自然な風味に溢れ、香ばしさが口いっぱいに広がる。短冊状の塩気あるチャーシューが絶妙なアクセントとなり、シンプルだからこそ素材の良さが際立つ。旨味を過度に取り繕うのではなく、あくまでラーメン的な「出汁感」を残している点が秀逸で、夏の涼麺らしい軽快な着地を見せている。
続いては、千歳船橋[MAIKAGURA]の「冷製クリーム豆乳辣麺」。ファンの間で夏の風物詩として愛される一杯だ。字面からも滑らかで上品な雰囲気が漂うが、実際にも角のないまろやかな仕上がりで、美しい味のグラデーションを描く。合わせる自家製辣油も癖がなく、上質な麻辣が豆乳のコクと心地よく調和する。使いどころに悩む温玉だが、個人的には辣油の存在感が支配的になってきた後半に崩すのがベストだと考えている。

冷製クリーム豆乳辣麺
最後は、冷やし中華の発展型である[中村麺三郎商店]の「口水鶏涼麺(よだれ鶏の冷やし中華)」だ。毎年、冷やし中華シリーズの第2弾として登場する。同店はどのメニューも完成度が高く安定しているが、これはラーメン店として非常に稀有なことだ。名門[聘珍樓]での修業経験に裏打ちされた真面目な仕事ぶりが、すべてのトッピングに行き届いているのではないか。いつも感心する。

口水鶏涼麺
よだれ鶏は個人的にも自宅で試行錯誤するほど好きな料理だが、旨味というよりタレのメリハリで食べさせる側面が強い。それを冷やし中華と組み合わせ、麻辣の清涼感からよだれ鶏特有の濃厚なコクへと段階的に楽しませる構造に脱帽した。以前にも触れたが、自家製麺の圧倒的な美味しさが、涼麺全体の質をグッと引き上げている。

- ラーメン考古学者 / Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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Takashi Watanabe
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