連載「名店のシグナル〜 一段上の食べ歩き論 〜」#5

麺をすする快感


Takashi WatanabeTakashi Watanabe  / Apr 13, 2026

~ 麺が教えてくれる、一番おいしい「一口」 ~

店も決めた。メニューも選んだ。自分のラーメンが作られているのを眺めながらビールも飲んだ。いよいよ丼が眼前に現れ、レンゲを使わず、丼からスープを堪能した。さて……

麺はすすり方ひとつでもっと美味しくなる

いよいよ麺である。ラーメンの主役を麺とするかスープとするか。それは人により、地域により、あるいはラーメンによっても違うだろうが、ひとつ確信を持って言えるのは、ここ30年、ラーメンの分野で劇的な成長を遂げたのは「麺」でもあるということだ。麺の質と多様性の向上は、実に著しい。

もちろん、スープも素材を厳選し、技巧を凝らすことで、日々進化し続けている。ただ、多くの店主は言う。「スープの作り方を教えることは厭わない。だが、タレは企業秘密だ」と。そしてこうも付け加える。「製麺に関しては、いまだに納得のいく麺が打てていない」と。それだけ製麺の道は奥が深いのである。

作り手のこの葛藤を食べ手に置き換えて考えてみたい。これは製麺の技術論ではない。素材やレシピの話でもなく、もっと「食べ方」そのものについて考えてみようではないか。茹で加減へのこだわりもさることながら、箸で掴み、口に入れ、啜(すす)るという行為そのものに、もっとフォーカスを当てたいのだ。今回は、そんな話である。

とはいえ、麺についての予備知識はあったほうが良い。まずは簡単に整理しよう。プロ目線の技術論ではなく、あくまで食べ手としての感覚的な分類である。

太さ:極細、細、中太、太麺、極太など
長さ:短い、長い
形状:ちぢれ、平打ち、ストレートなど
食感:もちもち、つるつる、パツパツなど

食べる上で何より重要なのは、加水率云々といったプロ向けの仕分けではなく、感覚や感性である。そのために必要なのは、子供でもわかるようなこうした「特徴」を捉えることなのだ。

この特徴を頭に置いた上で、麺を啜る際にもっとも大切なこと。
それは、

「麺を噛みちぎらず、啜り切る」

ことである。これだけを知識として携え、あとは感性に委ねればよい。それだけでラーメンは格段に美味しくなる。そしてそれは、知識の受け売りではなく、自分の感覚で「好き嫌い」を語れるようになることを意味するのだ。

まずは「太さ」と「長さ」の関係が、啜り切るための重要な要素であることに気づくだろう。「太さはわかるが、長さ?」と思う人も多いかもしれない。なぜなら、これまでは長ければ途中で噛みちぎれば済んでいたからだ。

太麺は食べ応えがあるが、食べ方も工夫が要る

よく「うどん一尺(約30cm)、そば八寸(約24cm)」と言う。これは啜りやすい長さを表したものだが、ラーメン(中華麺)はおよそ35cm前後が多い。ウェーブのかかった「ちぢれ麺」の場合、体感としては尺より短く感じられるが、麺が短いことで知られる家系ラーメンでも、蕎麦と饂飩(うどん)の間くらいはある。逆に、湯河原の超有名店[飯田商店]は40cmにも及ぶ。家系ラーメンは太く、[飯田商店]は細い。太くて長い麺は物理的に啜りにくいため、もし本気で啜り切るならば、一度に啜る本数を調整する必要がある。

細麺は、すすり切りやすそうに思えるが、長さを見極めることも重要

実は、この「一度に箸で掴む本数」と「啜り切るコツ」は密接に関係している。太さと長さを鑑み、箸に掛ける本数を決めるのだ。初めての店やメニューであれば、まず一筋(ひとすじ)引き出して長さを測ってみるのがいい。そして、改めて箸に掛ける本数を「太く短ければ4本程度」「細ければ610本程度」と決めていく。コツが掴めないなら、まずは5本程度から自分の適量を確認してみよう。一番もったいないのは、欲張って多く掴みすぎ、途中で噛みちぎってしまうことだ。

つけ麺は、食べ方として、自然にすすり切る、という方も多いはず

ややこしく面倒なことを書いてきたが、準備が整えば、あとは一気呵成に啜り上げるだけである。麺へのスープの乗り方や、一杯のトータルな完成度は、啜り切ることでこそ真に理解できる。なぜなら店主は、その「啜り」を念頭に置いて麺を選んでいるからだ。つまり、麺の特徴とは「店主がこう食べてほしい」という静かなる主張なのである。

レンゲを使わず、麺を啜り切る。これは食レポの映像などでも多用される手法だが、ラーメンを食べる行為において、もっとも美しく、理にかなった流れなのだ。少しばかり根気のいる作法かもしれないが、経験上、これを意識するだけでいつものラーメンが間違いなく美味しく感じられるようになるはずだ。

麺をすすり切るだけで、ラーメンの感じ方がきっと…変わるはず!

……ただ、かつて「ラーメンの鬼」と呼ばれた故・佐野実さんは、麺を従来より長く設定し、啜り心地に新しい提案を行った人だが、同時に、麺を噛んだ瞬間にプツリと弾ける食感も大切にしていたと言われている。ラーメンという自由な食文化、最後はそこに「愛着」さえあれば、どんな食べ方であっても許容されるのかもしれないが。

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