素材を活かした、家庭的なフレンチとワインに包まれて
池尻大橋の[passe temps]で、過ぎゆくひととき
店先には縁側があり、暑い日には窓が開け放たれ、寒い季節には外からでもあたたかさがにじむ。そんな場所が、世田谷区・池尻大橋にあらたに生まれた。
店名[passe temps(パストン)]の由来は、たった一度だけ造られたあるワインから。
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ボジョレーのミシェル・ギニエによるワイン
プリミティブなワイン造りにこだわり、エチケットの馬「ヴィステル」とともに畑を耕す。
このワインは、2015年に造られたキュヴェ。“Passe-Temps”。日本語にすると、「過ぎていく時間」だろうか。ここには、あっという間に過ぎていく楽しい時間、ワインの時間経過による変化を楽しんでほしい思い、そしてナチュラルワインとの出会いの原点となった大阪[Passe]での記憶など、たくさんの気持ちが詰まっている。
お店を切り盛りするのは山田隆未さんと由樹さんご夫婦。
「いつかいっしょにお店をやろう」と話していたふたりは、それぞれ隆未さんが渋谷の [chowchow] や [Henderson]、由樹さんは [uguisu]、[organ] 出身で、2025年の1月まで働いていた。
そこから2月はまるまる、ロワール→オーベルニュ→ボジョレー→アルデッシュと、フランス各地のワイナリーや試飲会をめぐる旅へ。
フランスという地でナチュラルワインの“実際”を見ることで、「この人だからこのワインなんだ」と自然と腑に落ちることも多かったそう。
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店内には、訪れた生産者からもらったポスターなども貼られている。
ただ、昔からずっとワインが好きだったかというと、実はそうでもないらしい。むしろビールとウイスキー派だったというから、これまた意外。
すいすい飲めるナチュラルワインが「おもしろくて、味が好きだった」と語る。
[passe temps]の料理は、フランスのワインが好きなふたりらしくフレンチ。けれど、かしこまったものではなく、“家庭的なフレンチ”だ。
フランスで生産者に作ってもらった、素朴で素材がちゃんと見える料理。そしてそこに当たり前にあったナチュラルワイン。
その体験や、ナチュラルワインをもっと身近に感じてもらうため、「ふらっと来て一杯だけ飲んで帰る」ような使い方もできるよう、プライスレンジもカジュアルに設定している。
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ワインの他には、ビール(ハートランド)、食後酒の用意も。
基本的には、作り手さんにゆかりのあるものを置く。
看板は、パテドカンパーニュ。レバー多めなこのパテカンは、まさにワイン泥棒。味が落ち着くまでじっくり寝かせたやわらかめのパテは、カタネベーカリーのパンと一緒に食べてみるのもおすすめ。
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添えてあるピクルスとマスタードもうれしい。
季節野菜のグリルに添えられるのは、黒オリーブやニンニクを使ったタプナードと、焼き野菜とアーモンドでつくるロメスコソース。
自家製の赤ワインビネガーは、甘いお野菜との相性ばっちり。
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種類に合わせて、蒸してから火入れするなどそれぞれが一番おいしい状態にこだわる。
続いては、菊芋のグラチネ。でんぷん質の少ない菊芋に合わせて、バターや生クリームで自然な濃度をつける。
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グラチネ自体は秋冬の間続くようだが、菊芋の季節が終わったら「冬らしい」また違うものになるそう。
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3品に合わせてもらった、ロワールのカベルネフラン
店名の由来からもわかるように、このお2人はみなに寄り添う。
基本的にはウォークインオンリーなのもまた、ふらっと寄りやすい理由のひとつ。
小ポーション対応もしてくれるため1人でも行きやすいし、ワンちゃんも子どもももちろんOK。
「親御さんと来て2階で、宿題をやるお子さんもいらっしゃいますよ」とにこやかに語る。
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2階にはテーブル席が用意され、1階とはまた少し違った雰囲気
お店は深夜2:00まで空いている。
「飲食店の人が終わりがけにも来られるように」と、この時間設定にしたという。
池尻には遅くまで開いているお店が多くはないため、深夜0時ごろに満席になることも珍しくない。
早く着いちゃったから、ちょっとだけ飲んで人を待つのもよし。
ずっしりと腰をおろしておいしいごはんに舌鼓を打つのもよし。
「もうちょっと飲みたいね」で寄るのもよし。
いろんな人のライフスタイルに寄り添ってくれるのが、[passe temps]。
前を通るたび、つい挨拶したくなる。
時間の流れごと受け止めてくれる、そんな場所だ。
passe temps (パストン)
住所: 東京都世田谷区池尻2-30-8 マイム池尻1F
営業時間:18:00~26:00 日曜休 (+不定休)
IG: bar à vin passe tempsPhoto by Reina Kubota(写真 久保田 伶奈) IG: Reina Kubota
Text by Terra Owen