連載「HOME/WORK VILLAGE ごはん」#1

[洋食api]が描く、世田谷に根差す洋食屋のかたち


RiCE.pressRiCE.press  / Nov 3, 2025

世田谷・池尻に誕生した新しいコミュニティ拠点[HOME / WORK VILLAGE]。
かつて中学校だったこの場所には、オフィスやショップ、個性豊かな飲食店が集まり、まちの “新しい日常” が始まりつつある。

私たちRiCE編集部もこの[HOME / WORK VILLAGE]に拠点を構え、その一員として、この場所で生まれる“食”のつながりを紹介していく連載をスタート。
記念すべき第1回は、洋食の新しいかたちを提案する[洋食api(アピ)]を訪ねた。

新たな “まちの洋食屋” として[HOME / WORK VILLAGE]に誕生した[洋食api]。三軒茶屋の人気酒場[三茶呑場マルコ][下北六角]などを展開する2TAPSによる新業態だ。10年にわたって世田谷で積み重ねてきた経験をもとに、地域への恩返しの気持ちを込めてこの地に新店を開いた。

「ずっと世田谷区にお世話になってきたので、この街と人たちに何か返したいと思っていました。そんな中、HOME/WORK VILLAGEの “地域とつながる” というコンセプトにも共感したんです」と語るのはショップマネージャーの久保薗智さん。この場所を選んだのは、単なる出店ではなく“地域との共創”の第一歩。将来的には子ども食堂など、地域に開かれた食の場づくりも視野に入れているという。

これまで[三茶呑場マルコ]、[ニューマルコ]、[COMARU]、[下北六角]といった居酒屋を展開してきた2STEPSだが、今回の出店にあたり「洋食」という新たな業態に挑戦した。「業態を変えてやってみないか、というお話をいただいて。考えてみたら、三軒茶屋や池尻には意外と洋食屋さんが少ないんですよね。それなら自分たちで “まちの洋食屋” をやってみよう、と決めました」。

昼は「洋食屋」、夜は「ワインバル」で二面性を楽しむ

昼と夜で異なる顔を見せる2面性も[洋食api]の大きな魅力だ。

昼はポークジンジャーやハンバーグ、ナポリタンなど、どこか懐かしい “街の洋食屋” のメニューが並ぶ。ポークジンジャーの香ばしい香りや、ハンバーグの肉汁が食欲をそそり、ナポリタンの鮮やかな色合いがカウンターに映える。「昔ながらの洋食屋さんを目指しているんです。ハヤシライスなども今後加えていきたいですね」と久保薗さん。

ランチの人気メニュー「校長も食べた『給食ナポリタン!』api風」。現在の[洋食api]の部屋は元々校長室だったという理由からユニークなメニュー名に。近隣の[せたパン]がつくるコッペパンもつく。パンに挟んで楽しむのも◎。

夜になると、空気はがらりと変わり、ワイン酒場として営業。 スパニッシュとイタリアンを掛け合わせた料理を片手に、グラスワインを傾けるお客さんたち。昼の明るい洋食屋から一転、夜は大人が集うワインバルへと姿を変える。「昼と夜で客層もまったく違うんです。昼は子ども連れのご家族や近隣の方、夜はお酒を楽しむ若い方が多いです」。

時間帯によって空気が変わるのに、どちらも肩の力が抜けた心地よさがある。家庭的な安心感と、ちょっとした非日常。そのどちらも味わえる “二面性” こそが、[洋食api]の魅力であり、この場所が地域に受け入れられている理由なのだ。

えびやムール貝、鶏肉、彩り豊かな野菜をのせたカタルーニャスタイルのしっとりパエリヤ。マヨネーズと柑橘を添えて味の変化も楽しめる。

グラスワインは国内のナチュールを中心に。ボトルではクラシカルな世界のワインも扱っている。クラフトビールは国産にこだわっていて、ブリュワリーから直接仕入れている。

真ん中にキッチンを。2つの入口が生む “回遊性”

店舗設計のこだわりは、なんといっても店の中心に配置されたキッチン。
「入り口が外と中で2つあるので、見え方が違うと面白いよねって話になって。昼と夜で雰囲気も変わるし、2つの顔を持つ店にしようと真ん中にキッチンを置きました」。

店の中央に据えられたオープンキッチンで、シェフが手際よく調理を進める。どの席からもその様子を眺められるレイアウトが、空間全体にライブ感を生み出している。

廊下側からはカウンターの席しか見えず、「反対側どうなってるの?」と尋ねるお客さんも多いという。校庭側にはソファー席が広がり、子連れやグループでもゆったり過ごせる。窓の外で子どもが遊ぶ姿を眺めながら、食事を楽しむ光景もこの店ならではだ。

ソファー席の先に広がるのは、穏やかな校庭の風景。外で遊ぶ子どもたちを眺めながら、食事の時間を過ごせる。

まちの“洋食屋”として

オープン直後からSNSで話題を集め、遠方から訪れる人も多い。犬の散歩途中に立ち寄る地域住民や、ファミリー層、若いカップルなど、客層は時間帯によってさまざまだ。
「昼は子ども連れの方が多いですね。夜はお酒を楽しむ方やご近所さんが集まります」

この店をどう育てていきたいかと尋ねると、久保薗さんは穏やかに微笑んで言う。「やっぱり “まちの洋食屋さん” ですね。この町のアイコンみたいな存在になれたら。お子様メニューなども始めていきたいと思っています」

施設とともに育つ、食のコミュニティ

[HOME / WORK VILLAGE]には、飲食店をはじめ、ギャラリーやショップ、オフィスなど、多様なテナントが並ぶ。それぞれが異なる目的を持ちながらも、同じ敷地で日々の営みを共有しているのが、この場所の面白さだ。

「他のお店の方ともよく話します。何か一緒にイベントをやれたらいいよね、なんて話も。駅から少し離れた場所だからこそ、みんなで協力して人の流れをつくっていきたいですね」と久保薗さん。

ただ店を構えるだけではなく、周囲の店舗や地域と連携しながら、この場所全体を盛り上げていく──そんな意識が自然に根づいている。
天気のいい日には、校庭のベンチでコーヒーを飲む人、芝生で子どもを遊ばせながらランチを楽しむ家族の姿も見られる。

かつて子どもたちが集った校舎の中で、いまは大人も子どもも思い思いの時間を過ごす。
その風景の中に、ひと皿の洋食や一杯のワインがさりげなく寄り添う。
世田谷に根を張り、地域とともに育っていく──[洋食api]は、この “まちの食卓” の循環を象徴する存在になりつつある。

洋食api
東京都世田谷区池尻2丁目4−5 HOME/WORK VILLAGE 112
昼 11:30〜14:30 (Lo14:00)、夜 17:30~22:30 (Lo21:30)
不定休
IG @yoshoku_api

Photo by wacci(写真 wacci) @wacci___
Text by Shingo Akuzawa(文 阿久沢慎吾)

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