連載「じゃない方のたまご。ラーメンと固茹で玉子の幸福な関係」 最終回
ラーメンとたまごの幸せな関係
トロトロの味玉が多くの人に求められるようになったことは、ラーメンの裾野を広げるという意味においておおいに貢献している。店でラーメンを食べているとき、まわりの声に耳を傾けると「わー、トロトロ!」と味玉に対して感嘆の声が上がっていることも少なくない。
同様に、「このチャーシュー美味しい!」や「このワンタンすごい!」という声は、以前に比べ、かなり増えた。それは、[ちばき屋]の千葉さんなど先人たちが、トッピングに関してもひとつひとつ材料や製法を見直して、料理として美味しくしていったからだ。しかし、このラーメン熟考シリーズの『シンプルラーメン』でも書いたように、単品としては美味しくなったが、ラーメンの具材として最適か否かはまた別である、と筆者は思う。主役はあくまで麺とスープでトッピングはその脇を固めるものだから、主張が強くなればなるほど、麺とスープを邪魔してしまうのではないか?別の視点でいうなら、完成度が高まったトッピングたちは、お酒のツマミとしては最高ではあるから、むしろ単体で食べたい!となる。
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おつまみとラーメンの具材とでは、少し違うものが求められる。
トロトロ化(?)の正体は、単に生の黄身である。生卵トッピング自体は味をまろやかにしたり、濃いスープの味わいを変えていく有機的なトッピングしての価値があり、個人的には好きである。ただ、生卵が乗ったラーメンを提供しているお店は限定的で、食べ方は「溶かして食べる」ことが前提となっているため、スープを壊してしまう、と考える人もいるだろう。
余談だが、生卵トッピングは佐賀県のラーメンに入ることが多い。そのルーツは面白い。佐賀にあり1958年に創業した[一休軒](本店はすでに閉店)。店主大串進氏はその年の野球、日本シリーズで西鉄ライオンズ(本拠地福岡)が3連敗から4連勝し、奇跡の逆転優勝をしたことに感銘を受け、記念にデラックスラーメンのメニュー開発を決意、当時贅沢品だった生卵を入れ、肉もたくさん入れたことがはじまりとされる。その後この生卵はトッピングとして支持を受け、佐賀県内に広まったとか。
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[もとむら](元一休軒 鍋島店)のラーメン
本題に戻ろう。
そこで見直したいのが、固茹で玉子なのだ。
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[みたか](三鷹)のラーメン たまごは生、温泉たまご、ゆで玉子から選べる。
ラーメンは、先に書いたとおり、トッピングに至るまで、細かな仕事を施すようになり、それが評価されるようになった。繊細なラーメンはより高精細になり、次第にただのゆで玉子は、時代遅れの産物となっていった。確かに、舌先にストレスをかけない、淀みの限りなく少ない美しいスープに入ったゆで玉子はどこか場違いでもある。薬味のようにスープに影響を与えるわけでもなく、チャーシューのように手間をかけられているわけでもない。ただ、ラーメンのコアな魅力というのは、ラーメンが誕生してからおおよそ115年変わっていない。それは美味しさと満足(腹)感がまったく譲らず、競い合うようにして、同じくらい食べる人に訴えるところであり、どんなに味が進化していこうとも、他の料理の要素を取り込もうとも、揺るがないアプリオリであろう。
かつて、屋台でラーメンの隣にいたおでんの固茹で玉子のテクスチャーのように、味が染み込んだ白身とホクホクとした黄身。スープ(出汁)との相性がいいのは、その黄身にスープがふわりと混ざって崩れていくそのグラデーションを楽しめるから。玉子を半分に割り、その片方をレンゲに玉子を乗せて、それをそっと、静かにスープに埋める。そうするとその断面にスープが入り込んできて、黄色と混ざり合う。液体と個体が溶け合うこの間が、実は「美味しい」が言語化される間なのだ。美味しさとは、味の確認作業ではなく、体で感じる体験だから。
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なにも逆張りを主張しようってことではない。「普段、ラーメンにたまごは入れないよ」という人は案外多い。そんな人にこそ改めて固茹で玉子をラーメンと美味しく食べてほしい。トロトロの味玉に感嘆の声をあげている人も、火を通した玉子の美味しさをもう一度味わってほしい。おでん屋で玉子を食べるときの高揚感を思い出してほしい。
最後に、主に東京で固茹での玉子が食べられるお店を列挙しておこう。ちょっと角度の違うラーメンの食べ歩きの一助になれば良い。
東池袋大勝軒(東池袋)
喜楽(渋谷)、永楽(大井町)
ちょろり(恵比寿)
ホープ軒本舗(吉祥寺)
丸福(荻窪)
たんたん亭(浜田山)
かづ屋(不動前)
いしはら(西荻窪)
ラーメン一番(小竹向原)
ラーメン二郎品川店(品川)
むらもと(大岡山)
はやしまる(高円寺)
下頭橋ラーメン(ときわ台)
マルフル食堂(羽村)
らあめん英(渋谷、経堂)
蒙古タンメン中本(各店舗)
ともちんラーメン(高円寺)
永新(麻布十番)
ひまわり(東十条)※半熟と固茹でが両方入ります
光来(新宿西口)
元楽(蔵前)
桂花(各店舗)
北大塚ラーメン(大塚)
珉珉(東向島)
メルシー(早稲田)
※順不同

- Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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