
地方に行ったら、粋な飲み歩きを知りたい。
編集者・川端うのさんに聞いた、「金沢」のはしご酒ガイド
旅のはじまりは、ちょっとした戸惑いから始まることがある。
「さて、どこへ行こう?」
旅先でふと湧きあがるそんな疑問に、やっぱり頼りたいのは“その街を知る人”の声。大学時代を金沢で過ごした食好き編集者の川端うのさん。帰省のたびに向かうのは、学生のころに通った思い出の店、東京での暮らしと地続きになった店、そして変わらない地元の空気が残る場所。
アペロのパン屋からはじまり、昔ながらのおでん屋を経て、深夜のワインバーでゆるやかに着地するまで。ひとりでも、誰かとでも。金沢の気のいい場所を飲み継ぐ一日をご案内します。
金沢のはしご酒 by 川端うの
14:00 [ひらみぱん]
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16:00 [café ASHITO]※現在は新店オープン準備につき閉店中
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17:00 [おでん 若葉]
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19:00 [ニューロン]
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21:00 [伊東商店]
14:00 [ひらみぱん]のパンと白ワインでアペロを。
金沢に着いたら、まず向かうのは香林坊エリア。金沢城や21世紀美術館からもほど近い、せせらぎ通りのいちばん奥にある、ビストロ兼ブーランジェリーへ。
なんとなく、旅先ではパン屋さんからスタートしたいという、ゆるめのマイルールがあって(起きられない日も多いけど…)。実は大学時代、ここでアルバイトをしていた思い出の場所でもあり、東京ライフへの気概にも繋がるような場所だ。
店内はアンティーク調の空間で、窓を覆う蔦越しの景色を眺めて、パンをつまみながら白ワインをぐびっと飲んで、旅のエネルギーをチャージ。東京の喧騒から離れて時が止まったような穏やかな時間と空間にchill……。というのはもちろんここのパンは妙に毎日食べたくなる味。バゲットやクロワッサン、カヌレみたいなベーシックなものほど、齧りつく軽快な感じが心地よくて、白ワインとの相性もぴったり。旅の一軒目として、最適です。
店主の平見さんは、行くたびに新しいアイデアを重ねていて、お店もどんどん進化してる。帰省のたびに訪れても飽きないし、むしろ元気がもらえる。そんな尊敬と感謝の気持ちを込めて、「今日も飲みまくるぞ」って気合いが入ります。
16:00 伝説のカフェ[cafe ASHITO]へ。
[ひらみぱん]から歩いてすぐ。せせらぎ通りをぷらぷらと寄り道しながら、インテリアショップやジェラテリアを横目に向かうのが、かつての定番ルート。次に目指すのは[cafe ASHITO]。瓶のハートランドをちびちび飲みながら、店主の櫻井大和さんや常連さんとおしゃべり、を毎日したい(していた)大好きなお店。残念ながら2024年に閉店…。
東京・世田谷から移住してきた大和さんのトークと空気感は、確実に金沢にCityの風を吹かせてくれた。今は神戸でネクストステップを準備中らしいけれど、閉店してもなお、こうして紹介したくなる。そういう意味で、あそこは本当の意味で“伝説”の店だったのかもしれない。だから私は、語り継ぎます!
17:00 [おでん 若葉] 茶飯・どて焼き・生ビール大の3コンボを。
繁華街・香林坊から少し離れた石引エリアは、金沢美術工芸大学があることもあって、書店やバーなど、独自の文化を遂げている。そんな石引にある[おでん 若葉]には、学生から大学教授、家族連れまでいろんな人が集まるおでん屋さん。
気候がいい日には、金沢では貴重な晴れを喜びつつ、17時の口開けに向けて香林坊エリアから坂道を歩いて登るコースもGOOD。
無事に一回転目で入店できたら、いつも決まって注文するのが「茶飯・どて焼き・生ビール大」。「最初からご飯とビール?」って言われそうだけど、ここのお茶で炊いた茶飯は、不思議とビールが進む。どて焼きは豚バラに白味噌を漬けて焼いたもので、ほんとうにここでしか味わえないジューシーさ。創業90年、3代目の店主が荷台から直接、お皿にチャッといれる軽快なおでん捌きと、積み重ねられる木札が「ああ、東京じゃない場所にいるなあ」と思わせてくれる。気づけば、大ジョッキもぺろり。
19:00[ニューロン] 金沢のニューウェーブ!イタリアン&ナチュラルワイン。
香林坊のほうに戻って、向かったのはイタリアンレストラン[ニューロン]。地元民に人気のお肉が美味しいイタリアンレストラン[ジブンチ]の姉妹店として2024年10月にオープン。まだ一度の訪問だけれど、「お気軽に楽しいお店にしたいです!」と書かれたInstagramのプロフィール通り、その場にいる全員が活き活きしていて、気がいい。カジュアルだけど、メニューには地元の食材がふんだんに使われていて、東京から帰ったばかりの私の心をしっかり掴んでくれます。次に帰省したときは、2階のワインセラーでボトルを選んで、みんなでワイワイやりたいな〜と、すでに決めてます。
21:00[伊東商店] 店主・伊東さのトークを求めて、旅の終着地へ。
店主・伊東さんのキャラクターの面白さとワインや音楽に向けた情熱が癖になり、ローカルから愛されまくっているお店。もはや、「金沢の飲み好き全員が最終着地する場所じゃない?」と思うほど、遅い時間でも途切れることなく人が集まる。でも決してガヤガヤした空間ではなく、その場の全員が伊東商店のムードに身を委ねているような感じ。ひとりでふらっと飲んでいても、誰か知り合いがやって来たり、その場にいる人と会話が弾んだり。気楽に、無責任に、その場の雰囲気に飲まれるのが旅行者の醍醐味だと実感させてくれる場所。
帰り道、スマホの写真フォルダを見返すと、酔っ払って撮ったであろうブレブレのショットに、必ず伊東さんの残像が映っていて、どんな話をしていたかは覚えてないのに、「また金沢に行きたいな」と思わせてくれるんです。
案内人:川端うの
1999年、福井県生まれ。大学時代金沢で過ごす。大学卒業後、FIUME Incにて雑誌や広告、Web媒体の企画・編集に従事。2025年8月よりワーキングホリデーでイギリス・ロンドンへ移住中。
IG @korehaumai