
嗚呼、愛しのあの餃子!
[スヰートポーヅ]愛しても愛しても愛し足りない愛しの焼餃子
2020年6月9日。神保町の[スヰートポーヅ]は、ひっそりと65年の歴史に幕を閉じた。コロナウイルス感染拡大防止に伴う休業から、そのまま閉店へ。それは突然の報せで、お別れを言うことも、感謝を伝えることもできなかった。
[スヰートポーヅ]はみんなにとって特別なお店だった。
昭和11年に[満州食堂]という名前で中華料理を提供していたお店が、昭和30年に神保町に餃子専門店[スヰートポーヅ]としてオープン。そこから65年、おいしい餃子と温かい接客でみんなに愛され続けた。創業当時から変わらない皮の両端が開いた独特な包み方。そこから漏れ出した肉汁が皮に染み込み、焼き目までつややか。シャキッとした歯ごたえとお肉の旨みが詰まった肉餡……。
お店が営業しているかドキドキしながらあの路地を歩くことももう二度とない。[ろしあ亭]と[マキャヴェリの食卓]という癖の強い両サイドの店名が気になることもない。ぎゅうぎゅうの相席で照れることもなければ、恐ろしく狭いトイレで膝をぶつけることも、もうない。中皿か大皿か悩むこともないければ、お通しの塩豆で口の中がぼそぼそになることもない。お母さんの優しい笑顔を見ることもなければ、あの大好きな餃子をもう二度と食べることもできない。そう思うと涙が出るほど悲しい。人との別れもつらいけど、お店との別れも同じようにつらい。
しかしこれはお店が決めたこと。色々大変なことがあって閉店という道を選んだのだろうから今は「お疲れさまでした」と言ってあげたい。
「スヰートポーヅ」とは「美味しい」「ポーヅ(包子)」という意味。六五年に渡って私たちに美味しいポーヅを食べさせてくれてありがとうございました。大好きでした。一生忘れません。ごちそうさまでした。こっそり持って帰った箸袋は私の一生の宝物。
Illustration by Yujiro Koyama(イラスト 小山ゆうじろう)
2021年19号 RiCE「餃子がご褒美」に掲載
1987年、東京生まれ。新卒で入社したファーストリテイリング在籍中から餃子愛を温めつづけ、2019年に同社を退職、餃子の道を歩む。愛ある餃子を求めて全国各地を食べ歩き、自身のInstagramやウェブサイト「今夜も餃子とブギーバック」で情報発信を行う。 IG @kebab