ナポリタンは“料理界のブレイキングダウン”!!

「究極vs至高」ナポリタン対決、って何だ!?


RiCE.pressRiCE.press  / Dec 8, 2023

喫茶店・洋食店の人気メニュー、スパゲッティ ナポリタン。「イタリアにはナポリタンはない」なんていうトリビアはすでに常識のようになっているが、発祥は(諸説ありだが)、戦後間もない横浜。[ホテルニューグランド]の2代目総料理長・入江茂忠氏が、茹でたスパゲッティをトマトケチャップと塩胡椒で炒めて進駐軍が食べているのに着想を得てメニュー化したといわれる。

「初代料理長のサリー・ワイルさんが、フランス料理風にスパゲティ・ナポリテーヌというトマトソースのスパゲッティを作っていたのですが、当時の日本人はスパゲッティに馴染みがなかった。2代目の入江さんは、パスタを茹でて一晩冷蔵庫で寝かせるという茹でおきをアレンジとして加えた。喫茶店などでも取り入れやすく、全国に広がっていったんです。野毛にある[センターグリル]というお店は、昭和21年からナポリタンを出しているので、そちらが発祥とする説もあるのですが、元々[ホテルニューグランド]の初代料理長のもとで修行をされていた方のお店なので、いずれにせよ[ホテルニューグランド]の存在は欠かせないんですね」

と、流れるようにナポリタンの発祥について教えてくれたのは、日本ナポリタン学会会長の田中健介さん。先日行われた「究極vs至高 ナポリタン対決」(at JINNAN HOUSE)でのオープニングトークの一幕だ。日本ナポリタン学会は、2009年に発足、懐かしくもおいしい「スパゲッティ ナポリタン」を日本の発展と共に歩んできた貴重な食文化であると再評価・再認識することから地域・日本を活性化させようという有志団体。38軒の認定店リストはナポ活の参考になりそうだ。

ナポリタン対決って??

突如として始まった、この対決。発起人は「餃子超人」としておなじみのオガサワラガクさんだ。餃子超人が、ナポリタン……?

「僕は普段ひたすら餃子を食べる男なんですけど、ナポリタンは正直に言うときらいな食べ物だったんです」と同じくオープニングトークで説明するガクさん。

「子供の頃に家で食べるということもあまりなかったですし、喫茶店ですとどうもハズレな記憶が多くて……。今日の対決に参加してくれる山口航平くんは飲み仲間で、よくうちでナポリタンを作ってくれるんです。そのナポリタンがすごく美味しくて! もう一人の(対決参加者である)高倉遼さんは出張料理人として活動されているのですが、高倉さんのナポリタンは食べた瞬間に全身に衝撃が走るほどでした。『自分はナポリタンを全然知らなかったんだ』と気付かされたんです。『航平くんと高倉さんのナポリタンの食べ比べをしたい』という個人的な思いがSNSでつながって、こうした大げさなイベントになりました(笑)」

左奥から山口航平さん、高倉遼さん、田中健介会長、オガサワラガクさん。山口さんは会社員で、友人のホームパーティーでナポリタンを作る通称「流し台の湯切り人」。高倉さんも平日は会社勤めで、週末に「流しの料理人らしき人」としてケータリングなどを行なっている。会場はJINNAN HOUSEの地下「diggin studio」

山口さんと高倉さんがそれぞれのナポリタンを作り、約50名の来場者が試食の上、美味しいと思ったナポリタンに一票を投じる、というのが今回のナポリタン対決のあらまし。

早速双方に作り方を聞くと、なるほど、けっこう違いがある。

高倉 濃厚だけど疲れない味を目指して、甘さはしっかり、でも酸が残って、麺やピーマンの食感含め食後感まで踏まえて作ろうとしています。

山口 高倉さんの後に言うのは申し訳ないのですが……僕は暴力的なバターと(笑)、ケチャップケチらず、小麦の味をばんと伝えたい。ちょっとラーメン二郎にも近いような。パワープレイ感が強いナポリタンです。

こうした方向性の違いは、そもそも本業が料理ではない二人がなぜナポリタンを作りまくっているのか?という問いに対する答えにも表れていた。

高倉 自分の家でコース仕立ての食事会をする時に、最後に素朴な味わいをと思ってナポリタンを出すことがよくありました。最近は出張でやることが増えているのですが、ケータリングでパスタってけっこう少ないんです。茹であげて調理してというオペレーションが意外と難しい。パスタを出したら喜ばれるだろうし、ナポリタンなら可能なんです。ナポリタンは自分の中でパスタの最適解に近いという感じです。

山口 自分は職場が神保町なので喫茶店が多くて、[さぼうる2]や[ラドリオ]などに行くことが多々ありまして、食べていたら馴染んでいった感じです。祐天寺に[はがくれ]というもつ焼き屋さんがあるのですが、そこのナポリタンがクリーミーで、それまでのイメージが覆りました。[はがくれ]のクリーミー系のナポリタンに影響を受けて自分でも作るようになったんです。その味を再現するために、バターをたくさん入れるというところが始まりで、それはお父さんが週末に作ってくれたバターとケチャップべちゃべちゃ入れてっていう味にも通じるものがあると思います。

二人並んでおよそ50食をひたすら作る! いい香りがしてきました!

こちらが高倉さんのナポリタン!

ケチャップソースの色はややこんがりした感じ

使用したパスタは、「ディ・チェコ」の1.9mm(No.12 スパゲッティ)。ブロンズダイス型で作られる、表面に細かなザラザラがあるタイプで、ソースがからみやすい。高倉さんは「市販のパスタは軒並み試してこれに落ち着いた」と話す。

高倉 一晩寝かせるのに適していると思います。2mm以上だと個人的には少し太すぎる感があるんです。

ソースは、ハインツとカゴメを2:1でブレンド。あらかじめ、2/3くらいの量まで煮詰めておく仕込みが高倉さんレシピの特徴の一つ。

ウインナーと玉ねぎを炒めたところにソースを入れてなじませ、その後、スパイス感と甘みを補うためにブルドッグのウスターソースを隠し味的に入れる。ケチャップソースのスパイス感は火入れで飛んでしまうので、最後に追いケチャップをして、トマトの香りをブーストさせる。ピーマンは火を止めてから投入し、ほぼフレッシュな食感と味でご提供。

山口さんのナポリタンはこちら!

麺が太い!

イタリアの高級パスタ、「マンチーニ」の2.4mmを使用。

山口 濃いめのソースにも負けない、麺の美味しさを全面に出して勝負しようと思います。僕の拙い料理スキルで高倉さんと渡り合うにはこれを使うしかない、採算度外視です!(笑)

ケチャップはカゴメのみ。「カゴメのケチャップはスパイス感がしっかりしている」ので十分とのこと。具材は、ウインナー、ベーコン、ピーマン、マッシュルーム。

山口 玉ねぎは火を入れた時の甘さが個人的に好きではないので入れません。そしてちょっと味の素で味を調えて……最後にバターを入れます。バターの香りが飛ばないように予熱でなじませます。

盛り付ける山口さん。仁義なき戦いキャップからバチバチ感が伝わる。会長も後ろで見守る

こちらも盛り付ける高倉さん。そういえばオレンジのシャツはナポリタンコーデだったのかもしれない。会長も熱戦の渦中で試食する

山口さんvs高倉さんの対決の前には、田中会長のエキシビジョン・ナポリタンも振る舞われ、合わせて3種類のナポリタンを賞味した来場者の方々。山口さんと高倉さん、どちらのナポリタンが好きだったか、投票を行なった。

ナポリタン対決の行方は……!?

お腹も満ちて歓談するオーディエンスに向けて、田中会長が満を辞して結果を発表した。

「早速結果から言いますね。28対25で……!……

……勝者は、山口さん!!」

「お〜〜!」という感嘆の声が会場中からあがる。山口さん本人もやや驚いた様子でいると、高倉さんがライバルの拳をさっと持ち上げた。「おおお!」と感動に近い声が拍手とともにあがった。

山口 勝ち負けということよりも、28対25という接戦を繰り広げることができたことがすごく嬉しいです。これも、マンチーニ  2.4mmの高原価率のパスタのおかげと(笑)、来てくださった皆さんのおかげだと思っております。引き続きホームパーティーでナポリタンを作っていきたいと思いますので、友達各位、よろしくお願いいたします。ありがとうございました!

高倉 航平くんの言った通り接戦だったことはよかったと思います。味の好みは人それぞれ。個人個人が美味しいと思うものを見つけるきっかけになったとしたら嬉しいです。こういうイベントを今後も続けていきたいと思いますので、楽しみにしていただけたらと思います!

最後に総括をしてくれたのは田中会長。

田中 山口さんは2.4mmのパスタと、玉ねぎを使わない。そこが変わっているなと思ったんですけど、作りとしては懐かしい感じですよね。けっこうぐつぐつと乳化を意識していましたね。高倉さんは、ソースをあらかじめしっかりと煮詰めて作ってある。都筑区にある[よこはま物語]というお店に近いものがあって、すごく親しみを感じてよかったです。ピーマンを炒めないでフレッシュな食感を残すという、そこもちょっと変態的な感じですよね。ナポリタンとはこうであるというのはなくていいと思うんです。人それぞれのナポリタンがある。それを楽しめるのがナポリタンのいいところだと思います。

これにて「究極vs至高 ナポリタン対決」は決着!

「ナポリタンは調理工程がシンプルであるが故に、素人でもプロに勝てる数少ない料理の一つだと思うんです。つまり、“料理界のブレイキングダウン”。今後もそうした夢のある対決を企画したいと思います!」とガクさん。

次はどんな名勝負が生まれるのか、続報を待とう。

Photo by Makoto Takeuchi(写真 竹内誠)IG @makoto_takeuchi10
Text by Yoshiki Tatezaki(文 舘﨑芳貴)

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