一期一食

021. 時間の魔法がかかったお鮨


Orito HamadaOrito Hamada  / Sep 30, 2020

何よりお鮨が一番好きな食べ物なんです、本当に。

仕事柄ツアーでいろんな季節にいろんな地域に若いときから行っていました。僕は密かにお鮨屋さんに通いまくっていました。地元のお酒と海の幸をいただくにはそれが一番だったし、大人になれた気がしたんですよね。そして、お鮨屋で教えてもらった酒場にまた繰り出すのが好きだった。そうやって、地域の友だちを増やしていったんです。今となっては財産になっているかもしれない。

なかなかこの連載でお鮨のことを書くタイミングを逃していました。本当のこと言うと、お鮨は握ってもらったら即食べたい。本当は写真も撮りたくない。大将と真剣に向き合いたいから。だから、連載にはあまり向かないんだけど、今回は本当に我慢して写真頑張りました。

タイミングよく久々に[喜邑]さんに行くことができたのでご紹介したいと思います。一つのショーを見るかのような劇場の始まりです。大将のニコニコしながら握る姿がとっても好き。そして、奥様のおもてなしもいつもながら最高なのです。僕なんか大したことない客なんだけど、名前で声がけしてくださるところとか、細かい優しさの積み重ねがすごく嬉しいなといつも思います。贅沢なお鮨屋さんなのに、アットホームな空気なところもグッと来るポイント。こうやって言葉を紡いでいるうちにもまた行きたくなってしまう。

まずはお鮨が始まる前に沢山のおつまみが出てくるのがスタイルです。一つ一つの仕事の丁寧さがたまらないです。

しじみ酒、イカの塩辛、ホッキ貝のオイル漬け、アナゴに山椒と生姜のブロックと一緒に。しじみ酒を飲みながら頭を巡らせていきます。美味しい地酒もいただきながら心も身体も準備を始めていきます。ピッチ良くどんどん美味しい肴が出てくる。オイル漬け美味しかったなぁ。

鮑の塩辛、雲丹蕎麦、メヒカリ、渡蟹ブランデー漬けにTKG。鮑も雲丹もこうやって食べると心地よい。メヒカリも渡り蟹も工夫がいっぱいで、TKGここで来るのかー!って。口の中がどんどん色んな味で満たされていく。いつも思うけど、セットリストが素晴らしい。まくし立ててくるんですよね。お酒も進んでしまいます。

そして、握りの前に海苔とシャリの美味しさをストレートに味わわせてくれます。噛めば噛むほど、素材の味がしっかり出てくるんです。

海苔は鹿児島出水の浅草のり。お米は岩手遠野4号。お酢は富士酢。富士酢は喜邑の大切な特徴ですよね。

準備万端。お酒も進んでしまって少しだけ気持ちも高まって握りのセカンドステージの始まりです。

2ヶ月熟成のカンパチ、牡丹海老、黒ムツ、カワハギに薄くなったキモが仕込んであります。魚を熟成させるのが[喜邑]の特色ですよね。時間の魔法がかかったお魚で作られた握りなのです。すべてのネタの旨味が熟成によって引き上がっています。そして、ネタの質感が少しネトっとする。それと絶妙に合うようにシャリが作られています。噛んで口内でお鮨が完成するのが楽しいところ。カンパチもさることながら、このカワハギ、本当に美味しかったな。肝を薄く切ってシャリとの間に仕込まれていました。おかげで、口内でのアンサンブルがたまらなかったよ。しっかり、シャリとキモと身が混ざる。たまらないよ。

天草のアカ雲丹、ぶり、筋子、カツオ。大将の雲丹の使い方が個人的にはすごく好き。そして、いくらじゃなくて、筋子で出してくれるところもポリシーを感じて、世界にどんどん引き込まれていく。旨味が本当に心地よくて、それを地酒で流してまた次の旨味。本当に多幸感ですよ、ここのお鮨は。

小肌、ハマカジキ、穴子、玉。コハダは大きめなのがお好みで、しっかり味わえます。カジキも美味しかったなぁ。大将が出してくれるネタは、熟成するために他のお鮨屋さんとは少し違う。そこも楽しさを創出しています。あんまり大将は説明しないけど、玉もすごく美味しいんですよ。薄焼きスタイル。

最後のデザートは佐々木要太郎のどぶろくジェラート。スッキリして、ステージ終了。

もしこの連載の配信とかあったら、きっとこの文章の10倍くらい一人で話し続けると思います。その話はまた今度の機会に。稲田さんとお鮨で語ってみたいな。

ごちそうさまでした。

すし 喜邑(㐂邑)

東京都世田谷区玉川3-21-8
完全予約制
omakase.in/r/km291999

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