
麹からペアリングまで
Gekkeikan Studioが目指す日本酒の未来
月桂冠といえば1637 年創業の老舗にして業界をリードしてきた京都の名門。いち早く酒造研究所を創設し最先端の科学的なアプローチを導入したことでも知られている。日本酒ペアリングのトップランナーの一人と共にその心臓部を案内してもらった。
「ぼくが日本酒を飲み出してからすごく沢山教えてくれた日本酒のお店があって、あるとき『大手が本気出して造ったお酒飲んだことある?』って言われて出されたのが月桂冠で。飲んだら『旨っ』って驚いたのを憶えてて」そう話すのは東京・恵比寿にある[MAEN]のオーナーシェフ井戸さんだ。伏見の酒蔵巡りで月桂冠を訪れたことはあったが、今回は滅多に見学できない総合研究所を案内してもらえるとあって日本酒好きの血が騒いでいる様子。
「それは多分、伝匠の大吟醸じゃないですかね」味わいなどの情報を聞いてそう推測を立てるのは月桂冠の副社長大倉さんだ。
研究室を案内してくれたのは総合研究所製品開発課の大石さん。彼女に今回の特集が麹であることを伝えると、マイナス80度の冷凍庫で管理された酵母株を見せてくれた。
マイナス80度を保つディープフリーザーで保存された酵母株
シャーレに酵母をまいてコロニーを形成させたもの。
「月桂冠オリジナルの麹から商品を作ってみたいという夢はありますけど、まだ実現はしてないですね。オリジナル酵母をもってる酒蔵は結構あるんですけど麹に注力してるところって意外となくて。でも、うちなら出来ると思ってます(笑)。言い過ぎですかね?」と高身長の大倉さんを仰ぐと、「思った通りに話していいんよ」と余裕の受け止め。
月桂冠が他の日本酒蔵に先んじて研究所を創設したのは1909年。以来日本酒に対する科学的なアプローチで研究を重ね、知見を積み上げてきた。その成果のひとつとして近年力を入れているのがGekkeikanStudio だ。
月桂冠が「日本酒を進化させる実験」として位置付けるGekkeikan Studio
最先端の日本酒を試作の段階で提供する実験的なプロジェクトであり、日本酒の新たな可能性を飲み手と共に発見し、進化させるのを目標に掲げる。各プロダクトはリリース順の通し番号がタイトルとなっており、再リリースの場合は小数点で表される。飲み手からの感想をフィードバックさせながら進化し続ける運動体のようなブランドと言えるだろう。
微生物を数十リットルスケールで培養できるプラント。
「月桂冠にとってチャレンジの部分ですね」と大倉さんは明確に定義する。いくら満足のいく味わいが造れても安定した量産の目処が立たないと商品化はできない。大手ならではの悩みを逆手に取って、各種限定約800本の売り切り御免でシリーズ化したのだ。「いろんなチャレンジをこれまでしてきたんですけど、環境的にその余地って、われわれが普段向いてる量販流通に関しては減ってると思っていて。チャレンジする場所が必要だし、チャレンジしないと歯車が回っていかない」月桂冠だけが持つ蓄積と最エッジな部分をさらに研ぎ澄ませたかのようなブランドGekkeikanStudio から、特に気になるものを井戸さんに選んでもらった。
no.2.1とミントのグラニテ。それぞれ簡易的なペアリングサンプルも用意してくれた
no.3.1とそれを使用したゼリー
no.5と、チョコレートに唐辛子をミックスしたもの
「飲んでみたらとんでもなくおいしいし尖ってる。特にNo.3.1のパイナップル香!大手の酒蔵さんが長年積み上げてきた知見と経験をもって取り組んでらっしゃる最先端の味ってこんなすごいんだって驚きました」
ちなみに月桂冠総合研究所では麹や酵母の培養、育種はもちろん、フルーツから香気成分を抽出するなど酒質設計に関わることはなんでも一気通貫で研究し続けている。果ては出来上がった日本酒のペアリング研究まで。「いやもう、やめていただきたい(笑)。いい意味で負けてられないし、気合いが入り直しました」
研究員による手書きの実験データが細かく記録されたノートの数々。過去を遡って参考にすることも。
メジャー/マイナーではなくメジャーとエッジが手を結んだ時にこそカルチャーの変革は生まれやすい気がする。大倉さんは言う。「ぼくらとしては結構ギリギリを攻めようとしてます。逆にいうと月桂冠がメインストリームで流行りど真ん中のことやってもあんまり意味ないかなって(笑)」
🍶Gekkeikan Studio🧪
「日本酒を進化させる実験」最先端の日本酒を試作の段階で提供する実験的なプロジェクト。
IG @gekkeikan.studio
www.gekkeikan.co.jp/gekkeikan-studio[MEAN]
東京都渋谷区広尾1丁目 16−1 EbisuHirooSquare7階
(Google map)
TEL 070-8547-7054
IG @maensakepairing
飲酒は20歳になってから。飲酒は適量を。飲酒運転は法律で禁じられています。妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。本記事はRiCE42号「麹がおいしくしてくれた」の掲載記事を再編集しています。
写真 原祥子(Photo by Shoko Hara)
IG @shokohara_photo
文 稲田浩(Text by Hiroshi Inada)