
[Passific Brewing]×[Giraffe General Store]
仕込む偶然、生まれる『点灯』
RiCE47号「ビールは自由だ。」の取材時には、まだ仕込みに入ったばかりだった、茅ヶ崎のブルワリー[Passific Brewing]と会津若松のクラフトビール・ワイルドエールを中心とした酒屋[Giraffe General Store]によるコラボビール。
そこから約半年。瓶詰め、ラベル貼り、紙巻きと、1本のビールが形になっていく様を追い続けた。
偶然を仕込みながら生まれた、二作目のコラボビール。『点灯』。

茅ヶ崎駅より車で10分ほど。廃工場を改装してつくられた [Passific Brewing]。目印の青い看板を覗くのもこれで3度目、だんだんと慣れてきた。
瓶詰めに向かったのは、本誌取材の際の仕込み日から約2ヶ月が経った6月中旬のこと。

タンクの中には、一次発酵の済んだアンバーカラーの液体があった。
今回のスタイル「ブレットアンバーラガー」の最大の特徴は、瓶詰め時に「ブレタノマイセス」という酵母を添加すること。
この日のメインの作業は瓶詰めに加えて、このビールのキャラクターを特徴づける酵母の添加だ。

[Passific Brewing]醸造長の大庭陸さん、[Passific Brewing]共同代表の山本俊之さん、[Passific Brewing]ブルワーの小寺くるみさん、[Giraffe General Store]店主の川谷晃司さん、それぞれが持ち場を担当し、中継しながら作業を進めていく。
[Passific Brewing]をはじめとする、中小規模のブルワリーでは、ビール造りの多くを手作業が占める。ワインのボトリング用の機械はあっても、あくまでも半自動化。はじめから終わりまで人の手を必要とする。
醸造所内の通路のスペースを作業場に様変わりさせ、慣れた手つきでボトリングを開始する。限られたスペース内を最大限効率よく活かしながら、作業動線が無駄なく組まれていく。
たった22坪という広くないこの醸造所内で、この人たちは、一体今まで何本のビールと熱狂を生み出してきたのだろうか。

タンクから専用の機材へと液体を引っ張り、瓶の中へ注入。
瓶に詰めた後、液体酵母のブレタノマイセスを添加していく。

[OMEGA YEAST]は、アメリカのクラフトビール用の液体酵母を製造・販売するメーカー。数多くのコレクションを持ち、注文すると必要に応じて培養して送ってくれる。
「ブレタノマイセスにも何種類かあって、前回使ったブルクセレンシスは割と王道。今回はもう少し赤ワインのような、熟した果実感が出るクラウセニイ。ビールの色や味わいとの相性を考えて、リッチな感じのほうが合うかなと思って」と、大庭さん。

一つひとつに、シリンダーで添加していく。
今回のビールのインスピレーションの源は、「約150年前のベルギーでランビックを駆逐したラガービール」。当時のベルギーでは、効率的に製造することが可能なラガー人気が高まり、もともとランビックを造っていた設備を用いてラガーを醸造していたはず。そこで醸造されるラガービールは、設備内に残る野生酵母による発酵が進んでいたのではないか——。そんな想像から生まれたビールだ。
偶然によって生まれたであろう液体を、意図して再現する。そのために、一本一本のボトルへ決められた量のブレタノマイセスを添加していく。セレンディピティを再現するために必要なのが、分析と実験という科学的なアプローチなのだから、なんとも皮肉で面白い。
ただ、ビールという圧倒的な管理下で生まれる液体だからこそ、野生酵母というひとつの変数に、揺らぎを委ねることができるのかもしれない。

栓をして、他の菌との接触をなるべく避けるためにも、一度水を通す。
こうして封をされたボトルはセラーに保管され、3ヶ月ほど静かにその時を待つ。この期間に、瓶内では野生酵母による二次発酵が進み、いよいよ出荷に向けておめかしする日。
さっきまで、表も裏もなかった瓶に、成分表示と『点灯』のステッカーを貼っていく。

シールが印字された台紙からステッカーを貼っていくわけだが、一枚ずつ剥がしたりはしない。いい感じに台紙を折って棚に一気に「ぺっ」。そこから瓶へと貼っていく。(写真提供:Passific Brewing )
そして、ようやく明示的に「点灯のボトル」になった大瓶を、今度は丁寧に紙にくるみ、整えるのだ。

紙が薄いので、思い切り引っ張ると破けてしまうけど、ゆるい包みだとどこか不格好。簡単かと思い込んでいた作業も、いざ手を動かしてみると難しい。(写真提供:Passific Brewing )
熟成期間を含め、一般的なビールの製造よりも長い過程を要して完成した『点灯』。
ただ「完成した」という表現が適切かは、実は誰にもわからない。「リリースの用意が整った」がより正確なところだろう。
なぜなら、瓶内発酵は続いていく。今飲むのと、1年後飲むのとでは味が異なる。酵母の働きにより味が落ち着いたり、深みが出ることもある。
ただそれも、決して待つのが正解というわけでもなくて、その分キャッチーさが減ることだったある。
そう考えると、菌による力で発酵させて生み出される液体ってなんだかロマンチック。あまりにも小さいがゆえに目には見えないけれど、菌の世界にも我々でいうところの「生活」があって、糖を食べ、熱を生み、意図することなく液体を少しずつ変えているのだ。

包装紙のデザインテーマは、明滅から生まれる営み。(写真提供:Passific Brewing )
上品な発酵感に、うまみを含んだ綺麗な酸。燻したような印象がありながら、ホップの苦味もきちんと感じられる。寿司や天ぷらといった和食にも、きっと寄り添うように合う。
ワイングラスでも、ストレートグラスでも。味と向き合いながら飲んでも、気負わずガブガブ飲んでも。どちらにも振れるのは、あくまで“ラガー”という馴染みあるスタイルだからなのかもしれない。
「ブレットアンバー」という聞き慣れない言葉に、見慣れない色。なのに、不慣れな味ではない不思議。
『点灯』は、 10月10日(土)に[Giraffe General Store]で開催されるオープン1200日を記念したイベント兼リリースパーティー『Past 1200 days』以降、順次販売開始予定。
店舗情報)
Passific Brewing
神奈川県茅ヶ崎市萩園2644-3
IG:@passificbrewingGiraffe General Store
福島県会津若松市西栄町7-27
水木定休
月火金土 14:00〜22:00
日 12:00〜20:00
IG:@giraffegeneralstorePhoto by Gen Tanaka @gentanaka86
Text by Terra Owen

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