
連載「Somewhere with a glass.」#3
〜ミュンヘンで感じる文化の本質〜
この夏、3年ぶりにミュンヘンを訪れた。今回はお酒の生産者を巡る旅ではなく、長年「いつかはヨーロッパに行ってみたい。」と言っていた親の願いを叶えるための家族旅行が目的だった。事前に親の希望を聞きながら、相談を繰り返して決まった場所が、今回のドイツ・ミュンヘンだった。
随分と地味な選択だと思う人も多いかもしれない。正直にいえば僕もそう思うし、親も最初はピンときていなかった。もちろんパリやローマ、バルセロナのような世界屈指の観光都市も検討はしたけれど、決して若くない両親と1週間の旅をするのであれば、わかりやすいランドマークがなくても、落ち着きがあって、その土地が本質的に持っている「文化」を感じられるような場所がいいと思った。だから、仮に同じ都市であっても素朴さの残るリスボンや古都ウィーンなどの候補の中からミュンヘンに決めた。



しかし、ミュンヘンは最高だ。コンパクトな街には歴史的な建造物や大きな公園もあり、美しい。交通機関は日本と同じくらいオーガナイズされているし、意外に思われるかもしれないけれど、南ドイツの人たちは明るくて、とてもあたたかい。そして何よりここには最高に美味いビールがある。家族旅行が目的と言いながらも、「やっぱり美味いビールが飲みたい」という個人的な欲もしっかり満たすことができる。
3年前にミュンヘンを訪れたのは11月だったけれど、今回は8月。この夏の季節、ドイツではあちこちでビアガーデンが開かれている。ヨーロッパ各地へのハブとなるターミナル駅であるミュンヘン中央駅から数分のところにあるアウグスティナーケラーは、大きな公園のような敷地のビアガーデン。まさしく朝から晩までひっきりなしに人がやってきては、1リットルのマースと呼ばれる巨大なジョッキでビールをたのしむ。そんなに飲めるの?と疑問に思う人もいるかもしれない。だけど、木樽から直接注がれるビールは、柔らかな発泡に、麦の甘みも感じられて、スルスルと飲めてしまう。これが、とにかくうまい。




ビアガーデンだけでなく、ミュンヘンのあちこちにビールを飲める場所があるけど、この街で暮らすミュンヘンっ子たちにとっては「アウグスティナー」は特別なビール。数ある醸造所の中でも、ミュンヘン最古の醸造所であるということだけでなく、なんというか、ものすごく素朴。瓶だってよく言えば伝統的かもしれないけど、この時代にしては古臭いと感じる人だっていると思う。だけど、マーケティングよりも、伝統や歴史を重んじ、むやみに広げるのではなく、地域との繋がりを大切にする姿勢も含めて、アウグスティナーのビールはミュンヘンの人たちに愛されている(なお街中で転がっている空き瓶は大体アウグスティナーだったりする)。


ミュンヘンを訪れたら、必ず行ってほしい老舗のヴィルトハウス(伝統的な酒場兼食堂)のNuernberger Bratwurst Gloeckl am Dom。ここでは、もう何十年も通い続けているだろう常連たちが朝からビールを飲んでいる。ビールは、もちろん木樽から注がれるアウグスティナー。彼らにとっては、このビールは、決して特別なビールではなく、日常そのもの。常連には常連の席があって、僕のような観光客はその席に座ることはできない。かと言って堅苦しいわけではなくて、誰に対しても開かれている。
新しいお店や流行りのお店、色々なお酒や食事がたのしめるお店だってもちろんいい。だけどここでは、アウグスティナーだけがあれば十分。なぜならアウグスティナーのビールが、彼らにとってのビールであり、日常に不可欠なもの。「文化」というのはまさしくそういうことなんだと思う。


鎌倉のボトルショップ[salo]のオーナー。自らが酒の世界に興味をいだいたきっかけとなるビールの他に焼酎、ジン、ミードまで。独自の目利きによって厳選されたラインナップで、オルタナティブな酒体験を提供する。salo web store
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