
連載「東京農民図鑑」File02_木村雅司
“農ある商売”で廻ってく。酒屋店主の11年間の畑と暮らし。
この連載は、東京にいながらにして、農ある暮らしを送る「東京農民」をファイリングしていくインタビュー企画。今回は埼玉県にも程近い、青梅市瑞穂エリアへ行って参りました。
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農民プロフィール:木村雅司さん
2人目の東京農民は、青梅市のワインショップ[Half Light]を営む、店主の木村雅司(まさし)さん。雅司さんとの出会いは、私がお店に伺ったのが最初なのですが、私自身も畑をやっていることからいろんな畑トークが弾んで会話が止まらないことも。
聞くともう11年も畑を続けていて、さらにはいろんな農法を試してきたと。そんな人にはなかなか出会ったことがない⋯⋯、雅司さんの畑は一体どうなっているの?⋯⋯という純粋な興味から、僭越ながら取材をオファーさせていただいたのでした。
早速雅司さんの、農民プロフィールを伺ってみました。

お名前:木村雅司さん(39)
職業:酒屋
住まい:東京都青梅市
農民暦:青梅市の同じ場所で11年
農民タイプ:なんでもやってみて実感したいタイプ
畑の切り盛り:ご両親と一緒に、3人で
お父さんお母さんと一緒にやられている、というのが私が出会った中では初めてのスタイルで興味深かったのですが、聞くと雅司さんは青梅市の山間ご出身。ご両親は2カ所畑をやりくりするくらい、畑の時間が好きなんだといいます。それならばご実家でできるのでは?と思ったのですが、農との出会いは別にあった模様。
雅司さんが農に目覚め、この畑に出会うまでなど、5つのショートクエスチョンを投げかけてみました。

この景色の中に、ご両親が植えたものもあれば、雅司さんが手を入れたものもあり、自由に混在しているのが面白いところ。

現代的な住宅も目に入る場所にありながら、どこか肩の力が抜ける、気持ちの良い畑。
Q. 農に出会ったきっかけはなんですか?
漠然と農に興味を持ったのは新婚旅行でアメリカのオレゴンに行ったときでした。ファーマーズマーケットでめちゃめちゃ大きいコメット(ラディッシュの品種)をみて、うわー何これ! 俺もいつか作ってみたい!と思ったんです。
職業柄ワインに関わっていく中で、葡萄農家の仕事や、畑仕事を経験してみたいという思いも兼ねてからあったのですが、旅行での体験が重なりやりたい気持ちが大きくなっていたところ、旅行から帰ってきてほどなくして、「うちの畑使っていいよ」と、前職の飲食店のお客さまからちょうどこの畑の話をいただいたんです。
あとダメな考え方かもしれないけれど、当時同世代で畑をしている人は周りにはいなかったので、畑やってるってかっこいいかも!なんて思ったりしたのもあったかな (笑) 。でもだからこそ、一年二年でやめてしまってはそれはそれでダサいよな〜という感覚もあり、続けると決めて、畑を始めました。
Q. お店と畑、忙しい中どのように両立されてきましたか?
畑を借り始めた頃は、とにかくやらなきゃ!と思って、週3〜4回はお店に出勤する前に畑にきて頑張っていた時期もありました。でも今は週1回来たり来なかったり。親も一緒に楽しんでやってくれているので両立できているというのもありますが、当時から「続ける」ことだけは大切にしてきたので、あまり農法もこだわりすぎず、その時々でやれる形に変化しながらゆるくやっています。
でもそうやって11年続けてみると土も安定してきて、野菜ができやすい環境に変わってきています。始めて2〜3年は野菜がなかなかできず苦戦したこともあったけど、最近は畑も自分のメンタル的にもいい感じです。
Q. 畑がある日は、どんなスケジュールで動いていますか?
子供を車で保育園に送り届けて、そのまま畑へいく流れが多いです。大体9時くらいには畑についているかな。畑では、まず収穫→一列耕す→休憩→種まき→帰宅(車で1時間ちょっと)といった感じで作業をしています。お店の営業前、午前中に畑にいくこともあります。
Q.畑で採れたものは、お店でも出していますか?
うちはワインやビールなどを扱う酒屋なのですが、角打ちもやっているので、デリやカレーなどに畑で採れた野菜を使っています。
メニューに使う野菜はほとんど全てが自分の畑のもの。季節や年によって畑にあるものは変化するので、メニューは固定せず、畑の収穫物に合わせて変えています。あとは、お花も畑で摘んで、お店に飾っています。
Q.最近美味しかったイチオシ野菜はありますか?
最近は、少し大きくなりすぎたきゅうりを揚げてみようと思ってやったら、案外美味しくて。揚げなすのマリネから着想をえて、輪切りにしたきゅうりをゆっくり低温で揚げてみたんです。出来すぎたきゅうりは種の部分を取り除いて使う人もいますが、そうするともったいないし形も悪くなっちゃうなと思い。
自分で野菜を育てるようになってからは、野菜ガラもカレーの出汁に活用して全部使い切ろう!とか、よく「考える」ようになりました。

お店で人気のカレー。注文すると「今日は〇〇と〇〇が入ってて⋯⋯」と、いつも違う食材を使われていて、発見も多い一品。
畑をご案内してもらうと、おいしい話が止まらない雅司さん。
野菜ごと、品種ごとにエピソードがあって⋯⋯。「バターナッツカボチャは、ヘタの方はサラダにするとシャキシャキして美味しいんだけど、下の方はスープにするのに向いてて⋯⋯」とか、「交雑しちゃったカボチャも、カレーに入れるのに水分がちょうどよかったんですよね」とか。
ほかにも、購入する野菜からでは生まれないいろんなレシピやお話を教えてくれました。

これだけは種を採り続けているという、お気に入り野菜の「バターナッツカボチャ」。今年の畑でも、実を結びはじめていました。
「絶対」ってない。
栽培方法にしても、調理法にしても、そういう自由な発想は、前からだったのかな?と思い質問してみると、過去には本などで、いろんな栽培方法や農法を学んで実践し、意図せず考え方が偏っていた時代もあったといいます。
でも、畑ではいろんな想定外の出来事が起こって、雅司さんの視点を増やしてくれます。
「ルッコラってあんまり移植(途中まで育った状態で、苗を抜いて別の場所に植え付けること)に向いてないって言われますけど、うちの親が勝手に移動させてたみたいで (笑) 。でも、しっかり根づいたものもあったし。絶対ダメってないんだなーって」

ルッコラ以外にも、いろんなサプライズが畑では起こります。
雅司さんのお店の名前である[Half Light]は、綴り違いで「half(半分) right(正しい)」の意味も込めた言葉。
野菜の栽培でも、こうしないと甘くならないとか、これをやると環境に悪いとか、いろんな教科書的メソッドや考え方が出てきますが、ルッコラが教科書の枠を超えたように、現実は良くも悪くも想定外! 畑やお店でもいろんな経験をし、いろいろなフェーズを経てきて、現実はいろんな可能性があると知った雅司さん。この11年で唯一わかったのは、この先ずっと続けても「完全にわかる、ってことはないんだなということ」だったそうです。
畑のことと並行して、お店でも多種多様なお客様と出会ってきた11年。
野菜を育てた先に、お客様がいる畑生活。「おいしい」という感覚についても色々変化があったようでした。
育てて変わってきた「おいしい観」
「たまに話すんですけど、例えばファミチキみたいなホットスナックって、痺れるくらいのおいしい刺激があると思うんですけど、毎日食べるものではないなという感覚があって。でもこういう畑で育った野菜からは、おいしいとか甘いとかっていう一言では言えない、それぞれの味がある気がします。言葉では表現し難いけど、不思議とまた食べたくなる味というか」

「自分の作る野菜に対しても一般的なおいしいとは違うんじゃないかな? と思ったり、料理にも自信がなかったりもしたんですけど、最近はいろんな味に出会って、わかりやすい “おいしい” だけが正義じゃないな〜と思うようになりました。持ってる味覚はそれぞれだし、おいしいにも色々あるというか。だから、おいしいかおいしくないかではなくて、誠実に作られているかどうかが大事なのかなって」
たしかに、おいしい・おいしくないとか、かわいい・かわいくないとか。新しいものに触れると、ついついそういう二項対立で評価してしまいがちだけれど、育てた過程が入ると、もっと違う感情がでてくるのは、私にも経験があります。
良いか悪いかというシンプルな評価よりも、感想を大事にしたくなる気持ち。
わかるなぁーとお話を伺っていると、畑をするようになって変わってきたことの一つとして、話題はお金の話に。
食が足元にあるから、お金に頼らなくなった
「野菜が育つようになってから、野菜はほぼ買わなくなっていて、お買い物はもちろんしますけど、お金の依存度は減ったかもしれないです」
お店を切り盛りする店主というと、お金のことばかり考えなきゃいけないのかな? というイメージがありましたが、畑と共にある雅司さんの生活においては、お金はあくまで一つのツール。
「最悪職を失ったとしても、野菜食ってりゃいいかなと思って (笑)。近年はお金をためることに躍起になっている人も多い気もしますが、お金ってそれ自体に価値はないと思っていて。何かに変えて初めて価値がでてくるものなので、使える時は使って、何かに還元したいと思うようになりました」
その気持ちはお店にも現ていて、雅司さんが素敵だなと思う物がお酒以外にもずらり。仕入れるものは全て作り手のもとへ会いに行き、深く会話をした上でお店に置かれているし、それはブランドの大小に関わらず、作り手の活動を応援する眼差しが含まれていることも。
暮らしの基盤である「食」をダイレクトに自給している生活だからこそ、心置きなくギブアンドテイクを繰り返して循環していく暮らし。それは決して質素倹約というわけではなく、自分の手元に抱え込まない自由さがあるなと、お話を伺っていました。



さまざまなモノ・コト・ヒトとの縁を、惜しみなく繋いでくれる、雅司さんのお店。
以上、雅司さんの畑からお届けしました。
仕事で稼げるようになることを「食っていく」と表現することがありますが、雅司さんの場合は本当に文字通り、畑をすることで食っていくことができるし、それがまた一つ、商売にもなっている。畑があることでダブルの意味で「食っていく」ことができるようになっているのが面白いところだなあと思いました。
定説やお金、他の人の意見にもしばられずにいられる自由さは、雅司さんが11年の畑生活で培ってきた魅力。ライフスタイルも、ビジネススタイルも型にハマらず自由なのは、雅司さんが手を動かしたからこそのことだなと思います。
「農と商いが両輪で回っていく暮らし」という、どんな教科書にも載っていない、雅司さんならではの“半分正しい”お話からは、学びがいっぱいでした。
あぁ畑って、すごいなあ。いつも人の生きる根源に立ち返らせてくれるなあ。そんなことを、じわりじわりと感じた良い畑訪問でした。
ぜひ皆様も、機会があれば誰かの畑を訪問して、いろいろおしゃべりしてみてほしいです。
ではまた次回のインタビューも一緒にお楽しみいただけたら幸いです!
Half Light
東京都青梅市吹上323-5
12:00〜21:00(金曜日は15:00〜21:00)
定休日:木曜日
IG @half_r_light

- Farmer
波平雪乃 / Yukino Namihira
1996年、愛知県出身。東京・青梅在住の「東京農民」。あきる野の「おおば自然農園」にて、 仲間と一緒に自然農での米や野菜づくりに取り組みながら、藁細工など生活の手仕事を学んでいる。農にまつわるワークショップやイベントを行うほか、夫で料理人の波平龍一氏と一緒に「暮らしの料理」を主宰する。
IG @yukino2ku
波平夫婦の暮らしの料理🥢 @kurashinoryouri
おおば自然農園🌾 @oobashizennouen
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