
高円寺から、間口を広げる
日常の選択肢としてのインド料理 [the MANDA]
「イタリア料理店をスパゲッティ屋さんとは呼ばないけど、インド料理屋のことはカレー屋さんって呼ぶ人も多いですよね。」
なんかすごく納得してしまう例えを挙げてくれたのは、高円寺にあるインド料理屋[the MANDA]の店主・増田直生さん。
“インド料理”というくくりではまだなじみが薄い一方、ナンやバターチキンカレーといった“カレー”は日常的にある日本は、もしかしたら少し特殊な環境なのかもしれない。

店名の由来の源流は、萬田久子。いろいろ経て、いざ自分の屋号を持つときに「theだな」となり、[the MANDA]になったというテンション感が絶妙。
そんな増田さんの前職は、病院の栄養士。
料理は好きだけど、料理人ではないという自覚の中で、なんとなく家でやり始めたのがカレーだった。
「カレーって最初から上手っぽくできちゃう。それで作ったものをインスタに載せてたらイベントに誘われて。それが、人にカレーを出した最初。」
そこから1〜3か月に一度ほどの間借り営業を重ね、実店舗を持つために病院の仕事を辞めたのが3年ほど前。間借りでの活動は、合わせて7〜8年ほど続けていたという。

店内の食器も、すべてインドのものを使用。シルバーの食器ってどうしてもテンションが上がってしまう。
カレーからインド料理へと興味が広がっていったきっかけは、かつて東京駅にあった[ダバ インディア]だという。そこではじめて「南インド料理」を知り、はまって調べていくうちに出会ったのが、三茶にある[SUNVALLEY HOTEL]。
こんなかっこいいやり方があるのか、と一番衝撃を受けたという。
食べに行って、通いつめ、見て味を覚える。たまーにくれるヒントをこぼさないように。
やると決めたらやり切る行動力が、増田さんの話の至るところに見え隠れする。
例えば、パロッタ作り。
インドに行って、食堂のキッチンを見せてもらったり、町の屋台でパロッタが作られるのを3時間見続けて学んだという。

間借り時代からパロッタを出していたことも珍しく、[the MANDA]を知ってもらうきっかけの一つに。
屋台でやっているくらいだし、パロッタはインドでは日常食。一方、今の日本では、パロッタがまだ特別なメニューとして扱われることが多い。それくらい、日本ではまだ現地スタイルのインド料理が日常に根づいているとは言い難いのだ。
そのため、こうした店を選んで足を運ぶ人は、必然的にちょっとマニアが多い。
だからこそ店内は、超オーセンティックではなく「敷居は下げないけど、個性は出す。超インド的な店内ではなく、ちょっとモダンくらいな感じ」を意識して、デザイナーの友人と一から組み立てていったという。

唯一リクエストとして入れたのは、現地らしいむき出しのファンや蛍光灯。
そしてメニューは週替わり。目指すのは12品のアラカルト。

Avial:ジャガイモ、ニンジン、ビーツをヨーグルトとココナッツで仕上げるポテトサラダに近い一品。ココナッツの香りが全体を優しく包み込む。

Chicken Uppu Kari:手羽中を黒コショウとスパイスオイルで仕上げた、タミル式ドライチキン。バシバシの黒コショウとカレーリーフの香りが食欲をそそる。

Mutton Kuzhambu:羊肉のうまみと、さわやかな辛さが特徴のチェティナッドスタイルの力強いマトンカレー。
インド料理は、レシピじゃないところがたくさんある。
もちろん何のスパイスを入れるかも重要だが、決定打は火・水・塩。それらの加減がいちばん大事だという。
だからか、増田さんが作る料理は塩がしっかり効いているはずなのに、しょっぱいとはまったく感じない。むしろ、スパイスや食材の輪郭がパキッと立ち上がってくるような、絶妙な加減。
「こんな料理があるんだ、と知るきっかけがここでできればいいかなって。インド料理というシーンを守る人は十分いる中で、自分は間口を広げる側になれたら。うちをきっかけに興味を持ってくれていろんなところへ行ってくれればうれしい。」そう語る増田さん。
カレー屋ではなく、インド料理屋。そこからさらに知っていけば、南インド料理があって、タミル料理がある。知識を得れば得るほど、それまで一つに見えていたものを細分化できるようになるのは、なんかちょっとうれしい。

パロッタはサクサクでふわふわ。何層ものレイヤーからなる生地は、ぎっしり詰まっているのにもっちり。つけても、乗っけても、混ぜても。
[the MANDA]で知った料理をきっかけに別の店へ行き、試した後も、最後には増田さんにその話をしに戻ってくる自分の姿が目に浮かぶ。
高円寺というカルチャーど真ん中にある、安全基地のようなインド料理屋。
何はともあれ、まずは試すことから。一回食べたら病みつきになる未来は見えているのだから、みんなで唇をてかてかにしていきましょう。
the MANDA
東京都杉並区高円寺北3-34-2 Tダジュール 1F
17:00~23:00
水・不定休
IG:@themanda__Photo by Rio Watanabe(写真 渡邊 りお)
Text by Terra Owen
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