連載「東京農民図鑑」File01_輪千明日香

「暮らしの豊かさ」じわじわ更新中。仕事と畑の私らしいバランス。


Yukino NamihiraYukino Namihira  / Jul 2, 2026

「東京農民図鑑」は、東京にいながらにして、農ある暮らしを送る「東京農民」をファイリングしていく連載企画。生活の土台に文字通り「土」のある彼らの日常では、どんなことが起こっているのだろう? 自らも東京都あきる野市で田畑をしている波平雪乃が、さまざまなライフスタイルの農民へ、5つの質問と気になることをインタビュー。現代人にとっての食べることや暮らすことの原点をみつめてみます。 
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農民プロフィール:輪千明日香さん

1人目の東京農民は、都心の会社に勤めながら田畑に通う輪千明日香さん。 

私が東京農民になるきっかけをくれた人でもある輪千さん。最初は同じ畑に一緒に通園していたものの、今となってはそれぞれ違う農スタイルに落ち着いているのが面白いところ。農に出会ったきっかけや、今のライフスタイルについてなど、質問してみました。 

お名前:輪千明日香さん(37) 
職業:小売業 
住まい:東京都青梅市 
農民暦:あきる野で8年、小さな畑と田んぼを自然農で 
農民タイプ:ゆるっと無理なく 

自然農無農薬・無肥料を基本に、耕さず、水をやらず、草や虫を敵としないで作物を育てる、いろんな生命と共生する農のありかたのこと。奈良の川口由一さんが提唱。 

Q.農に出会ったきっかけは?
8年前の夏、友人からブルーベリー摘みに誘われてここにきたときに、地元のおじさんに出会ったことがきっかけです。もともと自給自足的な暮らしに憧れがあったこともあり、おじさんとの会話も弾み、「まずはひと畝(野菜を育てるために土を盛った一列分の場所のこと)やってみる?」というおじさんの一言から、その日のうちに畑を始めることに。 

Q.初めて育てた野菜は?
大根・人参・かぶ。きっかけとなった日に、おじさんの言われるがまま種まきをしました。その後も毎年種取りをして、同じ91日には種まきを。その時の種を今も繋いでいます。 

Q.今日の作業は?
お米の苗を育てるための、苗床(なえどこ)を作ります。 

Q.この土地の好きなところは?
ゆっくりとした時間が流れているところ。山も川も近く、いろんな人がそれぞれのスタイルで田畑を楽しんでいて、みんなが共存している感じも好きなところです。仕事で疲れているときでも、ここに来ると元気をもらえて、回復します。 

Q.将来やりたいこと、なりたいものは?
野菜だったり、野菜じゃなくても、何かをひょいっとにおすそわけできるような、そこらへんのおばあちゃんになりたいです。 

ひょんなことからはじまった、輪千さんの農生活。輪千さんの畑をのぞいてみると、一面緑いっぱいで、一体どこに何が植わっているのだろう?とパッとみではわからない草むら感がこれまたいい景色。これは草取りをせず、耕さない自然農というやり方にのっとったもので、雑草の中で野菜を育てることでいろんな生命が共生できるといいます。 

長くとれる野菜がサイコー

今採れる野菜を聞いてみると、ネギやラッキョウ、地域の在来野菜である「のらぼう菜」や「ととはらエンドウ」と呼ばれる超ローカルえんどうなど(あきる野市留原地区の一般家庭で繋がれてきたもので、登録品種ではないので知る人ぞ知る在来種)。小さな畝に実は何種類もの野菜が隠れていました。 

草の中でひっそり生えていた「のらぼう菜」。葉っぱや茎が紫がかっているのは、この地域(武蔵五日市)ののらぼう菜の特徴。

「畑を始めた頃は、何種類ものトマトや、個性のある野菜をいろいろ種まきしたこともありました。でも、なかなか思うようにはいかず。かといって、上手に育てるためにあれこれ勉強したり、きっちり手入れをしたりすることがどうも不得手なようで。 
仕事の都合で頻繁に畑へ来られないこともあり、何年も続けるうちに、比較的手のかからないネギ類や、長く収穫できる野菜に自然とシフトしていきました。今が旬ののらぼう菜は、茎を摘んでも脇芽から次々に茎が伸びてきて、うまくいけば3月から5月に入るまで収穫を楽しめます。キャベツや白菜などは一度刈り取ったら終わっちゃうけれど、長く楽しませてくれる野菜が、今の私のタイプです!」 

ライフスタイルと呼応するようにできあがってきた畑。一見すると何もないじゃない?と疑ってしまう畑でも、お話を聞くといろな野菜がうわっている。作物が目立つTHE畑といったものではないこの景色に心地よさを感じるのは、畑も輪千さんもその二者の関係性も、無理をしていないからなのでしょう。輪千さんと野菜の話をすると、いつもうーんと考え込んでしまって、最終的にわかったのは極論野菜は採れても採れなくてもいいものだということ。あれ?畑をするって野菜を育てることと同義なのではなかったっけ?とツッコミを入れたくなるところだけれど、収穫の喜びはもちろんありながらも、ここにいることそのものが幸せなのだそう。

おいしいより、うれしい。 

「一番好きな季節は春。蒔いた野菜の種はもちろんだけど、雑草含め、いろんな芽が出てきた時にみんなうれしそうだなと思って、こちらまでうれしくなります」。 
食いしん坊な私からすると、てっきり畑といえばおいしい野菜の話がメインだと思っていたけれど、この場所のエネルギーを味わうのも、畑の醍醐味だったなと思い出します。とはいえ、収穫が嬉しくないわけではもちろんありません。採れた大豆で味噌を仕込んだり、収穫したものから何かをつくることも、うれしい瞬間の一つだそう。畑で実ってくれたものは、その味わいがどうであれ、うれしいから全部おいしいのだ、と。 
そんなことを本当にうれしそうに語る輪千さんと、太陽に照らされてキラキラ輝く畑をみて、食べ物うんぬんの前に、畑はいろんな生命の居場所であり、人の暮らしの源泉なんだなと立ち返ります。 

師匠と一緒にお米作りの準備。他愛のない会話をしながら、せっせと体を動かします。 

そういう景色を知っている輪千さんにとって、畑がもたらしてくれたものは大きく、「スーパーに行っても自然と旬の野菜を選ぶようになった」と日々を振り返ります。畑から得られるものは手作りの野菜だけと思ったら大間違い。むしろ、買い物で目に入るものが変わることだったり、選ぶ基準が自然や畑のリズムと連動していく心地よさこそ、暮らしに大きく作用します。いつでもなんでも手に入れられる現代にとって、実感を伴ってものを選ぶ理由を持てているのは実はなかなかありがたいこと。私も畑を始めてから、ものをみる目がメキメキ開いていく感覚を今でも覚えています。 

働き方をチェンジ。より近くなった畑との関係性 

その後も畑の幸せ体験談をたくさんお伺いしたのですが、その傍ら仕事との両立には苦労されたそう。住まいを青梅に戻したり、仕事でのポジションが変わったり。特に大変だった頃は、東京の西から東まで、片道2.5時間をかけて週5日通勤していたのだそうです。 
それでも、輪千さんにとって仕事も畑も大切な存在。どちらかをやめるという選択肢はなく、自分にとってバランスの良い暮らし方を模索してきました。一年前に働き方を変えたことで、日々にゆとりも生まれ、畑との関わり方にも少し変化があったそう。   

働き方が変わってからは、すごくいい感じです。前より時間ができたからといって、たくさん畑にいるわけではないのですが(笑)、畑に通う時間や頻度が変わって、畑に行く心持ちが変わった気がします。 

前までは月に1、2回くらい休日に時間をつくって通っていたのですが、その頃は畑にいくと決めたら、その日は丸一日畑の日で、ある意味イベント的な感じがありました。けれど、ここ最近はようやく車の免許もとって気軽に来られるようになりましたし、平日の朝、家族を駅に送っていくついでに車を走らせて畑の様子をちらっと見に来たりと、より暮らしの一部になった感覚があって。今は、それが幸せです 

ついに車の免許をとった輪千さん。朝早い時間に畑にくるのが最近の通園スタイル。 

輪千さんと私の出会いは仕事でしたが、その時からずっと「ライフスタイルを提案すること」を仕事にされていました。仕事も畑も「暮らしを豊かに」という点では一緒かも、とご自身もお話していたように、それはたまたま重なった共通点というより、もっと根底にあるテーマ。輪千さんの中では仕事も畑も、満足いく暮らしの中にある要素なんだなと感じました。 

ところで、「暮らしを豊かに」というテーマに行き着いたのはどうしてなのだろうと聞いてみると、とあるエピソードが原体験にあるとのこと。幼少期にお父さんの仕事の都合でインドネシアで生活していた時のこと。自分と同い年くらいの子供たちが物乞いをする姿が印象深かったそうで。たまたま日本に生まれた私と、たまたまインドネシアに生まれた彼らたち。もちろんどちらがいい、悪いということではないけれど、同じ人間なのに全く違う生活をしている彼らの日常に触れて、そのころから「幸せってなんだろう?」ということを考えるようになった、と。 

そんな人生の最大のテーマである「幸せってなんだろう?」という問いに対する答えを、輪千さんは仕事や畑を介して、常に更新し続けているのだなと感じました。軽やかに日々たしかめて、心に正直に。選び取っていく!という感覚というよりは、違和感のあることをしないことも輪千さんが大切にしていること。 

おまけ:いつも身につけている農グッズ 

最後に、気になっていたバッグの中身を見せてもらいました。師匠(農との出会いのきっかけとなったおじさん)がカエルの絵柄を彫ってくれた鎌など。輪千さんは自他ともに認めるカエル顔とのことで、よくみるとカエルのマークがあったり、畑の中にカエルのオブジェがあったり?! あそんでますね 

以上、暮らしの豊かさを追い求め続ける輪千さんの畑から、お届けしました。 

畑をやっているんだ、というと趣味なの?仕事なの?と聞かれることもしばしばありますが、農民的にはそのどちらにも属さない、暮らしに内包されている存在だったり、自分と一体にあるものなのではないかな、と思った今回。 
音楽好きな人にとって、クラブやライブに行くのが呼吸をするように大事な時間であるように、畑は暮らしの質を高める大事な一要素。畑や田んぼは、単に作物を育てる圃場である以上に、自分らしさを育ててくれる圃場でもあるのかもしれません。 

次回はどんな東京農民のお話をうかがえるか、楽しみです! 

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