目的地の店から街の拠点へ。

and Supplyが祐天寺に開いた、新しい日常の店[Bonnet.]


RiCE.pressRiCE.press  / Jun 22, 2026

池尻大橋のバー[LOBBY]や、代々木公園のカフェ&ビストロバー[nephew]。ほかにも[Hone] [Staff Only] [sew]など、フーディーなら一度は名前を耳にしたことがあるであろう人気店の数々。 

実は、これらのお店は全て「and Supply(アンド サプライ)」という1つの会社が手がけている。

今年5月、そんな「and Supply」から7店舗目となるお店[Bonnet.(ボネ)]が祐天寺にオープンした。

これまで「and Supply」が手掛けてきた人気店たちは、どれも路地裏や駅から少し離れた場所にあった。その店を知っている人がわざわざ訪れるような店、言わば「目的地になる店作り」を続けてきた。

しかし、[Bonnet.]ができたのは商店街に面した駅近の路面店。ふらっと通りがかった人が入ってきたり、近所の人が日常的に利用したり。これまでとはまったく異なる立地で、新しい店づくりを始めている。 

大きな窓辺にはカウンター席を設置。柔らかな光が差し込み、商店街を行き交う人々の姿を眺めながら過ごせる、心地よい特等席だ。

「祐天寺の拠点」を目指して

and Supply」は[Bonnet.]と同時期、渋谷・松濤にイタリアンレストラン[Drawn]もオープン。2店舗同時の出店は「and Supply」としても初めての挑戦だった。

「リソース的にも決して簡単な状況ではありませんでした。それでもオープンを決めたのは、この物件に『なんだかいい店になりそう』という漠然としたいい予感を感じたからなんです。」

そう語るのは、[LOBBY][Staff Only]、そして今回[Bonnet.]のディレクターを務める倉嶋さん。かつてオーストラリアで暮らしていた経験を持つ倉嶋さんは、今回の物件を見たとき、現地で通ったお気に入りの飲食店の空気感とどこか重なるものを直感的に感じたという。

「外から見ると小さな店なのに、扉を開けると奥に空間が広がっている。オーストラリアで好きになったワインバーやレストランには、そんな店が多かったです。いつか自分もそういう店をつくってみたいと密かに夢見ていました。祐天寺のこの物件に出会ったとき、ようやくその夢を形にできる気がしたんです。」

そうして生まれた[Bonnet.]には、キッチンを囲むカウンター席をはじめ、テーブル席や円卓、テラス席などさまざまな居場所が用意されている。座る場所によって見える景色も変わり、来るたびに新しい発見がある。

店内の席数はおよそ60席。「and Supply」の系列店の中では最も広く、多彩な席が用意されている。「ゆったりとしたソファ席では、お子さんがそのまま寝てしまうこともあるんです。そんな光景を見ると嬉しくなりますね」と倉嶋さん。家族連れからひとり客まで、それぞれが思い思いの時間を過ごせる空間が広がっている。

1人で行っても10人で行っても楽しい、暮らしに寄り添う店作り

こうした空間づくりの背景にあるのは、単なるインテリアへのこだわりだけではない。

一日を通して営業する[Bonnet.]が目指したのは、特定のシーンのための店ではなく、暮らしのさまざまな場面に寄り添う場所だ。

「祐天寺って、渋谷や中目黒とは違ってローカルな街ですよね。でも、一人でも複数人でも居心地よく過ごせたり、お母さんたちがゆっくりランチを食べられたりする場所って意外と少ない。そういう場所があったら、きっと喜んでもらえるんじゃないかと思ったんです」と倉嶋さん。 

台湾の包種茶を使った「台湾茶プリン」。そのほか、カフェタイムにはさまざまな種類の焼き菓子が楽しめる。

駅から近い立地を生かし、営業時間は朝8時から夜まで。朝、保育園の送り迎えのあとにコーヒーを飲みに立ち寄る人もいれば、犬の散歩の途中でふらりと入ってくる人もいる。仕事をしたり、友人と待ち合わせたり、一人でゆっくり過ごしたり。夜になれば、恋人との食事や、円卓を囲んでの宴会など、店の景色もまた変わっていく。

「今日は一人でフォーとビール。明日は彼女とデート。来週は友達と8人で円卓を囲む。そんなふうに、日によって使い方が変わる店がいいなと思っています」

夜の飲食店は多いものの、1人で行っても10人で行っても楽しい店は意外と少ない。家の近くにそんな店があったらうれしい。[Bonnet.]には、そんなシンプルな思いが込められている。

タイ料理屋でも、フレンチでも食べられない料理

[Bonnet.]で提供される料理を一言で表すなら、「フレンチベースのアジア料理」。

その「アジア」は、タイやベトナムといった特定の国だけを指すものではない。東南アジアを軸に、台湾や中東など、さまざまな地域の食文化から自由にエッセンスを取り入れている。単なる多国籍料理ではなく、フレンチの技法を土台に再構築された、[Bonnet.]ならではの一皿だ。

「多国籍料理って、一歩間違えるとなんでもあるファミリーレストランみたいになってしまいます。だからこそ、自分たちらしさを出すにはどうしたらいいんだろうと考えました。」

そこでベースになったのが、[Bonnet.]の料理を担当するシェフ・富田さんのバックグラウンドでもあるフレンチだった。

「タイ料理屋に行っても出てこない。フレンチに行っても出てこない。そんな料理を作りたかったんです」と富田さん。

[Hone]でもシェフを務めていた富田さん。フレンチを中心に、イタリアンレストランでも腕を磨いてきた経験が、アジアの食文化とフレンチの技法を掛け合わせる[Bonnet.]の料理を支える大きな柱になっている。

そんな[Bonnet.]のエッセンスが詰まっているのが、「Bonnet.のエビチリ」だ。

あえて「Bonnet.の」と冠したのは、一般的なエビチリとは異なるアプローチで作られているから。ソフトシェルシュリンプを丸ごと使い、紹興酒で香り高くフランベ。味の決め手となるのは、フレッシュトマトとニンニクを合わせた自家製の「トマト醬」と、エビの旨みが凝縮されたベトナムのラー油「サテトム」だ。

ニンニクやエビの濃厚な旨みに、パクチーの爽やかな香りがアクセントを添える。たっぷりとかかったソースには力強い旨みが広がる一方で、フレッシュトマト由来のジューシーさが後味に心地よさをもたらす。しっかりとした味わいながら、するすると食べ進められるのも魅力だ。

たっぷりのソースは、中国や台湾で親しまれている蒸しパン「包(バオ)」につけて味わうのもおすすめ。最後まで余すことなく楽しめる、[Bonnet.]を象徴する一皿だ。 

「フォー」にも、富田さんのフレンチでの経験が生かされている。

フォーのスープには鶏や牛の出汁を使うのが一般的。だが、[Bonnet.]のフォーは鶏とアサリの出汁を混ぜたスープを使用している。

上に添えられたビーツから色がじんわりと広がり、食べ進めるうちにスープ全体が鮮やかな色に染まっていく。「見ても食べてもおいしい料理」を目指し、味だけでなく、目を楽しませる美しさも追求している。

「フレンチで働いていた頃、重たいフランス料理が続くと、よくフォーを食べていたんです。僕にとっては馴染みのある料理でした。そんなフォーにフレンチらしさを加えるなら何だろうと考えて、フランス料理でよく使うアサリの出汁を合わせてみたら、これがすごく相性が良くて。」

アサリの旨みがじんわりと広がる一杯は、お酒を飲んだ後にもぴったり。「酔った後のアサリの味噌汁と同じような感覚で、お酒を飲んだ帰りに『締めフォー』するのもおすすめです」と富田さんは笑う。

料理の価格帯は、「and Supply」の店舗のなかでも比較的手頃に設定。町中華やタイ料理店、居酒屋のように、気になる料理をいくつか頼み、テーブルいっぱいに並べてみんなでシェアする。コース料理を順番に味わうというより、料理が一気に運ばれてきて、ビールを片手につまみながら過ごす。倉嶋さんが[Bonnet.]を通して思い描くのは、そんな賑やかな食卓の風景だ。

「そういう店って、やっぱり楽しいよね」と倉嶋さんは楽しそうな表情で語ってくれた。

店名の由来は、一匹のサル

[Bonnet.]という名前も、実は料理と同じようにアジアとフランス、二つの文化が交差して生まれた。

フレンチベースのアジア料理というコンセプトにちなみ、当初はタイ語やヒンディー語など、アジア圏のさまざまな言葉を探していたという。そんななかで偶然出会ったのが、インド原産の「ボンネットモンキー」だった。

さらに調べてみると、「ボンネット」という名前はフランス語の「Bonnet」に由来する帽子の名称からきていることが判明。アジアにルーツを持ちながら、フランスともつながるその言葉に惹かれ、店名はよりフランスらしい響きの「ボネ」という呼び名に決まった。

偶然見つけた一匹のサルから始まった名前は、結果的に店そのものを映し出すものになったのだった。

可愛らしくもどこか洒落た「ボンネットモンキー」のロゴは、店内で使われる食器からオリジナルTシャツまで、さまざまな場所に顔をのぞかせる。お店の暖かな色味と相まって、お店全体の雰囲気を明るくしている。

原点[LOBBY]から続くお酒へのこだわり

料理と同じく、お酒にも[Bonnet.]らしさが詰まっている。その理由は、「and Supply」の原点ともいえるバー[LOBBY]の存在にある。

「僕らの始まりは[LOBBY]というバー。だから、もちろんカクテルには力を入れています。日本のレストランで、料理と一緒にカクテルを楽しめる場所って意外と少ない。それは僕らの強みのひとつだと思っています」と倉嶋さん。

キッチン横には、ワインや、アジア各国のビールが並ぶ。食事のお供としてはもちろん、ときには一杯を楽しむためだけに訪れたくなるような充実ぶりだ。

店では7種類のオリジナルカクテルを提供。料理と同じく、アジアからインスピレーションを受けている。ロータスティーやコーンティーといったお茶をはじめ、パクチーやフルーツなど、アジア由来の素材を使った個性的な一杯が揃う。

一方で、料理が居酒屋のようにカジュアルだからこそ、お酒のラインナップも幅広い。アジア各国のビールを7種類揃えるほか、ウイスキーやジン、メスカル、さらには料理に合う焼酎や泡盛も用意。今後も少しずつ種類を増やしていく予定だという。

駅へ向かう途中、2軒目や3軒目にふらりと立ち寄って一杯だけ、なんていう楽しみ方もおすすめだ。

「昨日行ったけど、今日も行っちゃおう」というお店に

[Bonnet.]の今後を訊くと、「年に一回行く店ではなく、『昨日行ったけど、今日も行っちゃおう』と思われるお店になれたらいいなと思います」と倉嶋さんは語ってくれた。 

ランチやカフェ、ディナーまで、思い思いの過ごし方を受け止めてくれる[Bonnet.]。特別な目的がなくても足を運びたくなるその心地よさは、きっと祐天寺の街を行き交う人々の暮らしに自然と根づいていくだろう。

朝から夜までさまざまな表情を見せながら、訪れる人の生活リズムに寄り添う一軒。時間とともに街の風景の一部となり、何気ない日常を少しだけ豊かにしてくれる存在になっていきそうだ。

[Bonnet.]は単なる飲食店を超えた、新しい街の拠点になっていくに違いない。

Bonnet.
東京都目黒区祐天寺2丁目9−3 アキヤマビル
カフェ・ランチタイム:8時〜17
ディナー:18時〜24
bonnet._yutenji

Photo by Soyo (写真 奏葉)
Text by Maho Ofuchi (文 大渕真歩)

 

 

 

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