エディターズノート
「RiCE」第47号「ビール」特集に寄せて
RiCE の第47号はビールの特集です。 前回特集したのが2023年7月号ですから、ちょうど3年ぶり。3年なんてあっという間という気もしつつ、ずいぶん経ったような気も。実際のところビールのシーンは、絶え間なくどんどん変化し続けています。
振り返ると3年前は、IPAやヘイジー が大きなトレンドでした。たしかにあのホップが効きまくった芳しい香りと苦味、そしてトロピカルでフルーティな香りは、ビールの枠組みを広げたといえますし、新しいビールファンを開拓したといえるでしょう。もちろんいまも人気ではありますが、かつての猫も杓子もといった感じではもはやなく。あくまで選択肢のひとつといった感じでしょうか。それは一般化のプロセスとも重なります。
思えばクラフトビールというジャンル、 選択肢も、ここ数年でどんどん民主化していきました。本誌が8年前に初めてビールをとりあげたのが特集「クラフトビールの力」。この頃は、クラフトビールという言葉自体にまだある種のカルト性が宿っていたと記憶します。まだアンダーグラウンドなカルチャーであり、それを支えるビアギークの人たちがいるという構図。
それが3年前の特集「クールなビール 」の頃にはずいぶん一般層へと広まっていました。またビアギークだった人たちの一部はその後ブルワリーに携わったりブルワーになったりして造り手側に回るケースもあったようです。
そしていまやクラフトビールは完全な市民権を得ましたし、一部大手がクラフトビールの多様性を積極的に推し進めることで、ビールの境界線はますます曖昧になってきました。
日本国内にあるブルワリーの数は今年中に1000の大台を超えると言われていま す。それでいてマーケットのシェアはいまだに1%前後とされており、つまり完全に供給過多。淘汰のフェーズに入るだろうという声もあがっています。
その一方、裾野が広がることで競争が激しくなりながら、どんどんクオリティーがあがっているとも言われています 。実際、先ごろフィラデルフィアで開催されたワールドビアカップでは日本勢が大躍進。金賞5本を含む全12銘柄が入賞を果たしました。初めて会場に出席することができたので断言しますが、ジャパンブルワリーの評価は本物ですし、大きなリスペクトを受けています。
北米だけではありません 。今回はヨーロッパにも足を伸ばすことで、その伝統と 歴史を体現するヒストリカルビールにも着目。今に至るビールのルーツを紐解いてみました。またノンアルや低アルのクオリティーも爆上がり中で、その選択肢はさらに拡大していくはず。
いずれにしろ、ビールの世界は変化の真っ只中、過渡期にいると言えるでしょう。 伝統と革新が常にぶつかりながら刺激を与え合って進化を止めない。造り手も自由なら飲み手も自由。ビールの世界はいまかつてないほど多様に広がっている。ビールは 自由だ。
RiCE 編集長 稲田浩
イラスト 下田昌克 Illustration by Masakatsu Shimoda

- RiCE.press Editor in Chief
稲田 浩 / Hiroshi Inada
「RiCE」「RiCE.press」編集長。ライスプレス代表。
ロッキング・オンでの勤続10年を経て、2004年ファッションカルチャー誌「EYESCREAM」を創刊。2016年4月、12周年記念号をもって「EYESCREAM」編集長を退任、ライスプレス株式会社を設立。同年10月にフードカルチャー誌「RiCE」を創刊。2018年1月よりウェブメディア「RiCE.press」をロンチ。