こだわりの食材を、気張らない「洋カツ」で
恵比寿 [洋カツ屋 ドン・デ・ラ・ナチュレ]で 軽やかなカツはいかが
大人になっても、「カツ」にはどうしたって胸が高鳴る。サクッとした衣と厚みのあるカツは、想像するだけ食欲を刺激される、みんなにとってのごちそうだ。
けれど年齢を重ねるほどに、同時に浮かぶのはほんの少しの罪悪感。「おいしい」の裏で「あとで胃がもたれたらどうしよう」という不安もついてくる。
そんな「カツ=重い」というイメージを、ガラッと変えてくれるお店が恵比寿にある。 [洋カツ屋 ドン・デ・ラ・ナチュレ(以下、ドン・デ・ラ・ナチュレ)]は、2025年の7月にオープンした洋カツ屋さんだ。
お店の外壁は明るいピンクで覆われ、メニュー表にはやさしいタッチのイラスト。いわゆる“昔ながらの渋いカツ屋”とは一線を画した、誰でも入りやすい穏やかな雰囲気。お店に入る前から、「いつものカツ屋とは違いそう」という気配を感じさせてくれる。
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内装や外装では、幅広い人が入りやすいような暖かな雰囲気を目指したという。女性の一人客や、子供連れもよく訪れるそう。ロゴやメニューのイラストは、世界的なブランドのイラストも手がけるイラストレーター・三宅瑠人さんによるもの。
[ドン・デ・ラ・ナチュレ]のオーナーシェフ・原田隼太郎さんは、もともとフレンチ出身。調理専門学校を卒業後、有名フレンチや本場パリで腕を磨いてきた。
原田さんが、フレンチのシェフとして食材と向き合うなかで出会ったのは、安心・安全なものづくりを徹底する生産者たち。自らの足で日本各地の生産者たちの元を訪れ、彼らの素材に真摯に向き合う姿勢に触れるうちに、「自然栽培の在来種のお米、有機栽培の野菜、抗生物質不使用のお肉など、日本のいい食材を、もっと多くの人に届けたい」という思いが強くなっていったという。
「幻水豚」と「旭」を生かすための“カツ”
そんな原田さんがお店を始める際、真っ先に使おうと決めた食材は、「旭」というお米と、「幻水豚」という豚肉だった。
「旭」というお米は、「コシヒカリ」や「ササニシキ」の先祖にあたる日本の在来種。いわば、現代の美味しいお米のルーツとなったお米だ。
「現代では、品種改良を重ねたお米が主流になっています。けれどその一方で、旭の生産者の方々のように、確かな意思を持って、昔ながらの種を継ぎながら、品種を守り続けている人たちもいます。そうした思いや背景まで、いろんな人に伝えたかったんです」という原田さん。
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お米はTable to Farm別注の雲井窯の土鍋で炊き、目の前で盛り付けてくれる。「この価格とボリュームで旭を提供しているお店は、決して多くはありません」と原田さん。
「旭」はしっかりとしたお米らしい味わいで、粘りが少なくさっぱり。食べ応えのあるカツを引き立ててくれる、相性のいいお米だ。
また、提供する際には、精米を7割に抑えた「七分づき」で仕上げている。簡単に言えば、玄米の部分が3割残っているため、噛んだ時に粒々とした食感が楽しめる。
幻水豚とは、「幻水」というその名の通り、自然の美味しい水をたくさん飲んで、ストレスのない環境でのびのびと育った豚。脂身の甘みと、ジューシーで柔らかい赤身の美味しさが特徴だ。
[ドン・デ・ラ・ナチュレ]では、原田さんが九州の生産者たちをまわっていた際に出会った、熊本の生産者から仕入れた幻水豚を使用している。
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ポークジンジャーに使用する幻水豚。塩胡椒を振って下ごしらえ。
この想いの詰まった二つの食材を最大限美味しく、なおかつ多くの人に手軽に味わってもらう方法を模索した結果、原田さんがたどり着いたのが、“カツ”だったのだ。
軽やかに満たされる赤身のポークカツ
そんな[ドン・デ・ラ・ナチュレ]の看板メニューは、やはり「幻水豚のポークカツ」。
カツといえばロースやヒレが真っ先に思いつくが、[ドン・デ・ラ・ナチュレ]のポークカツで使用するのは、幻水豚の赤身の美味しさがまっすぐ伝わる内もも肉。
一口食べると、ふんわりとした柔らかい食感と、しっとりとしたジューシーさが絶妙なバランスで共存している。
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低温調理で仕上げたポークカツは、パン粉も肉も柔らかな色味の仕上がり。普通のカツより白さのあるパン粉と幻水豚のピンク色を見て、「可愛い」というお客さんも多いのだそう。
[ドン・デ・ラ・ナチュレ]のカツを食べ終わった時に感じるのは、驚くほど軽やかな満腹感。その理由は、「できるだけもたれないように」と原田さんが揚げ油やパン粉までも丁寧に選び抜いているから。
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カツを揚げる温度は152~153度。原田さんが1度ずつ温度を変えながら試作を重ね、たどり着いた温度だという。休ませながら時間をかけ、丁寧に二度揚げする。
[ドン・デ・ラ・ナチュレ]の揚げ物に使っているのは、パン粉専門店の[中屋パン粉]でつくられた低糖質のパン粉。血糖値の上昇が抑えられ、食べた後も眠くなりづらいそうだ。カツを揚げる油も、ラードなどの動物性のものではなく、植物油を使い、より軽い口当たりに仕上げている。
食べ終わっても重たさが残らないから、仕事の合間のランチにも選びたくなる一皿だ。
フルーティーなソースで楽しむポークジンジャー
カツと同じく幻水豚を使用した「ポークジンジャー」。ポークジンジャーというだけあり、やはり「生姜焼き」とは違う趣のある一皿だ。
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定食メニューには、ご飯と季節ごとの旬の野菜のポタージュがセットでついてくる。あえて定番のみそ汁ではないところも、フレンチ出身の原田さんならでは。取材時にはマッシュルームとじゃがいものポタージュが提供されていた。
その違いを決定づけるのが、皿の縁まで広がるソース。フレンチ出身の原田さんにとって、ソースは脇役ではなく、主役とも言える存在。最後の最後までソースの美味しさを感じられるように、惜しみなくたっぷりとかけているのだそう。
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ソースにはバターを加えることで、さっぱりした軽やかさの中にコクを感じられる味わいに仕上げる。
香味野菜やりんご、白ワインをふんだんに使って仕立てたソースは、甘酸っぱく、驚くほどフルーティー。すりおろした野菜と果実のきめ細やかな粒感がほのかに残り、なめらかな舌触りの中に、心地よい喉越しを生んでいる。肉の一切れ一切れを余すところなく包み込み、最後の一口までジューシーさが途切れない。
幻水豚特有のさっぱりとした脂身の甘さ、赤身の旨みはこのソースにもピッタリ。ごはんも進む一皿だ。
カウンターで味わう、洋カツとナチュールワイン
[ドン・デ・ラ・ナチュレ]は、夜訪れるにももってこいの一軒。
夜も昼間と同じ値段で定食が食べられるほか、アラカルトメニューも充実しているため、「今日は軽めに一杯」のように、ビストロのような使い方もできる。
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上から時計回りに「自然栽培のポテトフライ」、「きのこのマリネ」、「ずわい蟹のクリームコロッケ」、「マカロニサラダ」。
用意されているワインは、オレンジのナチュール。原田さんが「カツとの相性がよく、とにかく美味しいものを選んだ」というオレンジワインは、常に数種類用意されており、料理に合わせて提供してくれる。
カウンターに腰を落ち着けて、ワインと洋食をゆっくり味わう。[ドン・デ・ラ・ナチュレ]は、そんなしっとりとした時間も似合う、唯一無二の洋カツ屋かもしれない。
美味しさを入り口に、素材の良さへ
「こんなところまで!」と思わず声が漏れるほど、細やかな素材にまで目を配る原田さん。けれど、本人がいちばん大切にしているのは、安心・安全や無添加を意識する人にも、そうでない人にも、日常のなかのひとつの選択肢として、自然と足を運んでもらえる味であること。そこにあるのは、まっすぐな“美味しさ”への想いだ。
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オーナーシェフの原田さん。お店のことを尋ねると、淡々と語る言葉の端々に、揺るぎない信念がにじんでいた。
「安心・安全や無添加を強く打ち出すのではなく、その前に“ちゃんと美味しい”があることを大事にしています。美味しいと感じてもらえた先に、素材の良さが自然と伝わっていけばうれしいですね。」
原田さんの「いい素材を多くの人に届けたい」という思いから始まった[ドン・デ・ラ・ナチュレ]。美味しさを追い続けるその姿勢が、結果としてお客さんの目を素材へと向けさせ、生産者へと思いを馳せるきっかけとなっていく。
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「軽やかなのに満ち足りる」という感覚を、“重い”という印象を持たれがちな「カツ」を通して伝えてくれるのが[ドン・デ・ラ・ナチュレ]というお店。素材にまっすぐ向き合う誠実さが一皿一皿に息づき、その積み重ねが、食後の心地よさへとつながっている。
体にも心にも負担なく楽しめるからこそ、肩肘張らず、心のままに味わえる——[洋カツ屋 ドン・デ・ラ・ナチュレ]は、そんな特別な洋カツ屋だ。
洋カツ屋 ドン・デ・ラ・ナチュレ
11:00~15:00 / 17:00~21:30
東京都渋谷区恵比寿南3-1-2 サウスビル 1F
IG: @don_de_la_naturePhoto by Yuki Nasuno (写真 那須野友暉)
Text by Maho Ofuchi (文 大渕真歩)