もう12月、すっかり冬ですね。

最近は、前回のゆりこの言葉を通じて「バランス」について考えています。

何か身の回りにあるものに手を加えて少し人間の側に近づける、その手段をレシピと呼び、建築も食もレシピをつくるという工程では似ているものがあるね、という話。

レシピを構築する時は、倫理観として、自然と人間社会の関係性を単なる二項対立でわかつものではなく、人間こそその一部にすぎないことを意識しながらも、理想の姿(未来)からいかにバックキャストできるか、がとても重要だなと思います。

そして、農業をはじめとする一次産業における理想の姿(未来)は、人生を賭けて、もしくは何代もの世代をまたいで、何度もくり返す”検討”の中からしか見えないのだと思ったり。

3世代にわたって管理を進めてきた福島・仁井田本家の田んぼから。田んぼの管理や栽培方法はもちろん、周辺の森や水を管理することで地域全体の環境保全を実践。現在の取り組みは、リジェネラティブ・オーガニックとして認められています。

仁井田本家の田んぼの裏山からの景色。森林管理によって作られた小道では、様々な虫や鳥、植物が観察できます。里山を”暗くて怖い”ものではなく、みんなが入れる場所にしたい、と話していたのが印象的でした。裏山の木を伐採し、日本酒を仕込む木桶の材料にします。

“本当に技術の発展に合わせて形づくられた素材、進化した材料（Highly processed）だけが正しいのか、あるいは合鴨農法みたいな昔ながらのやり方が正しいのか。それともそういったもの全てのオプションの組み合わせが世の中を豊かにしていくのか。（その間の違和感にあるレシピの揺れ動きみたいなものが今っぽいと感じる。)”

この議論は食や暮らしにおいてもよくありますが、レシピはあくまでも手段なので、その時々の状況にとって必要なものを選び取ること、そしてバランス感覚が大切だなと。かつては飢餓から私たちを救ってくれた農薬や化学肥料も、過剰利用で健康や環境に対して様々な弊害を生む中、やはり大事なのはバランスで、次に考えなければいけないのは、その ”バランス”をとるための点をどこに置いてどう保つのか、ということ。

最近、大手食品企業の方に取材をした時、農薬や化学肥料の利用を低減する”バイオスティミュラント”についてお話を伺いました。

バイオスティミュラントとは、いわば植物にとってのサプリメントのようなもので、植物そのものの能力を引き出す役割を果たします。この研究自体に興味が沸きましたが、研究を実装して仕組み化するそのプロセスと姿勢にただただ脱帽。単に農薬や化学肥料をやめよう、と呼びかけるのではなく、現場視点での収量や収益を保ちつつ、より自然と共生していけるような形を実現できるよう農薬や化学肥料の使用量を減らしていく、ゆくゆくは頼らなくする。そういうグラデーションを持たせた取り組みは重要だなと感じます。

やりたいことをやるために、その中でできる最善を尽くす。私としては、小売や流通を通して、そうした姿勢を持つ食材をより多くの方に知ってもらうと同時に、まじでこれ美味しいんだって！っていう、純粋な気持ちを共有していきたい。なんでもいいからとにかく食べてみて欲しいもの、たくさんある。食べるという行為のその先に、理想の未来に近い形での食文化の継承やアップデートがあるのだと思います。

ブルゴーニュからほど近い、白ブドウの名産地・マコンの畑からの景色。美しい畑は、人の手を借りて管理されているんだなと。ここの持ち主は、とてもブドウ愛のあふれる方々でした。収穫後に出してくれたデザート、美味しかったな。

先月訪れたフランス・ブルゴーニュのワイン畑には、たくさんの検討の末に生まれた素晴らしいブドウとワイン造りの技術がありました。同時に、日本にも同じように土地に根付いた美味しいものがある、と改めて気付かされる時間でした。

ロンドンでは、ゆりこのフラットにお世話になりました。ありがとう。雨上がりのロンドンにかかる大きな大きな虹は、多分一生忘れられない。猫のWRENも可愛かったな〜。