連載「世界の台所から」#2
オランダの魚料理を味わう
まだ寒さが残る4月上旬。日本よりもゆったりと春が近づくオランダ アムステルダムへ到着した。チューリップのおかげで春らしさはあるものの、気候は不安定。曇り、小雨、急な晴れを繰り返していた。天気をなぞるように、私の気分もいったりきたりしていた。
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オランダ料理をたくさん食べるぞ!という意気込みで到着したものの、まず頭に浮かんだのは「オランダ料理ってなんだろう…?」という疑問だった。
薄いワッフルにキャラメルを挟んだもの。チーズがたっぷりとかけられたポテト。そうしたストリートフードはぱっと思いつくものの、お皿に乗って提供される“料理”としてのオランダの食事は、すぐには思い浮かばなかった。
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2枚のワッフルを重ねているわけではなく、1枚の薄いワッフルを2枚にスライスするという技術に驚いた。
オランダ在住の友人に尋ねると、伝統的なオランダ料理が食べられる場所があるとのことで、おすすめのレストラン[Restaurant Heemelrijck De Pijp]に連れて行ってもらった。1949年から三世代に渡り続くお店で、昔ながらのオランダの家庭料理を楽しめるお店だ。
オランダの軽食としてお馴染み、クリーミーな牛肉のラグーを丸めて揚げた小さなコロッケ「ビターバレン」。茹でたケールとマッシュポテトを混ぜ、その上にソーセージを乗せた「ブーレンコール・スタンポット」。乾燥えんどう豆を煮込んだ濃厚なスープ「スメルト」。
どん、とソーセージが主役のテーブルに、ドイツが隣国であるということを思い出す。寒い国ならではの、保存が効く食材や冬でも育つ作物で作る温かな品々。ぽっと体が温まる感覚が心地よい。ポテトや豆でお腹が膨れ、しばらく何も食べずとも元気に過ごせそうだな、と感じながらお店を後にした。
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3人でシェアしてもかなりお腹にたまるパワー系の品々。
ここでいただいたのは、主に肉や豆、じゃがいもを使った料理だった。一方で、海に面し、かつて漁業や魚の交易によって経済を支えてきたオランダの魚文化も面白い。14〜17世紀のオランダではニシンの加工・貿易が重要な産業となり、「アムステルダムはニシンの骨の上に築かれた」という言葉もあるそうだ。
アムステルダムの市場[Albert Cuypmarkt]では、有名店[Stubbe’s Haring]で名物の「ハーリング」を食べた。ニシンを軽く塩漬けにしたもので、かつては漁師たちが船上で下処理を行い、保存性を高めるため塩漬けにして流通させていたことがルーツとされる。下処理の際には膵臓を残し、その酵素の働きによって身が穏やかに熟成し、旨みが引き出される。
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しめ鯖は鯖自体が発酵で酸味を帯びているが、ハーリングはピクルスで酸味を補う。
海外で、生に近い魚を食べる時はいつも少し不安な気持ちになる。強張りながらひと口…。3人で1尾をシェアした事を後悔した。あっという間に一皿がなくなった。とても美味しかった。身の内側まで綺麗な色合いで状態が良い。しめ鯖のような味を想像していたが、酸味はなく、ニシンの濃い脂の旨みと甘さが感じられる。程よい魚臭さもあり、私の脳裏に浮かぶのは日本酒一択。脂を包み込んでくれる日本酒があれば…と考えながら、目の前のハイネケンを一気に飲み干した。
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Netflix『腹ぺこフィルのグルメ旅』でも紹介されていた名店。
これらの体験は、次に訪れたドイツ・ミュンヘンでの食事にも繋がってくる。内陸部のミュンヘンで伝統的な料理を食べに行くと肉料理が多く、魚を食べる場合は川魚の燻製、あるいは海の魚を塩漬けにしたものが多かった。
若狭湾で採れた鯖を塩漬けにし、熟成させながら京都まで運んでいたという、江戸時代の鯖寿司の話を思い出した。距離で考えるとその何十倍にもなるが、冷却技術が発展していない時代、ミュンヘンでも「ハーリング」のような塩漬けの文化によって、海の魚を楽しむことができていたのだろうか。
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脂と塩味のバランスにホッケを思い出した、ミュンヘンで食べた燻製魚。
「ハーリング」は冷却技術が発展していなかった頃からの保存食だが、冷却技術が発展した今では、新鮮な魚が色鮮やかに市場に並ぶ。アムステルダムからロッテルダムへ移動し、市場[Binnenrotte Market]に出向いた。
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日本の市場とは異なり、魚そのものと切り身が一緒に少し無造作に並べられている。切り身の魚も、基本的には加熱して食べることが前提だからなのだろう。サーモンや鱈など、生活に根付いているであろう魚が多かった。驚いたのはイカの切り身。真っ白な、揚げる前のドーナツのような輪が、ぱらぱらと並んでいた。確かにヨーロッパでは、イカはリング状にして使う料理が多い。この状態で売られていたら、調理がかなり楽なのだろう。
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アムステルダムで訪れた[Albert Cuyp]では、サーモン、マグロ、鯵、ハマチ、イカ、ヒラマサなども売られていて、市場の人に尋ねると刺身で食べられる新鮮な魚も見つかることもあると友人が教えてくれた。
この日は「ヨーロッパヘダイ」という鯛を買い、アムステルダムのレストランで働く友人に調理してもらった。
ヨーロッパヘダイのムニエル
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材料
・ヨーロッパヘダイ:1尾
・薄力粉:適量
・塩:少々
・レモン:1個
・バター:ひとかけ
・ハーブ:お好みで
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作り方1.下準備をする
魚の表面の水分を拭き取り、塩・こしょうを振る。
小麦粉を薄くまぶし、余分な粉は落とす。
魚の表面の水分を拭き取り、塩・こしょうを振る。
小麦粉を薄くまぶし、余分な粉は落とす。
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2.焼く
フライパンにバターを入れ、温まったら皮目を下にして中火で焼く。
焼き始めの最初の10秒ほど、ヘラなどで軽く上から押さえると、魚の反り返りを防ぎ、皮全体に均等に火が入り、パリッと仕上がる。
皮目はパリッとなるまでしっかり長めに焼き、身の方は皮目の約1割程度の時間で十分。皮が身を守ってくれるため、身に直接熱が入りすぎず、パサつきを抑えられる。
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フライパンに溜まったバターをかけ、アロゼをする。
3.ソースを作る
魚を取り出したフライパンにバター、輪切りにしたレモンを入れ軽く火を通す。お好みでハーブを散らして完成。
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ムニエルはフランス料理の調理法だが、シンプルで簡単に魚の旨みをしっかり引き出せるヨーロッパらしい魚の食べ方のひとつということで作ってくれた。しっかり火入れをしている印象だったが、皮目側を中心に火を入れていたからか、身はふんわりとしていてとても美味しかった。魚を捌くところからとなると私には難しいが、切り身を買えば日本でも同じように試してみようと思える手軽さだった。
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魚の旨みが残ったフライパンで、旬のホワイトアスパラも焼いて出してくれた。ホワイトアスパラはフランスまたはベルギーが発祥と言われているが、そうした起源を越えて、ヨーロッパ各地にその土地らしい美味しい食べ方が根付いているのが面白い。
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基本的には茹でてからフレンチらしいソースと合わせることが多いが、タパス文化のあるスペインではアスパラの水煮にビネガーなどをかけた手軽なつまみとして出てきたのが印象的だった。
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上から、ミュンヘン・パリ・バルセロナで食べたホワイトアスパラガス。
食を旅する中で、食そのものもまた旅をしていたのだと強く感じる。文化が混ざり合い、時には悲しい歴史も乗り越えながら、その地に新たな料理が馴染んでいく。地形に沿うように、グラデーション状に食文化が広がっているのが面白い。
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さまざまな種類の鳥(家禽)を扱う肉屋で鴨も買って焼いてもらった。
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- Director・Marketer
伊藤 愛 / Ai Ito
1999年生まれ。2026年3月から約半年間、食や文化を軸に海外を巡る旅の途中。現在はヨーロッパを中心に生活中。ライフスタイル・食領域を中心に、フリーランスとしてマーケティングおよびSNSディレクションを手がける。幼少期は東京、福岡、神奈川と親の転勤で拠点が変わり、また両親や祖父母の出身地である富山、岩手、静岡、その近辺の土地にも頻繁に訪れ、多様な土地の食文化に触れてきた経験を原点とする。 IG:@totoito_ai