連載「信州小諸のおいしい仲間たち」#4

[NOVELS]のコーヒーパートナー・石川さん


Chisa OkayamaChisa Okayama  / Dec 24, 2025

12月はいつも、少しドキドキする。 
私は12月が誕生日なので、誕生日もクリスマスも年越しも一気にやってくる。5人家族のうち、4人が12月誕生日なので実家を出るまでは毎週のようにケーキを食べ、クリスマスイブを祝い、クリスマス当日は母の誕生日を祝い、そのまま正月に雪崩れ込んでいた。

小諸で一人暮らしをはじめてから、12月はとても静かに流れていくことに戸惑った。移住して最初の年は、その寂しさを知り合いに譲ってもらったこたつに入り、一人でお茶をしてやり過ごした。 実家では、代わる代わるいろいろな人が出入りしていつも誰かがお茶を飲んでいた。 忙しない毎日の中で、誰かとお茶をすることがいつも家庭の真ん中にあった。 

お茶の時間が日常にあることは、とても豊かなことだと思う。[NOVELS]をはじめてから、お茶の時間が自分にはないことに気がついた。朝起きて、寝癖を治して[NOVELS]に立ち、家に帰れば、お茶を入れても飲む暇なくそのまま夕食を作っている。 

「座って、お茶を飲む」ただそれだけのことなんだけれど、意識しないと意外に難しい。そして、ただそれだけのことが、わたしを癒してくれることも知っている。あぁ、今のわたしにはそっとお茶を差し出してくれる人がいないんだな、と思う時が一番実家を出たことを実感する。 

誰かにお茶を淹れてもらうこと、自分やひとにお茶を入れること、これもケアのひとつかもしれない。 

だから、わたしは[NOVELS]にくる人それぞれにとって、お茶をすることで本当の意味で「一息つける」ような場であるといいなといつも祈りながらコーヒーを淹れている。 

だから、せめて[NOVELS]で出す飲みものだけは、ちゃんとしたものにしようと思った。 忙しくて自分は座れなくても、ここに来た人がマグカップを両手で持って、ポーッとできる時間を作りたかったから。 

どんな豆ならいいのか、正直最初はよくわからなかった。 酸味が強すぎないほうがいいとか、冷めてもおいしいほうがいいとか、 考えていることは全部「飲みもの」より「飲む場面」のことだった。 

誰が飲むのか。 
朝なのか、夕方なのか。 
仕事の途中か、旅の途中か。 

そんな話をしながら、一緒に豆を選んでくれる人がいたらいいなと思っていた。 

 今は、[NOVELS]のコーヒー豆は、上田市にある[VACILANDO COFFEE]というスペシャルティコーヒー専門の自家焙煎店にお願いしている。 

 
店主の石川さんは、はじめて話した時から、すべて私のツボにクリティカルヒットした。とにかく、コーヒーに対する熱量がすごい。コーヒーもワインと同じように、潜ろうと思えばどこまでも潜れる分、一般人は溺れそうになり窒息しそうになったりする。だからこそ、ダイビングパートナーが大事なんだろうなと思う。 

[NOVELS]のコーヒーはこんなのがいいという味の理想はもちろん哲学っぽい理想も読み取ってくれて、豆を一緒に選んでくれている。 

長野県の東信エリアだけでも、多くの焙煎所がある。その中で、単にコーヒー豆を仕入れるだけではなくて、お客さんがコーヒーを飲む時間を想像しながらどんな豆が合うかなと、共に考えてくれるパートナーに出会えたことが心の底から嬉しい。 

[NOVELS]のドリップコーヒーはダイナーマグカップにたっぷりと注がれる。おしゃべりが尽きない時も、仕事が終わらない時も、日常に寄り添ってくれるように。 

サイフォンを使ったドリンクメニューもおすすめ。 

サイフォンの光がじんわりとオレンジに染まり、サイフォンでコーヒー淹れているところをぼーっと見ていると、自分のせかせかした心も段々と落ち着くから不思議。これからゆったりとした時間を過ごせるようなそんな気になっていく。 

それじゃあ、わたしもそろそろお湯を沸かして、一息つこうかな。 

 

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