水産業先進国ノルウェーの目指す先<前編>

ノルウェーの海から世界へ。サーモン養殖の最先端とノルウェー天然サバの「今」


RiCE.pressRiCE.press  / Dec 3, 2025

北欧ノルウェーは、世界有数の水産大国。全長2万キロを超えるフィヨルドと澄んだ冷涼な海が、豊かな生態系を育んできた。厳格な規制のもと営まれる漁業は自然と共生しながら次世代の海を守り、高品質なシーフードを世界へ届けている。

海岸線を縫うように、連なるフィヨルド。柔らかな光が差しこみ、穏やかな時がゆっくりと流れる。息をのむほど美しい大自然が広がるノルウェーでは、徹底したサステナブル管理のもと独自の漁業が育まれてきた。

日本をはじめ世界中へ届けられる魚は、環境に優しく、そして高品質。支えているのは、最先端の技術と海洋マネジメントだ。資源を守りながら美味しい魚を育む、ノルウェー水産業の最前線を取材した。

サーモン養殖の最先端 Hofseth

ピュン、ピュンし。切り立った岩山に囲まれたフィヨルドの、波音すら聞こえない静けさのなかで、魚が水面を切る軽やかな音だけが響く。ここは、Hofseth社が手がける世界最先端の養殖場。壮大な自然と最新技術の中で、サーモンが育てられている。

「まるでみんな踊っているみたいですよね。いけすの中の魚の割合は、わずか2.5パーセント以下。だから魚たちはストレスなく泳ぐことができるんです」

ノルウェーでは環境配慮のため、国が定める厳しい規制が数多く存在する。しかし、規制があるからこそ、技術が磨かれてきた。給餌は海中カメラとAIで自動的に管理され、食べ残しを減らし水質を保つ。すべてのサーモンには「パスポート」がつけられ、生まれてからの全情報が記録される。

「サステナブルな取り組みが魚にとってよい環境を作り、結果的に美味しさに繋がるんです」

輸送にも最新技術が導入されている。ノルウェーから日本へ最速チャーター便で、水揚げからわずか36時間。冷凍せずに徹底した温度管理のもと運ばれることで、鮮度が極限まで守られる。

「養殖」と聞くと味が落ちると思いがちだが、その概念は口にした瞬間に覆される。とろっとした脂の甘みが舌の上に広がり、余韻を残しながらゆっくりと消えていく。豊かな味わいに、養殖場で働くシェフも「天然の方が美味しいと思っていたけれど、考え方が変わった」と話す。

見学に訪れたゲストに、シェフがサーモン料理を振る舞う。(右)北欧伝統のサーモン料理、「グラブラックス」。塩と砂糖、ハーブで数日間マリネしてから軽くグリルすることで、しっとりした食感と脂の甘みが引き立つ。(左)スモークサーモンとマスの卵を使ったアペタイザー。

昨日より今日、今日より明日。環境と魚のおいしさを守るため、更なる技術開発にも取り組み続けている。
「ノルウェー人にとって、自然は命。自然の中で過ごすと、”生き返る感覚があります。この環境を、義務ではなく、当たり前に守っていきたいんです」

天然サバ流通のハブ Brødrene Sperre

「とにかく優しくジェントルに」
ガラス細工を扱うかのように、傷ひとつつけず、丁寧かつ素早く作業を行うのは、サバ加工場のBrødrene Sperre社だ。

サバの漁が行われるのは、最も脂が乗り魚体が大きくなる9月から11月の間のみ。漁船ごとにオークションが行われ、競り落とした船が加工場にやってくる。

「すべての漁船に、国が毎年の漁獲高を割り当てています。ベストシーズンにだけ漁を行うので、サステナブルを保ちながら高品質のサバを提供できるんです」

加工場に着くと、巻き網漁で獲られた魚はポンプで優しく吸い上げられ、氷点下のクーリングタンクへ。フレッシュな状態でコンベアへと流れていく。流れゆくサバの背は緑色に光り、体はピンと伸びている。これが、新鮮で傷ついていない証拠。さらにその場でサンプルの腹を切り、バイヤーは状態を確認する。

サバの腹を素早く丁寧に捌き、脂の乗りや鮮度を確認。研ぎ澄まされた所作が、世界水準の品質を支える。

ノルウェーサバのマーケットの第1位を占めるのは日本だ。長年買い付けに来ている日本人バイヤーは「ノルウェーのサバは非常にクオリティが高く、脂の乗り方が全然違う」という。

老舗であるBrødrene Sperre 社は、漁業の変化を直近に見てきた存在でもある。サステナブルという概念すらなかった時代から変化を重ね、漁業に関わる人々の労働環境も改善した。今やノルウェーにおいて、漁師は憧れの職業。船内にはそれぞれ個室が与えられ、広々としたリビングにカフェルームまで完備。専属のシェフが日々料理を振る舞う。加工場で働く人たちの労働環境も整えられており、人々の笑顔が輝いている。

約10人の船員を率いる漁船の船長。船内はまるでホテルのような設えで、快適な居住空間の中、最新設備を駆使した漁を行う。憧れの職業である漁師は収入も安定しており、離職率は極めて低い。海での暮らしは豊かで誇り高い。

魚にも環境にも、そして働く人にもジェントルに。その精神こそが、ノルウェーのサバを世界一の存在へと押し上げている。

Hofseth
サーモンをはじめとする魚の養殖・加工を行う水産会社。独自の養殖技術と最新の設備で、高品質かつ持続可能なシーフードを日本を含む世界
50カ国以上に輸出している。「世界で最もサステナブルなシーフード生産者」を目指しており、環境負荷を減らすための研究や技術開発が注目されている。
HP: Hofseth.no
IG: @hofseth_

Brødrene Sperre
ノルウェー・オーレスンに拠点を置く老舗水産加工企業。1930年代に創業以来、サバの冷凍をはじめ、干しダラなど多様な天然魚の加工技術を培ってきた。現在は最新の設備を備え、品質管理とトレーサビリティを徹底。伝統を守りながらも国際市場へ幅広く展開し、北欧の海の恵みを世界に届けている。
HP: sperrefish.com

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ノルウェーシーフードについてもっと知りたくなったら。
HP:https://www.seafoodfromnorway.jp
IG:@norwayseafoodjp

Photo by Yoshiki Tatezaki(写真 舘﨑芳貴)
Text by Yuri Tomita(文 冨田ユウリ)

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