食の学び舎「foodskole」授業体験レポート vol.6

食材の始末を考えて料理をするということ。


Satoshi HiraiSatoshi Hirai  / Sep 8, 2021

まずはじめに。

こんにちは。食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」で校長をしています平井巧です。

foodskoleでは、2021年4月から「21年度前期Basicカリキュラム」がスタート。社会人から大学生、年齢も立場もバラバラな方たちが、9月までの半年間、全12回の授業を通して一緒に食について学び合います。

食を文化として学び、食にまつわるモノ・概念を持論で創造し、生きる力を持つ。これを「食の創造論」として、foodskoleのテーマに置いています。

foodskoleの授業の中で、ゲスト講師に教えてもらったこと、受講生のみんなで話し合われたこと、気づかされた視点は毎回たくさんあります。これをレポートとして形に残すことは、後々の振り返りとしてきっと役立つはず。

何よりfoodskoleの中にいる自分たちだけでなく、食のことが好きなたくさんの人たちに、このことをおしみなく共有したい。そんなことを思いましたので、いま受講している方に、授業の「体験レポート」を書いてもらっています。

過去レポートはこちらから
1回目: まずは循環のはなし。世界のこと。
2回目: 発酵でつなぐ都市と地域。
3回目: 市場、ポケマルとスーパーの違い。
4回目: 野菜は誰かが運んでいる。 
5回目:
見える畜産。

foodskoleで学ぶ自分たちがそうであるように、これを読まれた方たちにも、「食」の向き合い方に良い変容が起きることを期待して。これからこの授業体験レポートをお届けしていきたいと思います。

foodskole 公式サイトは、こちらをご覧ください。

第6回目の授業は「食材の始末を考えて料理をするということ。」をテーマに和食料理人の長田勇久さんをゲスト講師にお招きしました。

今回の体験レポート担当は、foodskole生の樋口彩加さんです。(foodskole校長/平井巧)


こんにちは。受講生の樋口彩加です。

自分が納得して選択できる「食」とは何か?自分なりの「食」とのかかわり方を模索するため、授業の中で起こる、化学反応を楽しみながら、「体験レポート」でたくさんの方々と一緒に学んでいます!

今回のDAY6の授業は「大根1本を使い切るにはどうするか?」という問いを考えることからスタートしました。

受講生からは、葉っぱの浅漬けや皮を細かく切ってお味噌汁に入れるといった、大根の使いづらい部位の料理法などがシェアされました。また、普段料理をしない方は、普段料理をされるご家族の方に伺って、初めてどのような食べ方があるのかを知った方もいました。

私たちにとって身近な「大根」を、料理人である長田さんはどう使い切るのか、どうして食材を大切に扱うのか、長田さんの価値観に触れました。

料理は「素材」×「料理の方法」で考える

最初に、長田さんの大根の使い切り料理を拝見しました。そこで大切にされていたのが「素材」と「料理の方法」をかけ合わせることでした。

①まず、素材について知るために、大根を部位ごとに分けます。

大根は大きく、4つに分けられます。葉のついた部分、葉に近い「上部」、真ん中の「中部」、辛味の強い「下部」に分けられます。

また、かつらむきをした際に分けられる「大皮」。煮物をしたときに硬さが残ってしまわないように、断面の筋までとった「中皮」。最後にのこる真ん中「芯」の部分に分けます。

大根の部位(ニチレイ)と断面図(銀座渡利

②次に、「料理方法」と「保存方法」についてお話を伺いました。

料理には、「生」のまま使い、大根のつま、サラダ、大根おろしとして食べる方法と、「加熱」をすることで、煮たり蒸したり炒めたりして、甘さを引きだすという方法があります。

長田さんが作られた、ふろふき大根と八丁味噌。大根のステーキ

そして、保存では「干す」こと「冷凍する」こと「漬ける」ことの3つがあります。

「干す」ことで、切り干し大根のようにうまみを増す方法があります。次に、生のまま「冷凍」して繊維を壊す方法です。冷凍のまま煮ると時短にもなりますし、シャキッとした独特の歯ごたえになります。

私は大根の保存方法として冷凍することは、新しい方法のように思いましたが、東北などの寒い地域で親しまれる「凍み大根」がまさにこの保存方法を利用したものでした。地域の郷土料理が、食材の本来の味を生かす扱い方を知っているのだと思いました。

鮭川村食生活改善推進協議会HP

最後に「漬ける」方法です。ぬか漬け、甘酢漬け、醤油でつけるあちゃら漬けなどをすることでより保存期間が伸びますし、よりおいしくなります。

大根の茎を使った「唐草大根」。包丁で切れ目を入れ、繊維の特性を利用して、歯ごたえや見た目の色鮮やかさを加えます。

長田さんが作られた、大根のあちゃら漬けと唐草大根

このように、料理は「素材」×「料理方法と保存方法」の掛け算になります。こんなにも1つの食材と向き合ったことがなかったので、野菜の部位ごとに特徴があり、部位を生かすような料理法と保存方法があること驚きました。

また、家庭料理と料理屋の料理の違いは、「五味五色五法」になっているということです。飲食店の料理はあまりにきれいに盛り付けられているため、家庭よりも食材のいい部分だけを贅沢に使っているというイメージがありましたが、長田さんの料理は、食材をどれだけおいしく使い切るのかを追求した美しさなのだと知りました。

「五味五色五法」を用いる日本料理は、精進料理から発展したそうです。修行僧は、野菜をつくる、料理をする、食べるのも修行であり、一つも無駄なことはありません。ごちそうはないので、規制の中で飽きずに満足感を得られるように工夫をしてきました。そして、冬など食材が取れない時にもどうやっておいしく食べられるようにするのか。それが生活の知恵であり、郷土料理として今に伝えられている料理方法だとおっしゃられていました。

受講生からは、「切り方や料理法を知っていると料理の幅が広がる。普段いかに同じ料理しかしていないかを痛感した」という感想があげられました。

長田さんが作られた、大根をすべて使い切った料理

生産者と食材への感謝と尊重

大根を使い切るとこんなにも豪華な料理になることに驚きましたが、そもそもどうして、食材を使い切ることを大切にするのでしょうか?

以前、長田さんが働いていた「つきぢ田村」の大旦那さんの言葉を教えていただきました。

「農家さんは、大根の真ん中だけを作っている分けではない。葉っぱ、皮があって、しっぽがあるから、いい大根ができる。全部使わないで端っこを使えないのは、自分が未熟で下手なだけや!」

この言葉から、朝早くから夜遅くまで働く猛烈な忙しさの中でも、食材を最後まで使い切る「手間」をかけることの「料理人」と「人」としてのプライドを感じます。

長田さんのお店、小伴天はなれ 日本料理「一灯」では生産者さんとの距離が近く、たくさんの食材がお店の玄関先に届くこと、農家さんが一生懸命よりよい食材をつくる姿を見るといいます。長田さんは、作ってくれた人への感謝と食材への尊重を何よりも大切にしていました。

特に長田さんが尊重する食材は、伝統野菜だそうです。例えば、愛知県碧南市に昔からある碧南鮮紅五寸人参という野菜です。人参の独特の匂いがあるので、煮物にして甘味を出して食べられていました。最近は碧南美人という子どもたちに人気な人参があります。それは、人参ジュースとして飲むことができるほど甘い野菜です。

長田さんは、碧南美人のように、品種改良して食べやすく味が変化する野菜と、碧南鮮紅五寸人参のように青臭い野菜を両方残していかなければならないと考えています。

受講生からは「なぜ、本来の野菜を残すことを大切にしているのか」という質問がありました。

長田さんは、もともと食材にバターなどの味をつけて料理をしていました。しかし、地元の食材と、食材を作る面白い方々に魅了されてから、つける味は引き出す味に勝てないと実感したそうです。また、献立を考えてから食材を調達するのではなく、地元で材料を見てから献立を考えていらっしゃいます。

私は、季節ごとのおいしい食材があるから、どうやってその食材を生かすか考える。そうすることで地元の野菜は自然と残り、食べ物があまることはなくなるのではないかと思いました。

食は「愛情+想い」をつなぐバトン

長田さんの料理人としての「食の視点」から、私がもつ「食の世界」が食材と料理法を中心に広がりました。

では、料理を仕事としない私たちは、家庭での料理に対してどう向き合うと良いのでしょうか?

現代の「食」は時短のために、手間を省かれて、おざなりにされている部分があります。

しかし、長田さんがおっしゃるには、食事はただ栄養素をとるものではないそうです。食材が作られてから誰かがもってきて食べるまでの1つのストーリーとなっています。食は全部つながっていて、つながりを次にバトンすると良い循環になります。「愛情+想い」をつないでいくと考えながら料理をすると、より楽しくなるのではないかとお話されました。

私は、日々の生活の中で、ストーリーを忘れてしまったり、観ないようにしてしまうことがあります。それでも「食」は、ストーリーの大切さをいつも思い出させてくれる存在であると改めて感じました。

人生の醍醐味は「苦み」

受講生同士で感想を話しているときに、「大人になってから苦味を楽しめるようになった」という声がありました。子どもの頃は、毒を食べないようにする本能から、苦みをかんじるセンサーが多くあります。ただ、長田さんがおっしゃるには、大人になると甘いものだけでは物足りなくなり、苦みを味わうことで一層引き出される甘さを味わうようになるそうです。

料理と同じで人生も苦味を楽しんでいると、長田さんは笑顔でおっしゃっていました。眉間にしわを寄せて考えなければならないこともたくさんあるかもしれません。ただ、苦みのうまさを味わいながら生きるような余裕が「食」と向き合うえでも大切になってくるのではないでしょうか。

そして、「食べることが苦痛であってはいけない、工夫することでおいしくなったことが自分なりの満足感で喜びであってよい。」という長田さんの言葉が印象に残っています。

私は、生産者の方、お客さん、自分を含めた食べる人が、おいしいと喜ぶために、食材を使い切る手間をかけるんだと思いました。そう考えると、なんだか料理や消費が楽しくなってきそうです。

樋口彩加(ひぐちさやか)
2000年生まれ。法政大学人間環境学部人間環境学科在学中。環境社会学、環境人類学などを選考。小学生の時に「どうして食べられる人と食べられない人がいるのか」を疑問に思ったことがきっかけで、国際関係や環境問題について考えはじめる。国際・国内ボランティアを経験する中で「食の背景」について興味を持つ。身近にできるアクションとしてフードロス削減に関するイベント開催や情報発信などの活動を開始。自然と文化、生きがいなどの社会的な面から環境問題へ取組み、持続可能な社会の実現について勉強中。

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