食の学び舎「foodskole」授業体験レポート vol.4

野菜は誰かが運んでいる。


Satoshi HiraiSatoshi Hirai  / Jun 21, 2021

まずはじめに。

こんにちは。食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」で校長をしています平井巧です。

foodskoleでは、2021年4月から「21年度前期Basicカリキュラム」がスタート。社会人から大学生、年齢も立場もバラバラな方たちが、9月までの半年間、全12回の授業を通して一緒に食について学び合います。

食を文化として学び、食にまつわるモノ・概念を持論で創造し、生きる力を持つ。これを「食の創造論」として、foodskoleのテーマに置いています。

foodskoleの授業の中で、ゲスト講師に教えてもらったこと、受講生のみんなで話し合われたこと、気づかされた視点は毎回たくさんあります。これをレポートとして形に残すことは、後々の振り返りとしてきっと役立つはず。

何よりfoodskoleの中にいる自分たちだけでなく、食のことが好きなたくさんの人たちに、このことをおしみなく共有したい。そんなことを思いましたので、いま受講している方に、授業の「体験レポート」を書いてもらっています。

過去レポートはこちらから
1回目: まずは循環のはなし。世界のこと。
2回目: 発酵でつなぐ都市と地域。
3回目: 市場、ポケマルとスーパーの違い。

foodskoleで学ぶ自分たちがそうであるように、これを読まれた方たちにも、「食」の向き合い方に良い変容が起きることを期待して。これからこの授業体験レポートをお届けしていきたいと思います。

foodskole 公式サイトは、こちらをご覧ください。

4回目の授業は「野菜は誰かが運んでいる。」をテーマにやさいバス株式会社の梅林康彦さんをゲスト講師にお招きしました。

今回の体験レポート担当は、foodskole生の萩原有希さんです。(foodskole校長/平井巧)


多様化するニーズとサービス、そして、それを支える物流。
選ぶときに、自分の価値観とともに、「ちょっと外から」も見てみることの大切さ。

こんにちは、foodskole受講生の萩原有希です。
foodskoleでは、「食」という同じテーマに興味を持った人々が、一緒に授業を受けています。

同じ興味を持った人たちが、同じ授業を受けていても、立場や価値観、経験によって捉え方は様々で、受講生同士が思い思いの意見を交わすことで、自分だけでは見えなかったもの、思いつかなかった考えに触れることができます。

そして、それらが刺激になり、自分なりの思考や行動の「新しい1歩」につながっていくように感じています。

4回目のテーマは「野菜は誰かが運んでいる」。
やさいバスの梅林さんのお話を聞きながら「物流」について考えます。
野菜を取り巻く「物流」の現状を知ると、スーパーや八百屋さんに並んだ野菜を見る目が、ちょっと変わるかもしれませんよ!

野菜は届くまでに、たくさんの寄り道をしている!

みなさんは野菜をどこで購入していますか?
八百屋さん、スーパーマーケット?
最近は産直で購入できるサイトやアプリも増えてきましたし、ふるさと納税を利用している方もいるかもしれません。

野菜が農家さんのもとを出発して、私たちに届くまで、実に様々なルートがあります。
農家さんから直接購入する環境が整備され始め、利用する機会も増えていますが、「日常のお買い物」となると、やはり、八百屋さんやスーパーマーケットを利用することが多いのではないでしょうか?

ここで、スーパーマーケットを例に、どのように野菜が運ばれているのかを見てみます。

画像提供:やさいバス株式会社

①農家さんは野菜を出荷するため、農協の出荷場に持っていく。
②農協には地域の農家さんの野菜が集められ、市場に出荷される。
③市場ではセリが行われ、仲卸業者が購入。
もし、ここで買い手がつかなければ、買い手のつきそうな別の市場に転送をされる。
④仲卸業者が購入した野菜は物流センターを経由し、それぞれのスーパーマーケットに運ばれる。
大口の注文であれば、市場からスーパーマーケットに直接納品されたり、スーパーマーケットの物流センター経由で、他の商品と一緒に運ばれることも。

このほかにも、農家さんが直接スーパーマーケットへ納品する、知り合いの仲卸業者さんを通じて物流センターへ納品する…いろいろとルートはあるようです。

そして、スーパーマーケットから自宅までであっても、「自分で買いに行く」「スーパーの移動販売」「ネットで頼んで宅配」など、様々です。

農家さんから市場やスーパーマーケットを経由して、私たちの手に届く。
遠くの産地から徐々に近づいてきているように思えますが、実際はそうとも限りません。

例えば、千葉のA市でできた野菜は、東京の市場でせり落とされ、埼玉の物流センターで仕分けされ、収穫されてから4日後に、ようやくA市のお隣のB市のスーパーマーケットに到着する、なんてこともあります。

野菜が移動するには、その分だけ「物流」が必要で、「コスト」も「時間」もかかります。
たくさんの拠点を通過して、ちょっとお高くなって地元に戻ってくる野菜。
せっかく近くでできた、新鮮でおいしい野菜も、実はいろんなところに寄り道しながら、あなたのもとに届いているようです。

今の物流は、欲望でできている!?

近くで採れたものも、あちこちに行って、時間と費用をかけて戻ってきてしまうため、鮮度面でも、コスト面でも、ちょっと残念に感じるこの仕組み。
しかし、この仕組みは、拠点にモノを集め、そこから効率よく配送していくために作られたもので、決して「悪い」事だけではではありません。

様々な産地のおいしい野菜が、1年を通し安定して購入できるのは、この仕組みが貢献するところも大きいと言えます。もちろん、農家さんも、小売りやレストランも、消費者も「売り先の確保」「品揃え」「買いやすさ」などで恩恵を受けています。

しかし、農家さんの立場として思うことは、
・需要に合わせて収穫し、農協に持っていくけれど、本当は天候によって収穫量も、売れる量も違う。今日必要な分だけを、出荷したい。できれば、取りに来てほしい。
・おいしい状態の野菜を、自信をもって届けたい。でも、市場に出すことを考えると、消費者の手元に届くまでに時間がかかるから、ベストな時期よりも早く収穫しないとだめになってしまう。
・農協や地域の購入者に配送するのに時間がかかり、畑にいる時間が少なくなってしまう。そうすると品質が下がってしまうから、畑にいる時間を増やしたい。

そして、小売りやレストランの立場として思うことは、
・もっと、鮮度が良く、日持ちするものが、早く欲しい。でも送料はかけたくない。
・コストと食材のロスを抑えたい。だからギリギリまで待って発注して、すぐに持ってきてほしい。

お互いの要望をそのまま叶えようとすると、どこかで無理が生じる。
でも、「ニーズがある!」と、無理を承知で要望をかなえていく人たちがいる。

そのニーズの先にあるのは、「採れたての、おいしい野菜を、いつでも、どこでも、安く、必要な分だけほしい」という、消費者の要望。

すると、要望は欲望となってどんどん積み重なり、無理もどんどん積み重なっていく…
困りごと解決、便利、要望、欲望の境目がなくなって…欲望に任せると、過剰なものがスタンダードとなり、誰かに負荷がかかり過ぎ、いずれ破綻する…。

でも、これって、野菜に限ったことではありません…よね?
ネットで見て、ポチっとボタンを押したら、翌日には届く。
本当に翌日に必要なものって、どれだけあるのでしょうか…。

現在の物流システムは、「欲望」によって出来上がったものなのかもしれません。

それぞれが、少しずつ、歩み寄る物流

過剰なサービスで、「誰か」や「みんな」に負荷がかかるような一方通行の物流ではなく、みんなが参加し、それぞれが歩み寄ることで、地域での中でぐるぐる回る。そんな物流を実現させたのが「やさいバス」です。

画像提供:やさいバス株式会社


やさいバスの仕組み自体は、難しいものではありません。

①購入者が、欲しい野菜を注文する
②農家さんが注文分を最寄りの集荷場(バス停)に持っていく。
③やさいバスが野菜をのせて、購入者の最寄りのバス停におろす
④購入者がバス停に取りにいく。

農家さんがバス停に持っていき、購入者がバス停に取りにいく。

それぞれが、少しずつ歩み寄ることで、どんな「よいこと」が生まれるのでしょうか?

農家さん側のよいこと

・配達にかかる時間が大幅に削減でき、その分の時間を有効活用できる。
・農協への出荷だと、せっかくこだわって作っていても、他の農家さんの野菜と一緒にされてしまう。
一方、やさいバスでは、こだわりや生産者のPRも購入者に伝えることができる。
・市場に出してしまうと、消費者の反応が分からないが、売れ行きや購入者のリピート有無などで消費者のニーズがつかめる
・市場のセリではなく、自分で値段が決められることで、手取りが増えるとともに、モチベーションがあがる

購入者側のよいこと

・買いに行ったり、取りに行ったりするのにかかる時間が大幅に削減でき、その分の時間を有効活用できる。
・新鮮で求めやすい価格の野菜が手に入る
・今まで手に入らなかったような、地元の野菜が購入できる

少し歩み寄ると、農家さん、購入者の双方に、たくさんの「よいこと」がありますね。

そして、これらの仕組みを行う上で、2つの大きな「支え」があります。
「バス停」と「ドライバー」です。

野菜を集荷したり、配達したりする拠点の「バス停」。
バス停の多くは、農家さんの代表だったり、小売りやレストランだったりするのですが、中には、今まで全く野菜と関係なかった場所がバス停になることもあります。

その業種は、銀行、アパレル会社、居酒屋さん…など様々です。
これらのバス停は「ご近所八百屋」として、野菜の販売や注文分の受け渡しなどを行っています。
バス停を設置したからといって、設置料や管理料は発生しません。
「会社の福利厚生として」「取り組みを応援したい」「集客効果を狙って」など、様々な思いとメリットを感じながら、拠点となるバス停が設置されていくのです。

もうひとつの支えである「ドライバー」は農家さんと購入者をつなぐ、大切な役割を持っています。
先日、千葉県南房総地域のやさいバスに同乗する機会がありました。
そこで目にしたのは、ドライバーさんが農家さんや購入者と積極的にコミュニケーションをとり、自身の気付きから改善につなげ、少しでも良いものにしていこうという姿でした。

例えば、レストランの購入者に「年間でどんな野菜が出荷されるかわかるといいな」という声を聴き、すぐに農家さんに「こんな声がありました!年間の栽培計画表や出荷計画表って作っていますか!?」と声をかけていました。

このワンアクションがあることで、購入者はメニュー開発や先々の購入計画が立てられ、農家さん側は需要のあるアイテムを知ることができます。
農家さんと購入者を「物理的」だけでなく、「コミュニケーション」でもつなぐ、重要な役割だと感じることができました。

このように、やさいバスは農家さんと購入者が歩み寄り、バス停を提供する協力者がいて、ドライバーがつないでいくことによって、地域のなかでぐるぐると回る物流を作り上げています。

「無理なく、おいしく、たのしく」
―それは、継続していくために、生産者、供給者、消費者が、お互いに歩み寄り、つながりながら、まわっていく仕組み

梅林さんが物流の最適を判断する価値観、それは「無理なく、おいしく、たのしく」。

欲望に任せると、過剰なものがスタンダードとなり、誰かに負荷がかかり過ぎ、いずれ破綻する。
誰かのベストは、他の誰かにとってはベストではない。

商品もサービスも物流も、多様化する中で、自身の生活にマッチするものを選ぶのも大切。
そして、その時に、ほんの少しだけも、生産者、物流、環境…自分以外の目線も入れて選択をしていきたい。
そんなことを、今回の授業や梅林さんの言葉を通して感じることができました。

もしかしたら、あなたのすぐ近くにも、やさいバスが来ているかもしれませんよ!

やさいバス
https://vegibus.com/

やさいバス 時刻表
https://vegibus.com/help#timetable

萩原有希(はぎわらゆき)
1978年、東京生まれの東京育ち。良品計画所属。
仕事の都合で、半年ほど前から南房総に移住し、はじめてのいなか暮らしを経験中。
仕事でも生活でも「農」と「食」に関わることが多くなり、現場では当たり前とされてきたモノやコトに「?」を感じることをきっかけに、foodskoleへ入学。
「農業」「フードロス」「SDGs」…正解はない問題も多い中で、自分なりの判断基準や芯をもって選択をできるように勉強し、地域と地域の人の「役に立つ」ために日々奮闘中。

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