連載「名店のシグナル〜 一段上の食べ歩き論 〜」#7
「限定」ではなく、季節のメニューを狙え①
~ 四季を映す「準レギュラー」という、もう一つの定番を愉しむ ~
日本人は「期間限定」が好きだと言われている。手に入りにくいものや一時的なものは希少性が高まり、心理学的に魅力的に感じられる上、日本人は特に流行を追いかける傾向があり、それを他者と共有することで充実感を覚える人が多いことが、その理由として挙げられる。「逃したくない」「乗り遅れたくない」という心理だ。
ラーメンの世界にも、そんな気持ちをくすぐる限定メニューが数多く、なんなら日常的に誕生している。これは飲食業界でも特に目立つ現象だ。理由として推察されるのは、「柔軟とも、あるいは節操がないともいえる、なんでも取り入れてしまう気質や自由さ」と、「メニューを(中華料理の中で)ラーメンに絞ってしまったことによる、広がりの無さの反動」があるからではないか。無論、メディアに取り上げられやすいがゆえの話題作りという側面もあるだろう。
もちろん、その根本には顧客を喜ばせたいというマインドがあるわけで、特になじみ客を(飽きさせない)ためにいつもと違うメニューを用意するというのも、商売としては当然の考え方でもある。
だが、看板のレギュラーメニューで人を集めるのも、それを完成させるのも大変なのに、そんな簡単に質の高い限定メニューがポンポンと生み出せるわけでもない。必然的に、質の低い限定メニューが世の中に溢れることになる。ゆえに、限定メニューにはむしろ興味がないという人も多い。基本のラーメンが美味しければ、それだけで何度も通う理由になるからだ。
だが、「期間限定」に惹かれる日本人の傾向には、もうひとつ重要な要素がある。それは、季節感を大切にしていることだ。気候変動の影響か、四季それぞれの期間の幅が崩れてきているが、それでもなお四季を愛で、それを食材の旬と結びつけて食を楽しんでいる。
ラーメンの限定には、こうした四季や旬を絡めた、“毎年同じ時期に、季節に合わせた同じメニュー”を提供している店がある。ポイントは「同じメニュー」だということだ。単なる思いつきではなく、高級食材を切り札とするわけでもなく、レギュラーメニューのように磨き上げて定番化させる、言わば「準レギュラーメニュー」である。
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季節の食材と出会うことで、ラーメンはひとつステージを上げた
そんな季節限定のメニューをいくつか紹介する。今回は「春」。 春の食材でラーメンによく使われるものといえば、鯛、ハマグリ、桜えび、ホタルイカのような、もともと相性の良い魚介類が多いが、近年は山菜や菜の花、新玉ねぎなどにフォーカスした、実に日本らしいラーメンも登場してきている。
和食に準ずるものから、スープに溶け込ませるもの、彩りとしてトッピングするものと使い方は様々だが、暖かくなる時期ということもあり、つけ麺で表現する店も多い。つけ麺は別皿トッピングで提供されることも多いメニューなだけに、こういった季節のメニューに向いているといえる。
まず取り上げたいのは、戸塚にある[森や]だ。[森や]を一言で言い表すことは難しいが、ラーメンを通して日本の豊かな食材や文化を表現している店と言える。生産者を大切にし、食材を愛し、食べ手が食べるまでの「ラストワンマイル」としての立場に徹し、それらの力を活かすことに腐心する。ゆえに、春夏秋冬で魅力的なメニューが揃う。
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[森や]のアカモク潮そば
春に登場する限定で今回取り上げるのは、アカモクとニラである。アカモク(ギバサ)は春先に瞬間的にピークを迎える海藻で、特有の粘り気とシャキシャキとした歯ごたえが心地良い。[森や]では塩ラーメンに合わせ、ミネラル分たっぷりの海の中をあたかも表現しているようである。ただ、毎年わずかな期間しか提供していない。
ニラはどちらかといえば夏のイメージがあるが、春と冬に二度旬を迎える。特に露地物は春先のものが良く、[森や]ではそれを醤油ラーメンにトッピングする。ただ、それだけである。綺麗に拭き上げられ、ピンと伸びたニラは、細かく刻んで存在を際立たせるわけではなく、そっと添えられるのみ。だが、このニラは、スープにおぼろげに香りを広げていくさまが絶品だ。まさに食材のパワーを引き出して、その事実に気付いてもらうことをコンセプトにした、森やらしいメニューと言えよう。
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[森や]のニラそば
もう一つの食材は芹(せり)だ。もともと原種はかなりクセがある食材だったが、品種改良によって質が上がり普及した。宮城県が有名だが、秋田県の三関(みつせき)が質の高いブランドとして大人気である。特に春先の芹は柔らかく、根っこも美味しい。
早くから芹をラーメンに取り入れた店といえば、[麺や七彩]のグループだ。全国各地の食文化を、自らの手打ち麺のラーメンに落とし込み続けている。芹は先のニラ同様に、基本は乗せるだけ。シンプルなラーメンに旬の質の良い野菜を乗せるだけなのに、なぜこれほどラーメンに良い影響を与えるのだろうかと感嘆する。
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[食堂七彩](都立家政)で提供される芹かしわそば
薬味として、もしくは主たるトッピングとして機能する。日本蕎麦やうどんでは、天ぷらにしたり、スープをカレーにしたりしてバランスをとるものだが、ラーメンの力強いスープが素の素材を活かしてくれるのが、いかにもラーメンらしい。
次は、夏。百花繚乱の冷やしの世界を追ってみる。 読者の皆さんの身近にある春の限定メニューも、ぜひ聞きたいところである。

- ラーメン考古学者 / Ramen Archiver
渡邊 貴詞 / Takashi Watanabe
IT、DXコンサルティングを生業にする会社員ながら新旧のラーメンだけでなく外食全般を食べ歩く。note「ラーカイブ」主宰。食べ歩きの信条は「何を食べるかよりもどう食べるか」
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