ここは日常を愛せる場所。
朝から深夜まで、恵比寿[akao]という開かれた選択
JR恵比寿駅の東口から徒歩5分。開けた道沿いに、やわらかなレモンイエローをまとった店がある。恵比寿の空気にすっと溶け込みながらも、通りすがりの人の足をふと止める、この店の名は[akao(アカオ)]。2025年12月にオープンした新しいカフェレストランだ。
恵比寿の人気ベーカリーカフェ[繁邦]の2号店
扉を開けると、開放感あふれるあたたかな空間が広がる。オープンキッチンに面したカウンターの背後には、時間の経過が育んだ味のあるヴィンテージのインテリアが目を惹くテーブル席。店内に置かれたフラワーベースやキャンドルホルダーといった小物一つひとつまで気が利いている。
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カウンターをやわらかく照らすユニークなテーブルランプは、京都のアンティーク照明・古道具店「ARUSE」のもの。ライブ感を味わえるゆったりとしたカウンターの背後にはテーブル席があり、いずれは2階部分も客席にしようと画策中
落ち着いた照明の中で、本を読んだり、談笑したりと思い思いの時間を楽しむお客さんの姿。洗練されているのに気を張らなくていい、なんともちょうどいい居心地だ。
それもそのはず。このカフェを手がけるのは、恵比寿の人気ベーカリーカフェ&レストラン[繁邦]のオーナーシェフである青木虎太郎さんと、目黒のレストラン[Kabi]でドリンク担当として活躍してきた長愛莉さん。腕利きの2人が手がけるというのだから、この絶妙なバランスの雰囲気にも納得だ。
構想から約半年でオープン
[Kabi]のイベントで知り合い、お互いリスペクトできるよい仲間として親交があったという青木さんと長さん。
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青木虎太郎さん(左から1番目)と長愛莉さん(左から3番目)を中心に、同世代のフレッシュなスタッフたちが日々店に立つ
当時はまさか一緒にお店を立ち上げることになるとは思っていなかったという。そんな2人に転機が訪れたのは、2025年の5月下旬のこと。なんてことない焼肉中に話が盛り上がり、「この人となら面白いことができそう」と新店オープンの決意を固めた。お互いの活躍を肌で感じながら重ねた時間や信頼が、[akao]として実を結ぶことになったのだ。
その1週間後には現在店が入る赤尾ビルを訪問し、即決だった。恵比寿で暮らす住民の生活道路に面した立地で、駅を挟んで反対側にある[繁邦]よりももっと日常の延長として立ち寄ってもらいやすい。物件が決まれば熱はそのままクイックに。青木さんの調理師専門学校時代の同級生や長さんの知り合い、飲食業界以外の人にも声をかけて協力してもらいながら準備を進め、決意から半年後の12月に異例のスピード感でオープンを迎えた。
日常のすぐそばに、想像以上の美味しさで。
人々の暮らしの近くとあって、お店はなんと朝7時から開いている。
「朝、コーヒー片手にホットケーキを食べられる場所が近くにあったら誰だって嬉しいですよね」と青木さん。ホットケーキの他にも、クロワッサンサンドや温かいスープなど「ちょっと嬉しい朝ごはん」が揃っている。
朝9〜10時はモーニング、10〜15時はブランチメニューを用意する。朝食で人気のメニューが「ホットケーキ」。しゃれた「パンケーキ」ではなくより馴染みのある「ホットケーキ」という呼び名にも心をつかまれた。添えられたレモンを搾れば、やわらかな甘さに酸味が加わり、味わいがふっと引き締まる。
「どら焼き」の生地から発想を得たという焼きたてのホットケーキ。こんがりと焼き色がついた外側はさっくり、内側はふかふか。一口食べると想像以上の濃いうまみが口に広がる。このうまみの正体は、生地に配合した全粒粉だそう。噛めば噛むほど全粒粉の風味が広がり、ぱらりとかけられた美味しい塩とほどよくとろけたバター、コクのあるはちみつが相まって、口の中が幸福感でじんわりと満たされた。
[akao]では、青木さんの父・哲夫さんが営む高円寺の人気パン屋[しげくに屋55ベーカリー]の絶品パンも楽しめる。パンの盛り合わせも捨てがたいが、まずはブランチとディナーの時間帯に提供される「akaoトースト」を頼んでみてほしい。名前の通り[akao]のシグネチャーメニューで、[しげくに屋55ベーカリー]の定番「やわらかパン」をさっと温め、小豆島産の生ハムとオリーブオイルをたっぷりあしらったシンプルなトースト。直球で間違いない組み合わせだが、パンのやわらかさと生ハムのとろける脂が混ざり合い、期待を軽く超えてきた。
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「akaoトースト」と長さんのノンアルコールドリンク「苺とローズとドライトマトジュース」のばっちりな組み合わせ
どれも奇をてらった斬新な組み合わせと言うよりは、間違いなく美味しいと安心して頼めるメニューたち。だけど一口食べればたちまちわかる。「ふつう」や「いつもの」を愚直に突き詰めるのが[akao]の美学なのである。予想の一歩、二歩先の味わいに思わず頷き、また訪れようとすでに心に決めた。
[akao]では軽食を楽しむだけでは終わらない。18時からのディナーは予約制で、前菜・メイン・パスタと充実した食事メニューをアラカルトでしっかり楽しませてくれる。オールデイの居場所となりうるのだ。
赤身の力強いうまみをまっすぐ味わえるお肉は、山形牛の中でも最高ランクの「雪降り尾花沢牛」を使用する
「メインにはぜひこれを」とおすすめされたのは、牛の内もも肉のステーキ。火入れは、炭火で。炭火の遠赤外線の効果によって水分を逃がさず、肉のジューシーさを最大限に引き出しつつうまみをぎゅっと閉じ込める。そこに炭の香ばしい香りが重なり、上品ながらも食べごたえ抜群のステーキだ。
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肉の火入れを担当するのは、炭火調理を得意とするレストランで腕を磨いた若林佳太さん。カウンターの目の前に炭台があるため、目の前で調理を拝見できるのもカウンター席の特権だ。目にも落ち着く火のぬくもりを感じながら、若きシェフの真剣なまなざしと一挙手一投足、目の前でステーキが仕上げられるライブ感に気分が上がる
カフェレストランという場がもつ、誰にでも開かれたパブリックさ
青木さんがかねてより営む[繁邦]は、[akao]と同じく恵比寿に店を構える。2024年にオープンして以来お客の絶えない人気店として確立しつつも、異例のスピード感で新たに店を始めようと思った理由が気になった。
「自分自身が変化することなく、同じところに留まっていても意味がないと常々思っていて。どんどん前に進むための一つとして新しいことをはじめようとした時、カフェという業態が持つ、誰にでも開かれたパブリックさに心惹かれたんです」と返ってきた。
やわらかな口調ながら、まっすぐで力強い芯の存在を感じさせる言葉を選ぶ青木さん
「しっかり食事ができるレストランとなると、単価がある程度高くなって客層が限られますよね。この店は人を選ばず、色んな人に開けた空間にしたかったので、朝〜昼はカフェ、夜はレストランとオールデイで。特別な日もいつも通りの日も選びたくなる、カフェレストラン。その中に、自分たちが表現したいことがあると思いました」
恵比寿の中でも人通りの少ない場所に位置する[繁邦]は目的客が多い。大きな通りに面した[akao]では、通りがかりの人が覗きこむ姿がよく見られ、近所に住む人は「ずっと気になってたんです」と訪れてくれるという。
レモンイエローの外壁に穏やかなレッドがよく映えるテラス席。わんちゃんのお散歩途中にちょっと朝ごはん、という幸せな1日のはじまりもいい
オールデイで、オープンで。
心地よく“開けた”姿勢は、[akao]のメニューにも表れている。例えばワイン。
カジュアルなブランチからしっかりとしたディナーまでさまざまな料理に合わせ、オールデイでワインを楽しめる。どんなワインを飲みたいかはシチュエーションごとにも違うから、店に置くワインのセレクトで設けたラインはたった一つ。「自分たちが好きな味」という潔さだ。
「恵比寿という土地柄、年配の方もいらっしゃいます。メインとするのはナチュラルワインですが、クラシックなワインまで色々揃えています」という長さん。
誰とでもすぐに打ち解けられる長さんのオープンで自然体な人柄も、この店の大きな魅力だ
「ワインのセレクトを担当するのは私を含めた3人のスタッフです。今まで働いてきたお店のジャンルがそれぞれ違うので、扱ってきたワインの傾向もばらばら。好きな味も違うから、バラエティに富んだラインナップはお客さんに喜んでもらえます。私たちもお互い勉強できるし楽しいですね」
また、長さんが得意とするノンアルコールドリンクも常に3〜4種類ほど用意する。洋梨のジュレがアクセントのすっきりしたラッシーや、ドライトマトとイチゴを浸けこんでベルガモットやバラで風味をつけた爽やかなジュースなど、どれも繊細な香りと味わいが後を引く。
お酒を飲まない人はもちろん、飲む人にとっても美味しい選択肢が増える。ドリンク一つからわかるように、どんな属性の人にとっても立ち寄りたくなる要素が、ここにはぎゅっと詰まっているのだ。
朝に提供する長さんオリジナルのラッシーは、「飲むヨーグルト」のイメージで考案したという。底に入っているのは洋梨のジュレ。ベルガモットの果汁と皮で爽やかな香りを添え、朝の空気に似合うよう軽やかに仕上げている
いつでも日常に寄り添う場所に
朝から夜までメニューが充実していて、時間帯によって多様に楽しめる[akao]。青木さんと長さんの2人におすすめの過ごし方を聞いてみたところ、予想外の答えが返ってきた。
「[akao]には特別なコンセプトはなく、来てくれる方の心地よさに委ねたいんです。過ごし方は、お客さん自身で自由に決めて欲しい」
こう話す2人の心の根幹には、「日常を大切に思う気持ち」が共通しているように思う。
「私は、人の日常が一番美しいと思うんです。特別な『非日常』を演出するお店はたくさんあります。私たちは、人が最も長い時間を過ごす『日常』の部分に寄り添いたい。お客さんそれぞれの『日常』を大事にできるお店でありたいんです」と長さん。
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青木さんは次のように語ってくれた。「今は、味噌汁と炊きたてのご飯と漬物という王道の朝ごはんを贅沢だなと思う時代になってきています。日々の営みの中で長い時間をかけて作ってきた当たり前を実現するのは、実は難しいんです。[akao]ではそういう当たり前や定番を突き詰めていきたい。試行錯誤しながら僕たちがいいなと思うことだけをひたすら続けることで、最後にはそれが[akao]の色になってくれるはず」
akaoオリジナルポストカートのデザインは @maxcollage
人々の過ごす「日常」は、いつも同じ形のままではなく、様々に影響されてゆるやかに移ろい続けるもの。[akao]もまたそんな日常のように、若くて熱いチームの推進力でささやかに変化し、毎日少しずつアップデートした表情を見せていくのだろう。
朝でも昼でも、夜でも。目的があってもなくてもいい。[akao]に行けばいつでも、美味しい料理とともに、日常の延長線上にある心地よい時間が約束されている。日常を過ごす「もう一つの居場所」が、恵比寿で待っている。
akao
〒153-0013 東京都渋谷区恵比寿4丁目27-2 赤尾ビル1F
カフェ 9:00〜15:00
レストラン 18:00〜24:00
定休日 月、火曜日
※キャッシュレス決済のみPhoto by Taro Oota(写真 太田太朗)IG @taro_oota
Text by Ofuchi Maho(文 大渕真歩)
Edit by Nanako Aoki(編集 青木南凪子)