連載「Gluten is Free!? 小麦は自由だ!!」#4

PEACE FLOWER MARKET


Yuki HanaiYuki Hanai  / Feb 1, 2026

あなたの忘れられない味は?

ある人のそれは、旅行先で出会った初体験の味かもしれません。大好きなあの人と食べた幸せな味を思い浮かべる人がいれば、小さな頃から慣れ親しんだ味を思い出す人もいるはず。 

私は“スコーン”と聞くと必ず思い出す味があります。それは、[PEACE FLOWER MARKET]のスコーン。 

手で半分にざっくり割って頬張りたくなるそれは、イメージするイギリスのスコーンと一味も二味も違い、ケーキのようなマフィンのようなここでしか出会えない特別な味。“サクッ”から“ほわぁ”とほどけ包まれるやさしい高揚感に、つい帰ってきたくなってしまうのです。 
学生の頃、横浜散策をしている時に初めて出会ったその味は、私のスコーン観(!?)をガラリと変え、衝撃とも呼べるほど強い記憶となって今も刻まれています。  

ーどうしてこんなに惹かれてしまうのだろう? 
第4回目の今回は、その答えを探しに横浜・山手にある[PEACE FLOWER MARKET]のお店へ。オーナーの佐布ゆう子さんを訪ねました。 

横浜の街で

取材に訪れた時はクリスマスシーズン。店内も外も外国のような飾り付けが可愛い。 
ワンチャンのお散歩がてら立ち寄れるようになっています。 

今回訪れたのは2025年6月に移転された新店舗。以前の元町のお店から徒歩10分ほどに位置する横浜山手エリアは、外国人居留地として横浜開港の歴史と深く関わり、歴史的な教会や洋館が今も残されています。洋館巡りや散策を楽しむ人も多く、外国の方と地元の方が自然に行き交う日常を感じられる横浜らしい風情のあるエリアです。 

生活の延長にあるもの 


ほわっと甘いお菓子の香りに包まれる店内。“ずっとやっていることは変わってなくて特別な仕事をしている感覚はないんです”と話す佐布さん。

PEACE FLOWER MARKET]の歩みは2006年から。実はお菓子ではなくフラワーレッスンから始まりました。お花のお仕事もお菓子を焼くことも、お家で家族に振る舞うことから始まったと言います。家族のいる空間のためにお花を生け、庭の植物の手入れをする。子供のためにお菓子を焼く。それをずっと続けているだけなの、と20年経った今も自然体でそう話してくださる佐布さんのストーリー、ますます知りたくなりました。 

お花屋さんは突然に。

はじめは小さなお教室から。順調に生徒数が増えていく中、その人気は噂となって、新たな発展を呼びます。 

当時石川町にあった大きなお花屋さんの物件が空いたことで、その大家さんから「花屋をやってみないか」と直接オファーがあったのです。お花屋さんとしての初めの一歩。二階まである一戸建てという広い空間を、自分の花屋だけでは広すぎるとためらっていたところ、知人から、店舗を始めたい洋服屋さんを紹介され、カフェをやりたい人も現れて話は進み、3店舗でお店をオープンさせました。1階にお花屋さんとカフェ、2階に洋服屋さん。始まってみるとお花屋さんは大盛況。フラワーレッスンの生徒さんがすでに250人(!)いらっしゃったことに加えて、口コミでも広がり、元町の中でも大きなお花屋さんへと成長していきます。 

花屋の隣で、スコーンを焼き始めた日 

順調に進むかと思いきや、花屋のお隣のカフェが出ていってしまうことに。代わりのお店がなかなか決まらない中、来てくれたお花屋さんのお客さんや生徒さんに向けて、そのカフェの場所を使ってコーヒーを出すことを決めます。

最初はドリンクだけ。その後、オーブンなどの設備が揃っていたこともあり、まずは一番簡単なスコーンを焼いてみました。すると近所の方々が気に入ってくださり、美味しいからもっと焼いてと応援くださったそう。とはいえ、その頃のスタッフの日記を見返すと1日にスコーン20個を売りきるのに日々奮闘していた痕が。順風満帆にみえる歩みも、日々トライ&エラーを繰り返し積み重ねてきたことがよくわかります。 

あの日を境に変わった価値観 

 
今の形のようにお菓子のバリエーションを広げて、お客さんがさらに増えていったきっかけみたいなものはあったのでしょうか?伺ってみると、予想していない答えでした。それは「東日本大震災」。母の日には大きなトラックで三回集荷をかけないといけないほどお花の需要があったはずが、震災の後から価値観は変わり、お花業界が落ち込んでしまいました。 

カフェとお花屋さんは隣同士。お花屋さんよりもカフェの方が自動的に伸びていく中、長年構えられた元町のカフェへと展開していきます。私が通っていたのもこちらのお店。どこかの国のような、それでいてどこの国にも当てはまらないような大らかさがあるオシャレな店内に、ずらりと並ぶゴツゴツとチャーミングな焼き菓子たち。ドアを開けたら出会えるその景色をいつも楽しみに伺っていました。 

 “デザイン”するということ 

お花屋さんとお菓子屋さんにカフェの運営。全く異なる業界へ広がることへの躊躇いはなかったのかお聞きすると、お花もお菓子を焼くことも同じ感覚なのだと教えてくださいました。 

お花の先生に加えて、フラワーデザイナーでもある佐布さん。お客さんの希望に合わせて自分のセンスでお花を装飾する、花束を提案する。それはお菓子屋さんにも通じるのだと話します。レシピ作りはデザイン感覚に近い。花を組み合わせるように何と何の材料を合わせるか決めていく。どんなサイズ感やスタイルにして、どういう袋に入れて販売するのか、全て自分自身のセンスの中で決めていくもの。お客さんがどう受け取るか考えながら、自分のデザイン、作品としてお店のカウンターに並べる。それで評価されれば売れるし、評価されなければ売れない。形は変わってもどちらも同じく表現の場所なのです。ね?一緒でしょ?って笑う佐布さんに、大きくうなずいている自分がいました。 

そして、お花もお菓子も“家で家族に振る舞うこと”が原点。作っている時が幸せで、純粋に好きだから続けているのだと。日々たくさんの焼き菓子を焼き、お花のレッスンも精力的に続けられている佐布さんの瞳には一点の曇りもなく好きがあふれています。 

手で作り続けるワケ 

PEACE FLOWER MARKET]のスコーンを食べると印象に残るのが、そのオンリーワンな食感。スコーンってよく、サクッとしているとか、ザクザク系とかほろほろ系とか形容されると思いますが、そのどれにも当てはまらない。 

周りはごく薄皮でさっくりしていて、中はほかほかと柔らかくほどけたかと思ったらしっとりと儚く口溶けていく。その秘密をお聞きしてみると、お店で売るための作り方ではなく、ベースが家族に食べさせていたものだからだと知ることができました。 

スコーン作りの始まりは前述の通り。専門店をやろうと意気込んでスタートしたのではなかったから、家庭用のどこにでもあるサイズのボウルで、1から全部、手で作りはじめて。それは今もずっと変えていないのだそう。スコーンの質感を守るため、バターの温度には人一倍こだわっている。このサクっとした食感の秘密はここ。佐布さんは、“家族のために作っていたものだから特別なことはしていない”とおっしゃるけれど、だからこそ、その美味しい笑顔のために手間暇をかけて作られているのだと腑に落ちました。なんてことないようでいて、何にも負けない強さを持った秘密を発見した気持ちです。 

家族に食べさせたいもの=ママレシピ 

実はレシピの始まりは、ママレシピ。娘さんがインターナショナルスクールに通っていた繋がりで出会った海外の方を含め、各家庭のお母さんたちが受け継ぎ作ってきたレシピを、佐布さんが自己流にアレンジを加えて作られている。言うなればこれは「ママレシピ」。国を超え各家庭がミックスされた感じが、どこの国風などに縛られないここにしかないスコーンになっているのかなと感じます。 

ずっと変わらず大事にしているモットー、“焼きたてのほっこり温かい焼き菓子を食べて、ほっこり温かい気持ちになってほしい”。これこそまさに、家族のために焼いてきた気持ちなのですね。 

人気の三つはこちら 

目移りしてしまって自分では選べなくて、佐布さんに人気のものを選んでいただき、外のベンチでいただきました。寒い季節にはストーブをつけてくださいます。
 「クランベリーホワイトチョコ」(左) 

佐布さんが洋館「エリスマン邸」のクリスマス装飾を手がけた際に、建物内にあるカフェからのオーダーで、エリスマン邸の冬のクリスマスをイメージして作ったのが始まりのスコーン。今ではクリスマスだけでなく長く愛されるお菓子に。 

ファーストタッチはカリッと。サックサクの薄衣に驚く間にも、繊細に繊細にほどけていく外側。露わになった内側はホワイトチョコの甘やかでミルキーな風味が広がり、ふわふわの柔らかさが待っていました。プチッと弾けるクランベリーにニヤリとしてしまいます。お話を聞いた後だとこの優しさがさらに沁みました。こぼれることとか考えずに、手でザクッと半分に割って頬張りたい! 

「リンゴのマフィン」はマフィンの中で1番最初に登場した人気者。半月のように乗っかるリンゴがアイコニックです。ヨーロッパとかではよくみるスタイルなのだそう。 

マフィンは、さらにふわんふわん、ほわんほわんと柔らかい。 

とはいえ、カリッとした表面はこちらも健在です。しっかりと焼き目のついた香ばしさが映え、まるっとのったりんごはジューシー!ツルりと綺麗な皮がついたりんごは、水分を残した生感と焼かれて味がキュッと濃縮された旨みとの良いとこ取り。ん?この風味は?特徴的な香りの正体をお聞きすると、ブラウンシュガー。マフィンは全てブラウンシュガーを使っているのだそう。頭を空っぽにして委ねたくなるふわふわのクッションに、鼻いっぱいに小麦の香りとブラウンシュガーの風味が広がり、甘やかしてくれます。 

「アールグレイのスコーン」も根強い人気の一つ。持ち帰ってお家でも楽しみました。 

一口目からアールグレイの香りがぶわり。上にかけられたアイシングがしゃりっと割れ、薄氷のようにスッと溶けていく。 

サクリと表面が崩れたら、鼻いっぱいに届いてくる紅茶の香り。言わずもがなの食感のコントラストに便乗して畳み掛けてくるではありませんか!ああ、なんていい香りなのと、鼻をうずめたくなる気持ちをどうにか理性で抑え、代わりに口いっぱいに頬張ります。余すことなくこの温かい気持ちを受け取れた気がして、心が解けていきます。  

原点に戻ってお菓子を作る 

 
お菓子は毎朝作り、店頭に並べる。今日の分を今日に焼く。このシンプルさもまたママの焼くお菓子だなぁと。近所の方や常連さんなどずっと通われている方に加えて、外国のお客さんも多いのだそう。横浜は客船の寄港地でもある。船の海外クルーもよく来店するのだとか。まさに、世界のママの味だ。 

長年体力の限りお菓子を焼き続け経営してきたカフェでの営業を終了し新店舗に移転した今、これからの目標をお聞きした。 


これからは、佐布さんの中に温めているレシピをもっともっと出してきいきたいとのこと。今では店頭に並んでいるショートケーキなどの生菓子も、カフェの時は忙しすぎて出すことが叶わず、移転後に作ることができたメニュー。昔人気の高かったマカロンとかレーズンサンドなどもリバイバルさせたい、と弾むお声を聞いていると、改めて今、原点に帰って来られたんだなぁと感じました。もう一度スタートを切られたのですね。 

ありとあらゆるお菓子を、お子さんが小さい頃から作っていた佐布さん。家族が笑顔で、ほっと一息つけるその瞬間のために、“いつもの”ボウルを使って手でこねてこねて作っていく。その過程も想いも、今も昔もずっと変わっていないことを、インタビューさせていただいた端々から感じました。だから私はふとした時に、こんなにもこの味に帰ってきたくなってしまうんですね。 

PEACE FLOWER MARKET]。フラワーレッスンから始まったその屋号は、お菓子のMARKETへその優しい想いと共に広がって、今も楽しみながら守り続けられている姿が現れたとても素敵な名前だなぁと感じます。 

横浜・山手の海外文化を感じられる街並みとともに、“みんなのママの味”のスコーンに、会いに行ってみませんか? 

Peace Flower Market
神奈川県横浜市中区山手町6-1 
不定休、営業日はIGから @peaceflowermarket 
焼き菓子とお花の購入はこちらから https://www.peaceflowermarket.com

🌷 横浜・山手の本店に加えて、下記店舗にてポップアップ営業中 🌷
@Brasserie AMI
横浜市中区石川町2-72-1

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