連載「クラッシュカレーの旅」#16
都会と畑と旅先と石臼と仲間達/東京・日本橋・石臼・叩き旅
畑に通うようになってもう4~5年が経つだろうか。
キッカケは「ハーブカレー」という新しいカレーのスタイルを思いついたこと。スパイスの香りが際立つスパイスカレーの兄弟分とも言える、ハーブを主体としたカレーだ。メソッドを構築するためにハーブと仲良くなる必要があった。
身の回りにいる色んな顔ぶれを思い起こしてみると、既にハーブと仲良くしている何人かが浮かんだ。僕は新しいことを始めるときには決まって仲間に声をかけたくなる。独りでやるよりも刺激的で楽しくなることを知っているからだ。
数名に声をかけ、「ザ・ハーブズメン」というグループを結成することになった。僕は仲間に声をかけたら決まってグループを結成したくなる。なんとなく連帯感が生まれることを知っているからだ。
まもなくロゴマークを作った。ボブ・マーリーのアルバム「African Herbsman」を参照して僕が下絵を描き、デザイナーに渡した。僕はグループを結成したら決まってロゴやグッズを作りたくなる。気分が高揚することを知っているからだ。
畑通いはまもなくスタートした。千葉の四街道にある畑にメンバーが集まり、思いのままに野菜やハーブを収穫し、調理して食べ、おしゃべりして解散する。それだけの活動である。
そこそこ忙しく各方面で活躍している大人たちが時間を作って足を運び、なんのためでもなく調理して語らう。続ければ続けるほどハーブは身近になってくる気がした。そんな畑の男たちが都会に集まったのは、2024年の秋のことである。
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仲間で畑に集まってばかりいないで、町へ出てイベントをしようということになったのだ。メンバーそれぞれが得意分野の料理を披露する。僕はハーブカレーではなく、クラッシュカレーを作った。
自慢の石臼(タイ・アンシラー産)を持ち込み、緑の香り玉と赤の香り玉を叩く。どちらもクミンシードやコリアンダーシード、ホワイトペッパーなどドライのホールスパイスから叩き始め、唐辛子と塩を叩き、レモングラス、カー、にんにく、と続く。水分の少ないものから多いものへと順に潰していくのが鉄則だ。
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前半はお客さんに石臼を叩いてもらう体験をしてもらい、できあがった香り玉で後半にカレーを仕上げた。石臼を叩いて素材を潰し、香りを生み出す。実際に経験してみたいことにはあの香りは堪能できない。思わず目を閉じたり声を上げたりしてしまうような香りの初体験は説明しようがないのだ。
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様々な人のクラッシュを詰め込んだ香り玉ができると、奥の調理場へ持ち込んでカレーに仕上げた。赤も緑も明るく美しい油がじんわりと浮いている。畑で作ろうが都会で作ろうが、鍋の中は変わらない。見慣れた景色に安堵した。
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クラッシュカレーというのは、ハーブカレーが発端となって生まれたものである。「ハーブも偉いけれど、もっとすごいのは香りを生み出す石臼の方なんじゃないか!」と思うに至り、石臼でクラッシュ! を中心に置いたカレーを開発することになったのだ。
以来、世界中の市場で石臼を探し、買いあさっている。コレクションは10種類を超えた。かつて世界のあちこちで石臼が活躍していたのだ。今も現役のエリアはほとんどないのだけれど。
去年の秋に行った都会のイベントを振り返ると、珍しくメンバー7人が全員した写真がある。イベントの終わりに撮影したものだ。全員が疲れた顔をしていることはともかく、なんだか変な感じがする。いつも畑で会っている人が都会に勢ぞろいしているからだ。
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畑の男たちは都会になじまない。「ザ・ハーブズメン」というグループとしての活動拠点は畑。興が乗ってメンバーで海外を旅することもある。これまでもトルコやペルーを旅した。来年はアルゼンチンへ行こう、と盛り上がっている。畑や旅先でばかり顔を合わせているメンバーが都会で別人に見えるのは無理もないが、アウェイで叩くのも楽しいものだと知った、東京・日本橋・石臼叩き旅であった。

- AIR SPICE CEO
水野 仁輔 / Jinsuke Mizuno
AIR SPICE代表。1999年にカレーに特化した出張料理集団「東京カリ~番長」を立ち上げて以来、カレー専門の出張料理人として活動。カレーに関する著書は40冊以上。全国各地でライブクッキングを行い、世界各国へ取材旅へ出かけている。カレーの世界にプレーヤーを増やす「カレーの学校」を運営中。2016年春に本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を開始。 http://www.airspice.jp/
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