エディターズノート

「RiCE」第33号「ラーメン」特集に寄せて


Hiroshi InadaHiroshi Inada  / Feb 20, 2024

2014年初となるRiCEはラーメンの特集です。前回好評だった「あなたのラーメン」からちょうど2年ぶり、創刊以来3度目のラーメン特集となります。2年なんてあっという間、などと侮るなかれ。ラーメンの世界はとんでもなくスピーディ。時代は大きく動いていますの で、前回読まれた方もそうでない方も、ぜひとも今号で最新の流れを追ってみてください。

今回の特集タイトルは「ラーメン哲学」にしました。ラーメンと哲学?なんだかマッチングの悪い言葉を無理矢理くっつけて奇を衒っているのでは。そんなふうに感じる方もいるかもしれません。たしかにラーメンほどポップな響きを持つ言葉(でありフード)は日本人にとってないほどですし、対して哲学ほどトガって響く言葉(であり学問)もなかなかないのではという気もします。そう、まさにこの大きなギャップにこそ今回の特集の狙いがある。

一つには、他でもないラーメンの自由さです。これだけ多大なポピュラリティを誇り、かつ巨大なファンダムを抱えながら、バリエーションがあまりに豊富過ぎ。極端にいえば、作り手がラーメンといえばそれはラーメンであり、何をどう表現したっていい。もちろん食べ手との対峙があって経済が成り立つわけで、そこにガチンコの実存があらわれます。スープ、出汁、麺、具材…すべての要素が変数となるなか、店主は「自分にとって最高の一杯」をお客に差し出すことになる。その強靭な意志と努力を支えているのがラーメンかくあるべしという哲学だと思うのです。まずはそれが知りたい。

もう一つは、ラーメンってそもそも一体なんなのか? という根本的な問いです。先述の通り、ラーメンはめちゃくちゃフリースタイルで、 日々新しい美味しさの定義がアップデートされ ていきます。でありながら、ある特定のラーメ ンを食べたとき、われわれは「懐かしい」とホッとさせられることがよくあります。「これなら 毎日食べられる」なんて呟きながら慈しんだり。 まるで自分にとっての理想のラーメン=イデアがあるかのよう。この大きなギャップ、あるいは引き裂かれのようなものは、一体どこに由来するのでしょう。

ラーメンとは何か? ラーメンはどこから来 てどこへ向かっているのか? 答えは無数にあるとも言えるし、正解はどこにもないとも言えるでしょう。これだけラーメン愛に溢れるラーメン社会を生きながら、いやだからゆえ、ラーメンそのものを真正面から見つめたり俯瞰したりすることが難しくなっている。ラーメン愛はもう前提であって、その先にあるものを見据え、 未来を作っていくべき時なのかもしれません。

ご承知のとおり日本は今年最初となる日に大変な災害に見舞われました(能登半島地震で犠牲になられた方々には心よりお悔やみを、被災された方々には心よりお見舞い申し上げます)。しかし日本に住む限り、こうした可能性は常にあると心得ねばなりません。ただそんな時、ラーメンがどこから来たのかと思いを馳せます。 温かいラーメンはいつも日本人を元気にし、ど んな時にも立ち直る力を与えてきたのではなかったか。まだまだ寒い日が続きます。美味しくアツいラーメンを食べて頑張りましょう。

 

Illustration by Masakatsu Shimoda

RiCE No.32「特集 ジャパンスピリッツ新時代」についてはこちらから

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