最新グルメからローカル屋台まで。タイ探訪 -2-
テーブルがない屋台。お膝の上で味わうタイカレー
屋台はみんなの食卓。タイに住む人々の胃袋を支える。そんな日常の風景は、静観するだけでもしあわせが生まれている気がする。不思議な存在だが、きっとそこに体温を感じるからだろう。
今日はずっと行きたかったヤワラー(バンコクの中華街)のカレー屋[ジェックプイ]へ。ヤワラーは、バンコクに来たら必ずプランにいれてほしい屋台天国の街だ。早朝からはじまり深夜に盛り上がりをみせる。いついってもおいしいものに出会えるエナジェティックな街。以前はタクシーかバスでしか行くことができなかったが、ここ数年でMRT(地下鉄)が通り格段に行きやすくなったのもいい追い風。
椅子に座って囲む様子は、アメリカ映画に出てくるグループセラピーみたい。「こんにちは、ぼくはジョー」 「こんにちは、ジョー」(全員が言う)のような会話にみえて、こないか。
[ジェックプイ]の最大の特長は、「食卓がない」。真っ赤なプラスチック椅子がぽこぽこと20席ほど横に並び、イートイン客はお膝の上にお皿を乗せていただくOLのお弁当のようなスタイル。
店は15時ごろにオープンということで、16時すぎに訪問。カレーの種類は8種類ほどで、壁に写真付きのメニューがあると店のおじさんが教えてくれた。椅子に座り、店員さんに声をかけてオーダー。お持ち帰りも歓迎で、その列はローカルな人で絶えない。この日はせっかくなので、イートインでグリーンカレーとお米をオーダーし、帰りにパネーンムー(豚のレッドカレー)とカノムチーン(素麺のような米粉の細麺。カレーと一緒によく食べる)をテイクアウトした。
すぐに注がれたグリーンカレーがやってくる。〈AURALEE〉のカラーパレットのような淡いグリーンのルーは、素朴でやさしい。でも単調なやさしさだけでなく、見事にハーブが際立ちこの店の個性が陰で光る。ふだん口にしていたグリーンカレーがいかに着飾った華やかな出自か、チューニングのように味覚の現在地を知る。お米は正直特別においしいというわけではなかったが、この店はあくまでも日常の食堂といったところだろう。
翌朝、テイクアウトした「パネーンムー」をいただく。が、これが驚くほどおいしかった!!!!!!!
2つのカレーに通じていえることは、細かく砕かれたハーブの分子ひとつひとつが香って、辛み、甘みの宇宙を織りなす。油っぽさは皆無で、決して単調ではない生活に寄り添うカレー。毎日食べられるカレーとは、こういうものなのだろう。カノムチーン(そうめんみたいな麺)はちゅるちゅるでルーによく絡まりおいしい。ルーはさらっとしているくせに、脳に記憶をばちんと刻む決定力の高さ。時折みつかる煮崩れたにんじんの甘みがオアシスのようにやさしい。ああ、いいものを食べた〜😭
水は横のボックスの中から取り出す[味坊]ライクなセルフサーブスタイル(10バーツほど)。
食べ終わったら通りの向こうにある大きなバケツの中へお皿を下げる。日本にもこんなふうに夕暮れ時から椅子を並べて、卓なしでカジュアルに飲めるお店があったらおもしろいかもしれない。近所にテイクアウト専用のお店もあるのだとか。
JEK PUI CURRY
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(Edit by Ai Hanazawa)
- writer
野崎 櫻子 / Sakurako Nozaki
1991年生まれ。マガジンハウス「&Premium」編集部を経て、制作会社でウェブメディア、企業SNSのコンテンツ制作、ディレクションを行う。2023年9月に独立後、学生時代に習得したタイ語を武器にバンコクへ赴き、最新グルメからローカル屋台まで幅広く練り歩く。日本では良き酒と肴を求めて夜な夜な酒場へと集う日々。