連載「琥珀色の余韻を過ごす〜スコットランド滞在記〜」#3

密造酒から世界へ。命がけで守り抜かれた「生命の水」の歴史を辿る [グレンリヴェット蒸留所]


Yuki HiguchiYuki Higuchi  / Apr 20, 2026

スコットランドのケアンゴームズ国立公園に、ウイスキーの歴史を語る上で欠かせない蒸留所があります。その蒸留所こそ、世界的にも人気の[ザ・グレンリヴェット(The Glenlivet)]。ウイスキー好きにとって、そこは単なる蒸留所ではなく、近代ウイスキーの歴史が産声を上げた「聖地」とも呼べる場所かもしれません。

連載第3回となる今回は、この地への訪問を軸に、ウイスキーの歴史を辿ります。

「生命の水」の起源はどこ?

ウイスキーの起源を辿ると、「ウシュクベーハー(Uisge Beatha)」という言葉に行き当たります。これはゲール語で「生命の水」という意味。この言葉が変化した結果「ウイスキー」という名前になりました。(どう変化したらウイスキーという発音になるの?)

この「生命の水」は一体どこで生まれたのでしょうか。

実はその正確な起源は、いまだに謎に包まれたまま。アイルランドの修道僧が、キリスト教の布教とともに伝えたという説もあれば、スコットランドの農民たちが、余った麦を有効活用するために造り始めたという説もあります。

確かなのは、1494年、スコットランドの公文書にその存在が記されていたこと。しかしながら、起源が特定できないほど古くから、ウイスキーは人々の生活に寄り添い、愛され続けていたようです。

1824年、“政府公認”スコッチウイスキーの誕生

転換点を迎えたのは、1824年のこと。ジョージ・スミスが、新しい法律のもと、政府からハイランドで第1号となる政府公認の蒸留免許を取得しました。今回訪れたのは、この現代に繋がる道を切り拓いた[グレンリヴェット蒸留所]です。

当時、重い税金を逃れるために多くの蒸留所が「密造」を行っていた時代。政府公認となることは、周囲の密造者たちから「裏切り者」として命を狙われる危険を伴うものでした。それでもジョージ・スミスは、護身用のピストルを手に、高品質で合法的な酒造りをスタートしました。

その後、「グレンリヴェット」の名があまりに有名になったため、近隣の蒸留所がこぞってその名を真似するように。裁判の末、1884年に唯一無二の本物であることを示す「THE」を冠することが認められたエピソードもあるほどです。

始まりの地[グレンリヴェット蒸留所]へ

居候させてもらっているRothesという町を出て、車でおよそ30分。丘を何度も超えた先に、ケアンゴームズ国立公園の看板が。その看板を越えてすぐ、[グレンリヴェット蒸留所]が現れます。

増築を重ねたスコットランド最大級の蒸留所。ビジターセンターのつくりもかなり贅沢なつくりでした。ハンドフィル(樽から直接、自分の手でウイスキーを詰めるボトル)はじめ、蒸留所でしかゲットできないボトルのラインナップも充実。

蒸留所ツアーは、グレンリヴェットを語る上で欠かせない創業者ジョージ・スミスの話から始まり、動画も交えながら実際の製造現場へと案内してもらいました。蒸留設備は巨大で壮観。熟成を行うウェアハウスでは、熟成によるウイスキーの変化や樽ごとの香りの違いを楽しめるコーナーもあって、体験として楽しめました。

グレンリヴェットはフルーティでバランスがよく、初心者の方にこそぜひ最初に飲んでほしいウイスキー。価格も良心的で、手に取りやすいのでオススメです。

個人的にはテイスティングに出てきた蒸留所限定の「グレンリヴェット15年 1st fill シェリーカスク」が好みの味。シナモンやレーズン感、クリスマスに出てくるシュトーレンなどを思わせる甘みがあるウイスキーで思わずボトルも購入。充実した滞在となりました。

今や世界的人気を誇るジャパニーズウイスキー

歴史に話を戻して、日本とウイスキーの関わりについても最後に触れてみます。

スコットランドで築かれたウイスキーづくりの伝統は、のちに「ジャパニーズウイスキーの父」とも呼ばれる竹鶴政孝によって日本に輸入されます。もしかするとNHK朝の連続ドラマ小説『マッサン』を通じて知っている方もいるかもしれません。

彼は1918年に単身スコットランドへ。いくつかの蒸留所で修行を積んだあと、日本で初めてのモルト蒸留所が誕生したのは、1923年のこと。サントリーがつくった[山崎蒸留所]で、初代工場長としてウイスキーづくりをスタートさせました。

彼がスコットランドで学んだウイスキー造りが礎となり、今やジャパニーズウイスキーは世界的な賞も獲るようになり、世界で愛されるように。

スコットランドの高品質なウイスキーづくりも、グレンリヴェットはじめ多くの人の手によって繋がれてきたと思うと、ウイスキーの熟成年数だけではない、人の情熱による継承が今のウイスキーの魅力に繋がっているように感じます。

ウイスキーの歴史に思いを馳せる

今、私たちが飲んでいるウイスキーには、数えきれないほどの歴史が溶け込んでいます。

・ウシュクベーハー(生命の水)として飲まれていた遠い過去

・1824年の合法化を巡る勇気ある決断

・美しい自然の中で守られてきた伝統

・海を越えて高みを目指した先人の情熱

私たちがおいしさに浸るその瞬間は、そのウイスキーがつくられた時間に加え、何世紀にもわたる積み重ねの上に成り立っています。そして、今なお、各蒸留所ではさらなるおいしさを求めて、試行錯誤が繰り返されています。

これから、みなさんはどんなウイスキーに出会うのでしょうか。長い歴史に思いを馳せながら、ウイスキーという名の「生命の水」を、楽しんでいきましょう。

 

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