
連載「軽井沢の静かな食熱」#5
[duca farm]のサイケデリック・パラダイス
毎月ケータリングをすることは、大学時代から5年くらい続いている。「よい食って?」を聞く隔月のインタビュー企画も、これまで録りためてきて、何編にも連なってきた。
食という切り口がくれたのは、誰かのためにつくる、一緒に食べる、ただおいしいなど、機能や情緒の話のみならず、同じ興味関心を持った友だちと出会うということでもあった。

時にポップアップ、ケータリング、ワークショップ、記事の執筆、その時々の文脈に合わせて食に関わることは、私の生活に必要な空気みたいなもの。
20歳くらいから、それがあるのとないのとでは、まるで異なる生き方になったのだと思う。
料理をするという動的な行いのなかで、自分の想像を超えて自然と開けていく新しい世界への探究心で満ちている。

そう考えると私にとって料理は、誰かにとっての毎日ルーティンのように、私の身体のなかにリズムを刻んでくれるものらしい。
思えば、食に対して考えを持つようになったのは、大学生の頃に農家巡りを始めたことだった。産直サイトのメディアが投稿した「全国の農家取材に同行してくれる学生募集中!」という企画を見て参加した。
サイトCEOが、各都道府県ごとに、とりわけ惹かれれる生産者のもとを訪ねて歩くキャラバン。そのなかで、果樹や野菜栽培、米農家、漁師と出会った。
畑や海を見ていくうち、私の思っていた、どこか牧歌的な農業のイメージが瓦解した。
環境課題や継承者問題、のっぴきならないものへと目を向けることは、気持ちが沈むようなところもあったけれど、不思議と食との関わりは切れることがなかった。
そのときどきで感じたことを形や言葉にしようとすると、畑にいるつくり手ではなく、キッチンを飛び出して食卓に立つ、つたえ手の立場がしっくりきた。

キッチンを介したケータリングや、媒体を通した記事発信という現在の仕事に結実している。
御代田で、そうした自分の原点を思い出させてくれるのが、浅間山の麓で[duca Farm]を営む、通称づかさんこと飯塚悠介さんだ。

実家がされているブロッコリー、香味西洋野菜やハーブ、エディブルフラワーなどを多品目少量で栽培し、飲食店やマルシェへと届ける。
山小屋、有機農業、日本酒の酒蔵、スキー場――。日本各地の季節労働をぐるぐるとスピンしてきたというづかさん。
実はDJもしたり、気づいたら畑の横でサウナができてるし、ブンブン蜂が飛んでるなと思えば養蜂まで始めてて、留まることのないづかワールド。
サイケデリック農法を称するポップな彼の畑は、新発見の宝庫。東京からの友人を迎えて早々、づかさんの畑に連れていくと、まずふかふかとした土に手をつっこむように言われる。その土があたたかいのは、無数の菌がまさに発酵している最中。
友人たちにとっては、めかしこんだ服で畝に横並びになって土に手をつっこんだことが、最も記憶的な旅の思い出となったらしい。
先日、御代田にある複合施設[Mmop]のイベントで、づかさんと私はコラボ出店した。うちの暖簾では旬のかぶのみを扱う大胆なマーケティング。
ポタージュもおいしくできたけれど、それよりもっとサプライズだったのが、彼に教えてもらった秘伝のレシピ、かぶアイス。

アイスといってもあの冷たいアイスじゃなくって、皮をその場でづかさんが剥いて、まるっと食べる、それだけ!
ソフトクリームを頬張るかのように、かじりついている。こんな光景を見ようものなら、と言わんばかりに、お店には人だかりができた。
づかさんは出店中にも畑に出勤。私に店を預けて畑から3往復して、次々とかぶを補充していく。これが本当のFarm to table!私もそのグルーブ感にまるごと乗っかる。
づかさんとは、「生産者と買い手」なんて窮屈な関係ではないなと思う。
好きなときに好きなだけ野菜をわけてもらい、根セロリやパースニップ、サヴォイキャベツなどなど。私にとって新しい野菜のことを滔々と話してくれる。時々、東京にも送ってくれる。
たいそうなことでなくていいから、必要なときに、必要な距離でつながるという心地よさを教えてくれた気がする。

軽井沢・御代田エリアの農家さんを集めて主催したマルシェ
生産者との対話や土地の営みに関わるようになってから、私は自然と、その土地の歴史や文脈をリサーチしていくことに没頭した。
かつて高知などで使用されていた生姜の貯蔵庫、通称生姜穴の地域性について研究発表をしたり、中高校生と山口をフィールドワークして郷土料理を再編集する教育プログラムをつくるなど、好奇心そのままに。
食の生産や摂食の営みそのものを社会的・文化的な媒介として捉え、自分なりの方法論ですくい取っていくこと。食を通じて新しい未来や社会との接続を模索する実験を「フードスケープ」と呼ぶらしい。


原宿キャットストリートに自生する野草を見つけるワークをしたとき。そのほとんどは普段聞き馴染みのない野草。野草をつかった和菓子を通して、何気ないまちの景色が違って見える時間
フードスケープ、ひとつの言葉の方位磁針をもらってから、自分のなかで少しずつやりたい形が見えてくるようになった。
こうした表現へのアプローチは、ランドスケープデザインや現代アート、あるいは映像制作といった異分野の文脈から食の世界へと飛び込み、独自の風景を立ち上げている先人たちの存在とも重なる。
街全体を巻き込んで食の文化祭を開くスイスの「フード・カルチャー・デイズ(Food Culture Days)」など、そのフロンティアは自由で批評的だ。
先日の韓国の旅では、各地の農村を歩き、お年寄りたちの言葉から土地の食をすくい上げる「spoken recipe(口承レシピ)」の活動に出会った。
お年寄りたちの口伝えで伝わるレシピを採集し、テーブルの上でその土地性を鮮やかに立ち上がらせるハミさん。

見ず知らずのわたしにDMひとつで会ってくれた彼女と話すと、おぼろげながらある自分のなかでのイメージにぐっと手が届いたような気がした。
土地の営みや記憶を、目の前の一皿に翻訳して、誰かの身体に届け直すこと。
先日行った展示で、「レストラン」の語源が、人を元気にするための「滋養スープ」だということを知った。

食卓はひとつの皿からはじまる、といってもいいのかもしれない。
づかさんのかぶのポタージュに溶け込んでいたのは、きっとそんな土地の体温だと思う。

- [ii eat]主宰
安重 百華 / Momoka Yasushige
2000年、山口県生まれ、東京在住。軽井沢との2拠点生活中。ライフスタイルメーカーで広報を務める。フードツアーの企画運営や、土地の食材を生かしたケータリングを行うユニット[ii eat]主宰。フリーペーパー「口果報」では[ii eatな風景]を連載中。ゲストを迎え「いい(良い・善い・好い)食ってなんだろう?」を考える。
IG @ichinohika
Momoka Yasushige
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Sakurako Nozaki 
Hiroyuki Aoyama 
Jinsuke Mizuno 
Keita Sasaki 
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