
ビールというより、飲む「ライタ」?
幡ヶ谷loom × ブルーミンが仕掛ける「ビリヤニに合う」クラフトビール
ウチワサボテンを使ったフルーツエール
今回のコラボレーションにあたり、戸田さんは「どうしてもこのキャラクターにビリヤニを食べてもらいたい」と熱望し、びーるもんすたぁがビリヤニを食べているイラストを特別に描きおろしてもらったという
専用のオリジナルグラスに注がれた、鮮やかなピンク色のフルーツエール。その名も「トゲがあっても、いいのでしゅ」。一見ふざけたネーミングだが、味わいは確かだ。
飲み疲れしないライトな飲み口。材料のウチワサボテン由来のスイカやきゅうりのようなウリ感と、グァバを思わせるトロピカルフルーツ感の両立した香りが立ちのぼる。
ビリヤニに合うビールを作ったと聞いたら、多くの人はスパイスの効いたクラフトビールを想像するかもしれない。
しかし、幡ヶ谷のビリヤニ店[loom]の戸田さんと富山県氷見市のブルワリー[ブルーミン]の山本さんがたどり着いた答えは、「あえてビール側にはスパイスはいれない」というものだった。
インドでは一部のビリヤニに「ライタ」というヨーグルトサラダのようなものがついてくることがある。ビリヤニでこってりした口内をリセットするための箸休め的な存在だが、このビールのもつフレッシュさはまさにそのライタの役割に近い。
温度が上がるにつれてほんのりと塩味が感じられるようになってくるのだが、実はこれは、ビールの醸造タンクの横でビリヤニを炊き、バスマティライス(戸田さんは”バスごめ”と呼ぶ)の茹で汁を醸造タンクに忍ばせたことに由来する。
戸田さんの目指すビリヤニ
[loom]で提供しているビリヤニは自由だ。型を身につけた上でたどり着いたリベラルなビリヤニといえよう。
大鍋で炊かれるビリヤニ。この日は大山鶏のビリヤニととうもろこしのビリヤニをいただいた
修行先であった石川の[ジョニーのビリヤニ]はイスラム文化のルーツを尊重し絶対に店では豚肉は使わず、ハラールなチキンやマトン、ビーフなどを使ったビリヤニを中心に提供していた。戸田さんはそれを尊重しつつも、日本の旬の食材を大胆に取り入れる。ホタルイカやザリガニ、トウモロコシ、時には宗教的タブーとされる豚肉さえも「美味しさ」のために選択する。
「いまビリヤニをやっているのは本当にたまたまなんですけど、ハレの日の料理でありながらも寛容なフォーマットでみんなでわいわい食べられるのがいいなと思います」
と語る戸田さんだが、いまのビリヤニの形にまっすぐたどり着いたわけではなかった。
押上のスパイス料理の名店[スパイスカフェ]で、彼はワインやお茶を料理に合わせるペアリング担当としてキャリアをスタートさせた。その後、スパイスカフェの系列店でありモダン・スリランカ料理を提示する[ホッパーズ]の立ち上げ、ミシュランの星を見据えてモダンネパール料理を追求する[オールドネパール]と、常に最前線の現場で感性を磨いてきた。
オールドネパールを離れた後に出会ったのが、石川を拠点とするビリヤニ専門店[ジョニーのビリヤニ]だった。たまたま渋谷のポップアップの際に皿洗いのアルバイトを手伝ったことがきっかけで声がかかり、石川県野々市市の本店でしばらく経験を積むことに。
やがて店長として富山の新店舗[ザバルダスト富山]の立ち上げも任された。北口の再開発エリアを盛り上げるべく出店した店だったが、立地に恵まれず1年足らずで閉店。それでも戸田さんは、富山の食材や酒とは一生骨を埋めるつもりで向き合ったという。[ブルーミン]との縁は、この時期に育まれたものだ。
冷めて完成するビリヤニ、という発想
戸田さんが[loom]でビリヤニを炊き始めてから一年少し。いままで様々な具材を試してきた。具材が変わる分、あえてバスマティライスのブランドは[アンビカ(Ambika)]の「ビリヤニバスマティライス」に固定してきた。
アンビカのビリヤニバスマティライス
日本で流通しているバスマティライスは、大きく分けると「パーボイルド米」、「パースチーム米」、「生米(無加工の白米)」の三種に分けられる。パーボイルド米は、籾殻がついた状態のまま一度お湯につけてから蒸し上げ、乾燥させたのちに精米する加工がされており、通常のバスマティライスよりも粒立ちと伸長性に優れる。パースチーム米は蒸す工程のみを経ている分、パーボイルド米と無加工の生米との中間に位置する存在だ。
戸田さんにとってビリヤニは、スパイス料理、インド料理という深い世界へ誘うための窓口という位置づけ。マニアックな人たちに来てもらうのも嬉しいが、ライトなユーザーにもビリヤニを知ってもらう入り口となり、誰もがわいわいとご機嫌に楽しめる料理であってほしい。だからこそ目指すのは冷めても美味しいビリヤニ。
「クラフトビールを飲みながらゆっくりと会話を楽しむバーのシーンでは料理が冷めてしまうのは必然。でも、この米は冷めることでより一層ビールとの相性が深まるんです」
「縦」ではなく、わいわいご機嫌に楽しんでもらう「横」のペアリング
「コース料理のように1対1で正解を提示する『縦のペアリング』は、かっこいいんですが、ややかしこまったフォーマルなものになっていく。そういうのも好きですが、僕はひとつの料理に対して複数の酒を並べて自分なりの『合う』を勝手に見つけてもらう『横のペアリング』を提案したい」

スパイスカフェのペアリング担当としてキャリアをスタートさせた戸田さんであるが、[loom]ではあえて「合わないかもしれない」選択肢も含めた複数のビールやワインを提案するという。
「あ、これ意外と合うね」「こっちは全然ダメだ(笑)」。みんなでワイワイ楽しみながらそんな会話が生まれること自体が食の豊かさであると、彼は強く信じている。
イベント情報
場所:loom(渋谷区幡ヶ谷)
8月29日(土)11:00〜 22:00 :ローンチ・ナイト
富山から[ブルーミン]の山本氏が来店。オリジナルビール「トゲがあっても、いいのでしゅ」ほか数種類のビールをタップ(樽生)で提供する。作り手自らが注ぐ一杯は、缶で飲むのとはまた違うフレッシュな感動を与えてくれるはずだ。
8月30日(日)12:00〜 22:00:東京マサラ研究所ジャック・インド料理バー
ゲストに「東京マサラ研究所」を迎え、オリジナルビールに合わせたインド料理やおつまみが並ぶ。戸田さんの作るウチダザリガニのビリヤニも。
※店舗は両日とも25時まで営業
loom
東京都渋谷区幡ヶ谷2-13-4
水・不定休
IG:@loom__hatagayaPhoto & Text by CurryPhilosopher

- Researcher of South Asian Food Anthropology
カレー哲学 / Curry Philosopher
カレー哲学者・インド料理研究者。「日本にインドを作る」ことを目指す小さな料理R&Dスタジオ「東京マサラ研究所」代表。
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大鍋で炊かれるビリヤニ。この日は大山鶏のビリヤニととうもろこしのビリヤニをいただいた
アンビカのビリヤニバスマティライス
Hiroyuki Aoyama 
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