連載「クラッシュカレーの旅」 #22

破れる殻と破れない殻がある/東京・新宿・石臼・叩き旅


Jinsuke MizunoJinsuke Mizuno  / Jun 16, 2026

ベトナムを旅した。同行したミュージシャン(兼カレー店店主?)と夜、ライムソーダを飲みながら語らったとき、音楽の話になった。

「水野さんってパンクは聴くんですか?」

「そんなに詳しくはないけれど、一番聴いたのはザ・クラッシュかなぁ」

「いま、そう言おうと思ってました。水野さん(のカレー活動)って、ピストルズよりもクラッシュっぽいな、と」

どう解釈するかはともかく、嬉しいセリフだった。ベトナム・ニャチャンのビーチを眺めながら、気持ちよく、ぬるい夜風を吸い込んだ。

ザ・クラッシュのジョー・ストラマーには少なからず影響を受けている。「パンクはスタイル(形式)じゃない、アティテュード(態度)だ(水野の意訳)」という彼の言葉をずっと心に刻み込んでいる。パンクロッカーではないが、常にパンク魂を携えてカレーと向き合っているつもりだ。

そうじゃなければ、「クラッシュカレー」だなんて、わけのわからないものを世に生み出すはずがない。

自著『クラッシュカレー』が出版されてちょうど1年が経った。

いや別に「ザ・クラッシュ」と「クラッシュカレー」を結び付けようと思っているわけではない。だってあっちは「THE CLASH」、こっちは「CRUSH CURRY」。英語のスペリングが違う。全く別物である。

とはいえ、クラッシュカレーの開発にパンク的要素を込めていることは確かだ。そもそも石臼で叩き潰すのだから。調理中に『LONDON CALLING』のアルバムジャケットが一度も浮かばなかったといえばウソになる。ギターを石の杵に持ち替えて振り下ろす。音が鳴り響く代わりに香りが立ち上る。

今からちょうど1年前、『クラッシュカレー』本の出版記念イベントを行った。石臼を持ち込み、参加者がかわるがわるに石臼を叩き、香り玉を丸めた。作ったカレーは2種。60人以上分だったから、香り玉のサイズは規格外。赤の香り玉も緑の香り玉も美しい球体に仕上がった。

クラッシュカレーは叩き潰すという行為だけにパンク魂を込めているわけではない。従来の自分のなかにあるカレー作りの殻をいくつも破って生み出したものだ。

ドライとフレッシュ、スパイスとハーブを織り交ぜながら香りを生み出す点は、刺激的。出会ったことのない香りがやってくるからテンションも上がる。スパイスと発酵調味料を合わせるという取組みはかつてから何度も試行錯誤しているものの、本当に納得いく形を見いだせたのはクラッシュカレーが初めてだ。

フルーツを加えて煮込むという要素も部分的には試してきたが、必然性という点ではクラッシュカレーが上。ノンオイルで作るカレーも他では経験がなかった。ココナッツミルクをグツグツさせて油分を分離させ、そこに香り玉を加えて香りと色味を移していく。

自分の殻をあれこれと破った結果、えもいわれぬ美しさとおいしさに出会える。残念ながら、体験した人にしか届かないものだ。出版記念イベントに参加してくれた方々には存分に体験してもらえたと思う。

さて、肝心な本の評判はいかがなものだろうか? 手に取ってくれた人、直接会った人からは、高評価や嬉しい感想をたくさんいただいている。それ以上のことはわからない。

僕は自分の作品についてのレビューは見ない。少なくとも10年は、ネット書店などの自著のページは開かないよう注意している。

100の絶賛があっても、心無い言葉が1あれば、すべてがゼロになる。僕は自分がそういうタイプの人間だと自覚している。ジョー・ストラマーはどんなタイプだっただろうか。

世の中には出会うべくして出会える人間関係と、互いに出会わない方がいい関係がある。後者については自分の殻を破ってまで危険を背負う必要はないと思う。

クラッシュカレーと出会い、カレーライフをより豊かにしてもらっている前者の方々は、きっと今頃は石臼を自宅の片隅に置いてくれていることだろう。そんな人たちとこれからもどこかで遭遇する幸せを夢想して暮らしていきたい。

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