MIDNIGHT TACOS

渋谷の夜に、カルニタスを。


RiCE.pressRiCE.press  / Jun 9, 2026

朝4時まで営業する[タコストリート]

深夜0時を過ぎても、人の流れが絶えない街がある。渋谷・道玄坂。バーを出た人、クラブへ向かう人、仕事を終えた飲食店スタッフ。それぞれの夜を過ごす人たちが交差するこの街で、最近ひとつの光景が生まれている。

ラーメンでも牛丼でもない。
タコスを食べて帰る人たちだ。

道玄坂上交番前の交差点から246へと続く通り沿い。クラブやバーが集まる渋谷の夜のど真ん中に、[タコストリート]はある。

20254月、渋谷駅と神泉駅の間にオープンした[タコストリート]。朝4時まで営業するこの小さな店には、今日もカルニタスを求める人たちが集まってくる。店を立ち上げたのは、渋谷でバー[Conquistar]などを営む鈴木勝己さん。そしてタコスづくりを担うのが加藤健さんだ。

加藤さんは独学でタコス作りを続ける中、青山ファーマーズマーケットで出会った[タコス トレス・エルマノス]のカルニタスに衝撃を受けた。パクチーすらのっていない。見た目も決して派手ではない。それでも圧倒的に美味しかった。

「その時に、見た目じゃないんだなって思いました。飾ってないのに、めちゃくちゃ美味しかったんです」

“ケンタコの愛称で親しまれる加藤さん。厨房から「いらっしゃいませー!」と元気な声で客を迎える。その姿はまるでストリートの屋台の主人のよう。

その日からカルニタスは、加藤さんにとって特別な料理になった。2023年からは「ケンタコ」名義で間借り営業をスタート。都内各地を巡りながら、自身のカルニタスを磨き続けてきた。そんな加藤さんのタコスに惚れ込んだのが鈴木さんだった。「ポップアップをやるたびに食べに行ってました。本当に美味しかったんですよ」。

やがて二人は交流を深めるようになる。その頃、加藤さんは店を持ちたいと考えていた。ただひとつ譲れない条件があった。「タコスはストリートフードだから、路面店じゃないとやりたくない」。その言葉を聞いた鈴木さんは思わず笑ったという。「生意気だなって思いました(笑)」。だが同時に、その覚悟にも惹かれていた。

そんなタイミングで偶然にも鈴木さんが営むバーの目の前にある、現在の物件が空くことになった。渋谷と神泉の中間、クラブやバーが集まるこの場所は、ストリートフードであるタコスを出すには理想の立地だった。

カルニタスの専門店

[タコストリート]のメニューは潔い。カルニタス一本。

カルニタスは2Pから12Pまでオーダー可能。数種類のサルサで味わいに変化をつけながら、自分だけの組み合わせを見つけたい。

加藤さんのカルニタスは、銅鍋で一度に大量に仕込むのが特徴。肩ロースを中心に、ガツ、皮、ロース、モツ、耳、バラなど、豚一頭のさまざまな部位を組み合わせている。

営業しながら銅鍋で豚肉を炊き続け補充していくスタイルは、まるでメキシコの屋台のよう。

「メキシコでは部位ごとに楽しむ文化もあるんですけど、うちはミックススタイル。結局それが一番美味しいと思っているんです」

それぞれの部位が持つ食感や旨味が重なり合うことで、一口ごとに異なる表情を見せる。さらに煮込んだ肉は、提供前にもう一度フライパンで炒める。

「ずっと煮込んでいるので、最後に脂を飛ばして軽くするんです。重たくなりすぎずさっぱり食べてもらえるように」

オーダーごとに肉を刻み、トルティーヤへ。手際よく包丁を走らせる姿に、ストリートフードらしい勢いが宿る。

隠し味には醤油や味噌も使う。本場への敬意を持ちながら、日本人ならではの感覚も自然に織り込んでいる。

 「特別なことをしているわけじゃないんです。いろんなお店の良いところを吸収して、自分なりに積み上げてきただけです」

そう話す加藤さんだが、その言葉の裏にはカルニタスを追い続けてきた数年間の試行錯誤が詰まっている。

肉をカットしたら、あとは早い。トルティーヤにのせ客の手元へ、テンポの良さが心地いい。

ストリートだから生まれる景色

タコストリートは4坪ほどの小さな店だ。だからこそ面白い。目の前で肉を刻み、トルティーヤに包み、客へ渡す。その一連の流れがすべて見える。

狭い厨房の中では34人のスタッフが息を合わせて作業。次々と入る注文をさばきながら、タコスを爆速で提供していく。

タコスを2枚だけ食べてさっと帰る人。立ち話をしながらビールを飲む人。偶然隣り合った客同士が会話を始めることも珍しくない。まるで海外の屋台のようなライブ感が自然と生まれている。

できたてのカルニータスが次々と届けられる。

この店にはスタッフも個性的な面々が集まる。一度タコスの現場を離れ、フレンチへ進んだ後に戻ってきたマヤさんは、客として通い始め、その味に惚れ込んで働き始めた。 イタリア出身のスタッフもいる。「タコストリートは楽しいし、美味しいですよ」。シンプルな言葉だが、この店の空気をよく表している。

普段はラッパーとしても活動するスタッフも。音楽やファッション、カルチャーの匂いをまとった人たちが自然と集まるのも[タコストリート]らしい。

「みんな個性的なんですよ」。そう言って笑う加藤さんに「お店をやっていて、一番楽しい瞬間ってどんな時ですか?」。そう聞くと、少し考えてから答えた。

 「仕事していて、理想通りになったなって思う瞬間ですかね」。例えば、と続ける。「スタッフの子が仕事終わりに、お客さんで来ていた方と一緒に帰っていく姿とか見ると、最高だなって思うんですよ(笑)。マジで思います。そのぐらいイケてる人たちが集まってるってことじゃないですか」

意外な答えかもしれない。だが話を聞いていると、それが加藤さんにとっての理想の店の姿なのだと分かる。

「もちろん、お客さんの笑顔とか、そういうのもめちゃくちゃあります。でも、やっぱりスタッフが喜んでる状態が一番気持ちいいですね、僕は」

タコスを求める人たちで、店内はあっという間にいっぱいに。入りきらない客たちが通りへあふれ出す光景も日常になった。

[タコストリート]はカルニタスの店であると同時に、人が集まり、人が育ち、それぞれの居場所になっていく場所でもある。

“〆タコス”という新しい文化

タコストリートの面白さは、時間によって集まる人たちが変わることにもある。夕方から夜にかけては、近隣で働く会社員や学生たちが中心。仕事帰りにビールとタコスを楽しみ、友人と語らいながら過ごしている。一方で、各地のタコス店を巡るタコスフリークたちも足繁く通う。

できたてのタコスにかぶりつく。一人でも、仲間と一緒でも、みんながタコスに夢中。これがタコストリートの日常だ。

取材中にも、「いろいろ食べ歩いてきたけど、この店が一番うまい」という声や、「行きつけのタコス屋の店主に教えてもらって来ました」という声が聞こえてきた。

転機となったのは今年の初め頃だった。Instagramのグルメアカウントで紹介されたことをきっかけに、その評判が一気に広がった。「それから急にお客さんが増えた感覚があります」と鈴木さんは振り返る。

ビールもいいが、おすすめは瓶コーラ。頬張ったタコスを爽快に受け止めてくれる。

4坪ほどの店は連日満員。店に入りきらなかった客たちがタコスを片手に通りへあふれ出し、その光景自体が今やこの店の風景になっている。

そして、時間が進み、終電が近づく頃になると店の空気はさらに変わる。深夜0時を過ぎるとクラブ帰りの若者や飲食店スタッフたちも集まり始める。朝4時まで営業していると聞くと、少し入りづらい場所を想像するかもしれない。しかし実際は、マナー良くタコスを楽しんでいる人が大半だ。

22時を過ぎ、会社員も、学生も、クラバーも。夜が深まるにつれて客層はさらに多彩に。渋谷らしい混ざり方がここにはある。

「渋谷のこの場所ですけど治安がめちゃくちゃいいんですよね。だからその辺がうちの良さだと思います。わちゃわちゃしてるけど、クレームがくるほどじゃなくて、『あそこ今日も人いるね』くらいの感じで終わるんです。そういう人たちで囲まれている状態がすごく気持ちいいなって思ってます」と加藤さん。

だからこそ、一人でふらりと立ち寄る人もウエルカムだ。クラブ帰り、バー帰り、会社員、学生、タコスフリーク。さまざまな人たちが同じ空間でタコスを囲みながら、それぞれのペースで夜を過ごしている。

タコスの先にある風景

鈴木さんが描いているのは、「〆タコス」という文化だけではない。[タコストリート]があるこの通りそのものに、大きな可能性を感じている。通りの向かいには、自身が12年営むバー[Conquistar]がある。そのほかにも、ヒップホップMCDJが営む店など、カルチャーに根ざした店が点在している。若い頃からブラックミュージックに親しみ、渋谷で遊び、その文化の中で過ごしてきた鈴木さん。アメリカ西海岸やメキシコのストリートカルチャーにも強く影響を受けてきた。だからこそ、この通りで実現したい景色がある。

厨房を飛び出し、客との会話を楽しむ加藤さん。「いらっしゃいませー!」の声が今日も通りに響く。

DJが音楽を流し、ローライダーが停まり、その横でタコスを頬張る人たちがいる。大人も子どもも集まり、自然と会話が生まれる。

「この通り全体をBLOCK PARTYみたいにできたら最高ですよね」

一方で加藤さんが目指すのは、「24時間365日、いつ来てもタコスが食べられる店にしたいんです」。朝でも、真夜中でも。いつでも爆速でカルニタスが出てくる。そんな店を本気で目指している。そのためのセントラルキッチンも現在進行中だという。

渋谷の夜を眺めながら、談笑する鈴木さん(左)と加藤さん(右)。

カルニタスを売っているようで、二人が本当に作ろうとしているのは街の景色なのかもしれない。ラーメンでも牛丼でもない。タコスを食べて帰る。その一枚の先には、ストリートから始まる新しいコミュニティの姿が見えている。

TACOS SNAP

タコストリート
東京都渋谷区道玄坂1-20-2
火土 17:0028:00
水木金 12:0028:00
日月定休
IG @yes_kentaco

Photo by Ryo Nagata (写真 永田りょう)IG @nature_nagata
Text by Shingo Akuzawa
(文 阿久沢慎吾)

RiCE編集部からお便りをお送りしています。

  • 最新号・次号のお知らせ
  • 取材の様子
  • ウェブのおすすめ記事
  • イベント情報

などなど……RiCEの今をお伝えするお手紙のようなニュースレターを月一回配信中。ご登録は以下のページからアドレスとお名前をご入力ください。

ニュースレターの登録はコチラ
PARIYA CHEESE STAND Minimal Bean to Bar Chocolate
BALMUDA The Kitchen
会員限定の最新情報をいち早くお届け詳しく