RiCE編集部調べ。“必食”サイドメニュー!

〈東京三大〉春巻き


RiCE.pressRiCE.press  / Jan 13, 2026
つい、必ず頼んでしまうメニューがある。でも、それが主役として語られることは、案外少ない。いわゆる「サイド」と呼ばれる料理。主役にはなりきれないかもしれない。それでも口にすれば、その店がこの料理をつくり続けてきた理由や、料理人の熱い思いがきっと伝わるはず。目立たないけれど、店を支えているのは、案外こういう一皿だったりもする。そこで始めたのが、〈東京三大〉という企画だ。東京、そしてその近郊で“その店に行ったら、つい頼んでしまう一皿”を求めて。目的地になる一軒。教えたくなる一軒。行きたくなる一軒。この一皿のために行って、ちゃんと満たされて帰路につく。そんな自信のある店だけを選んだ。今回は春巻きをご紹介。

火の通り方がピタリと決まる。素材を絞り、エビを主役に[湯気・新中野]

新中野駅から徒歩7分ほど。素材の味を最大限に引き出し、味付けはあくまで引き立て役。しっかり食べても身体に負担が残りにくい、軽やかな中華で、オープン以来客足が絶えない[湯気]。「麻婆豆腐」や、焼きそばをケチャップ風に仕立てた名物「赤焼き」など魅惑的なメニューが並ぶ中、「エビ春巻き」も引けを取らない存在感を放つ。

天然のエビは身を切らず、大きめに。噛めば、ぷりっと弾け、きゅっと引き締まった身から甘みが広がる。かつて修業していた店では大葉を加えていたそうだが、ここでは具材をエビのみに絞り、素材の力でド直球勝負。店主の田口雄一さん曰く、ポイントは「8割火を通して、あとは余熱に委ねる」こと。揚げた直後に少し休ませることで、じっくりと芯部に火がはいり、食材本来の甘味が増す。小気味よいサクサクとした皮の食感と、後味の軽さも印象的だ。

着物をきちんと着こなす人が美しく見えるように、この春巻きも皮の端が揃い、皿に佇むだけで品の良さが滲み出る。無理に足さず、やるべき工程だけを丁寧に積み重ねた結果が、この整った一本に表れている。テーブルに運ばれれば、思わずピシッと背筋がのびる。味わえば、育ちの良さがわかる。そんな春巻きと出会える。

時季によって中身が変わる、[湯気]の春巻き。これからの季節には、エビに代わり、新雪のように真っ白な春巻きがスタンバイ。大根の浅漬けとホタテを包み、仕上げは山椒塩。冬にこそ食べたい、一品。

[湯気]
東京都中野区本町4-5-18
070-3861-8300
18:00〜22:00 LO 不定休(Instagramで確認可) IG @yuge_nakano

箸で持ち上げるのは至難の技!春巻き界の重量級[Chinese 元yuan・高円寺]

丸太のように、まるまる太った春巻きがごろり。断面いっぱいにエビが詰まったその姿は、写真を見ただけでもなかなかの迫力だ。箸で持ち上げようとすると、ずっしりとした重さに箸先が耐えられず、黄金色の春巻きが皿上にごろんと転がる。そんな立派な春巻きを作るのは[Chinese 元yuan]の店主・坂元裕太郎さん。帝国ホテルの[北京]や上海料理をベースにした名店[礼華]で腕を磨いてきた。お店はソムリエの奥様、常前茉希子さんとともに、高円寺と新高円寺どちらも10分ほど歩いた静かな住宅地に2022年にオープン。夫婦2人で切り盛りしているため、コースを中心に営業。それでも、この春巻きを追加のアラカルトで注文する人が後を絶たない。(時に2本オーダーする方も!)

「食感は非常に重要な要素」のため、エビはミンチにせず包丁で叩いて餡を作る。全て手作業で叩くことで粘りを出しつつ、エビの存在感を残す。巻き置きはせず、注文が入ってから一つひとつ巻いて揚げるのも約束事。和食のようなふわっとした春巻きではなく、空気を入れず「ぎゅっと巻く」ことで、密度が高まり、エビの食感と皮のパリパリ感が際立つ。頬張れば、粗く刻まれたエビから旨味が弾けて、豚の脂身のコクがすぐに後を追い、1本あっという間にぺろり。王者のような春巻きである。「揚げ物には柑橘が合う」という和食の料理人からの助言を受け、添えられるのはすだち。途中でひと搾りすれば、味がきゅっと引き締まり、また違った表情を見せてくれる。

切り株のようにゴロリと横たわる春巻き。皮が耐えているのが不思議なくらい、ぎゅうぎゅう。

[Chinese 元yuan]
東京都杉並区高円寺南2丁目53−1 フラットコウ 102
03-5913-9776
平日 17:00〜22:00  土日・祝日 15:00〜22:00
水休(不定休で火曜日) IG @chinese__yuan__

一期一会。包んでいるのは、旬そのもの[酒井商会・渋谷]

春巻きは、決して中華料理だけのものではない。春巻きの語源は、その名の通り「春を祝う」ことに由来するといわれている。立春の頃、新芽や旬の野菜を薄い皮で包んで食べる。季節の訪れを皿の上に閉じ込めたのが、春巻きの始まりだといわれている。中国発の料理ではあるが、土地が変われば中身も変わる。その時々の旬を包みながら、日本でも長く食べ継がれてきた。東京・渋谷に店を構える[酒井商会]の春巻きも、そんな大きな流れの延長線上にある。九州の食材を中心にした和食と、料理に寄り添う自然派ワインや日本酒を揃えるこの店は、訪れる季節によって皿の上の景色ががらりと変わる。

たとえば、1月〜2月頃までは「甘鯛ときんぴらごぼうの春巻き」。パリッサクッと軽やかな音を立てる皮にかじりつくと、中から甘鯛・紫蘇・ごぼうの三層が現れる。甘鯛のフワッとした甘みがトップノートとすれば、ごぼうの土っぽさがラストノートのように心地よい余韻を残す。その間を、紫蘇の青々しい香りが海と大地を繋いでいく。見事な三重奏!この組み合わせを成立させているのが、店主・酒井英彰さんならではの発想だ。これまでも、干し柿やいちじくといったフルーツ使い、すっぽん×餅、白子×リゾット風の玄米など、アイデアフルな組み合わせを試してきた。

今回の春巻きでも、ごぼうはあえて「きんぴら」に。ふわふわとした甘鯛に、歯ごたえのあるごぼうを合わせることで、食感のコントラストを際立たせている。ちなみに、酒井さんは無類の甘鯛好き。「店のメニューには必ずどこかに甘鯛を取り入れている」のが、今回の春巻き。特に山口県萩産の甘鯛にこだわり、現地漁港に直接足を運び、漁師から仕入れている。素材への向き合い方も下支えとなって、味は申し分なし。発想だけでなく、食材の選び方まで含めて、一皿として筋が通っている。ここまでくると、次の季節は何を包むのかが気になって仕方がない。そうやって虜になる人が続出なのだ。

ワインとの相性を考えて、仕上げにはすだちを添えて。山椒や柚子など、酸や香りの要素を積極的に取り入れるのも、ワイン好きが集まる店ならでは。

[酒井商会]
東京都渋谷区渋谷3-6-18 荻津ビル2F
17:00〜22:00 LO 不定休  IG @sakai_syokai_tokyo

 

Photo by Mishio Wada(AMI)  IG @mso_340
Text by Sakurako Nozaki

 

 

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