水産業先進国ノルウェーの目指す先<後編>
ノルウェーのベストレストランが語る、ノルウェーシーフードの魅力。
北欧ノルウェーは、世界有数の水産大国。全長2万キロを超えるフィヨルドと澄んだ冷涼な海が、豊かな生態系を育んできた。厳格な規制のもと営まれる漁業は自然と共生しながら次世代の海を守り、高品質なシーフードを世界へ届けている。
日本をはじめ世界中へ届けられる魚は、環境に優しく、そして高品質。支えているのは、最先端の技術と海洋マネジメントだ。資源を守りながら美味しい魚を育む、ノルウェー水産業の最前線を取材した。前編はこちら。
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Ålesund
ノルウェー人の多くが「もっとも美しい」と誇る、港町オーレスン。アールヌーヴォー様式の建築が美しく張り巡らされ、波打つようなデザインの屋根はまるで魚の鱗のよう。海と山がすぐそばにあり、国内屈指の漁場としての顔も併せ持つ。この小さな町で、日々魚と向き合い、新しい挑戦を続ける若き料理人がいる。
気鋭シェフが描く新しい魚料理 SJØBUA
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1987年に創業した老舗店が一度閉店を経て、2023年に復活。「魚料理のベストレストラン」を目指し、新鮮な魚介をドライエイジングなど独自の手法で調理する。洗練されながらも気取りすぎない空間で、コースでもアラカルトでもオーダーすることができ、カジュアルさとエレガントさを両立。窓外には海が広がり、行き交う船を眺めながら食事を楽しめる。
「魚は思い通りにならない。だからこそ可能性があるんです」
そう語るのは、港にほど近いレストラン[SJØBUA]の若きシェフ、Ondrei Taldk氏。1980~90年代に”ノルウェー最高のシーフードレストラン”と呼ばれた伝説の店を蘇らせたのが、この場所だ。窓の外にはすぐ海が開け、小さな船から大きな船まで目の前を行き交う。洗練されながらもカジュアルでアットホームな雰囲気の店内では、コースでもアラカルトでも気軽に地元の魚介を楽しめる。
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Ondrej氏は日々届く新鮮な魚と向き合いながら、独自の料理に取り組んでいる。特に力を注ぐのが、魚のドライエイジング。ハリバット (カレイの一種)やタラなどの魚を骨付きのまま切り開き、塩を施して2週間ほど吊るす。魚本来の旨味が引き出され、身はしっとりとしながらも、それでいて弾力を帯びる。
「熟成させることで味わいに深みが出るだけでなく、扱いやすくもなるんです。グリルしたときに崩れにくくなりますし、塩を足す必要もありません」
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ハリバットやタラなどを骨付きのまま切り開き、塩を施して乾燥機へ。2週間ほど吊るして熟成させていく。
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カレイの一種であるハリバットを14日間ドライエイジングし、シンプルにグリル。引き締まった身を噛むほどに、旨味が広がる。白ワインソースの酸味が合わさると、より深い味わいに。付け合わせのフェンネル、ポロネギと自家製のヨーグルトソースがアクセントとなり、奥行きが加わる。
魚と向き合う中で、魚料理ならではの難しさを体感しているというOndrej氏。魚は一つとして同じものがなく、形も大きさも、脂の乗り方も異なる。火入れが数秒ずれるだけで台無しになることもある。だが、繊細だからこそ、魚には無限の可能性があり、その奥深さに魅了され続けているそうだ。
いま彼は新たな試みとして、魚のソーセージづくりに取り組んでいる。ハリバットやマグロに、フェンネルや唐辛子などを組み合わせ、干し、乾燥させていく。いわゆる魚肉ソーセージのような練り物ではなく、数か月吊るして乾爆させる独自の製法で作り上げる。
「最初のテストでは大失敗。でも実験を重ね、乾燥するタイミングや送風の強弱を工夫することで、ようやく形になり始めたんです。来年には完成した姿を見せられると思います」
肉のサラミやハムのように、魚で”シャルキュトリー風のボード」を作る未来を思い描く。失敗を重ねても試作を続け、厨房の奥には吊るされた試作品が並ぶ。その姿は、探求心そのものを映し出している。
「スカンジナビアの食文化は日本にインスパイアされているところも多く、麹を使った発酵調理も取り入れています。米は手に入らないので大麦で代用しています。日本にもいつか行ってみたい。僕たちシェフからしたら、日本は憧れの場所ですから」
27歳という若さで、伝統ある店を率いるOndrej氏。オーレスンの静かな港町で魚と日々格闘しながら、新たな食文化を切り開こうとしている。
SJØBUA
Brunholmgata 1,
6004 Alesund, Norway🇳🇴
ノルウェーシーフードについてもっと知りたくなったら。
HP:https://www.seafoodfromnorway.jp
IG:@norwayseafoodjpPhoto by Yoshiki Tatezaki(写真 舘﨑芳貴)
Text by Yuri Tomita(文 冨田ユウリ)
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